過去も、香りも、嘘もまだ消えていない
- ★★★ Excellent!!!
夜が明けても、帝都は夢から醒めない。
早朝の帝都を駆けるシアンの胸にこびりついていたのは、
忘れたはずの女の香り。名前も、言葉も、触れた指先の感触も、
すべて記憶の奥に沈めたはずだった。
だが今、その残り香が再び鼻先をかすめる。
やがてザックのもとに舞い込む「依頼未満の話」。
消えた女。残された違和感。安すぎる情報と、高すぎる報酬。
浮かび上がってくるのは、忘れられた通りの名もなき記憶。
静かに進行する「なんでも屋」の調査。
だが、過去の影はシアンの心を蝕み、ザックの足元には奇妙な偶然が降り積もっていく。
噓が嘘を隠し、沈黙が真実を覆うとき──
すれ違ったあの女は、はたして依頼人か、それとも……。
これは、まだ夜の匂いが残る帝都で、
忘れたくても忘れられない者たちが出会い直す、静かな物語。