奪われた絆—教団という檻の中で

@Lots-of-answers

第1話 妹の失踪

雨上がりの夜、街灯の淡い光が濡れたアスファルトを照らしていた。

前田唯翔は、ひとり家路を急いでいた。冷たい風が頬を撫で、コートの襟を立てる。


彼には、守るべき大切な存在がいた。妹の前田紗月。

両親を早くに亡くし、二人だけで生きてきた。紗月は、彼にとって唯一の心の拠り所だった。


「帰ったよ」

家の扉を開けると、部屋は静まり返っている。


「あれ……?」

紗月の姿はなかった。スマホも、財布も、何も手つかずのままリビングに残されていた。


最初は家出かと思った。だが、彼女の友人にも連絡がつかない。

唯一の家族を失う不安が、胸を締め付ける。


警察は家出として処理し、捜査の手は動かなかった。

上司の言葉は冷たく、「もう少し様子を見ろ」と繰り返すだけ。


ある日、非通知の電話が鳴った。


「前田さんですか? 私は前川亜里沙。週刊誌の記者です。妹さんのことで話があります」


喫茶店で待ち合わせた。亜里沙は落ち着いた表情で封筒を差し出した。


中には、山奥の施設の写真と、貼り付けたような笑みを浮かべた女性たちの集合写真。

その中には紗月の姿もあったが、笑顔の中に光はどこにもなかった。


「彼女は簡単には戻れない場所にいる」

亜里沙の言葉は冷たく、闇の深さを感じさせた。


唯翔は心に誓った。

どんな危険があっても、紗月を取り戻すと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

奪われた絆—教団という檻の中で @Lots-of-answers

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ