屁ひり姫とくさやの国

稲佐オサム

第1話〜第5話(まとめ小説)

むかしむかし、ある山奥に――「屁ひり村(へひりむら)」という、実に香ばしい名前の村がありました。


この村では、なぜか代々、「おならの音と香り」によって地位が決まるという、不思議な掟がありました。


村一番の美女と名高い「おひる姫」は、その見た目の美しさもさることながら、放つおならがまるで能楽のようなリズムを持ち、芳醇な香りは三日三晩残り、村人たちの鼻孔を虜にしておりました。


「ぱふっ……ふぉおぉぉん♪」


それはもう、詩のようであり、祭のようであり、時には神の祝福のようでもありました。



第二話:くさやの国からの使者


ある日、遠い遠い海の向こう、「くさやの国」から使者がやってきました。くさやの国では、香りの強さと深さが、その者の“格”を表すとされており、国王の座も“最も鼻に残る者”に受け継がれるのです。


「我が王の鼻孔に届いたのだ。この村の“おなら姫”の芳香がな!」


そう、風に乗っておひる姫の一発が、はるばる海を越えて届いたのです。あまりの感動に国王は涙し、「この者こそ、我が次の王妃だ!」と叫び、すぐさま使者を送ったのでした。



第三話:おなら合戦~屁の大合奏~


だがしかし、屁ひり村には一人、おひる姫にライバル心を燃やす者がいました。名を「屁ノ助(へのすけ)」と言い、自らを「屁界の革命児」と称する者。


「姫の屁は上品すぎる。屁にもっと怒りと情熱を!燃えろ屁魂!」


屁ノ助は、腹に納豆と焼き芋を詰め込み、三日間ためた屁で勝負に挑みます。


「ぶぼっ……ぶぼぼぼ……ごふっ!」


村が揺れ、鳥が落ち、池の魚が浮かぶ威力でした。


が――その香りはあまりにも刺激的すぎて、牛が気絶し、木が枯れ、土が溶け出す始末。くさやの使者は鼻を押さえてこう言いました。


「これはもはや屁ではない。兵器である!」



第四話:姫の決断と伝説のくさや寿司


おひる姫は、くさやの国からの求婚に悩みます。


「わたしの屁は、この村だから愛されたのではないか?」


その夜、彼女は村のじいさまに相談しました。


「姫や、屁の香りは心の香りじゃ。どこへ行こうと、心をこめて屁をこけば、きっと愛されるさ。」


翌朝――おひる姫は決断します。


「わたし、くさやの国へ嫁ぎます! でも、ひとつだけ条件があります」


それは――自分が作った「くさや寿司」を、王に食べさせてから、真の愛を確かめるというものでした。


くさやと納豆と山羊のチーズを巻いたその寿司は、村中が倒れるほどの異臭を放ちました。


王「……これは……うまい!!」


王の鼻が曲がったまま二度と戻らなくなりましたが、彼の愛は本物でした。



第五話:屁のち晴れ、そして伝説に


こうしておひる姫は「屁ひり村の誇り」として、くさやの国の王妃となり、村では彼女を讃える「屁祭り」が毎年開催されるようになりました。


そして今でも、お祭りの夜には空にふわりとただよう、おひる姫のやさしい「ふぉおぉん♪」の音が聞こえるとか聞こえないとか――。



結び:


おならは笑いの源にして、時に愛をつなぐ架け橋になる。

――そんなことを教えてくれる、屁ひり村とおひる姫の物語でございました。

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