第7話

その夜、ツバサの部屋にノックの音がした。




「ツバサ、俺だ」




王太子だった。


いつものように穏やかで、何かを探るような声だった。




ツバサは扉を開けた。


王太子の顔を見た瞬間、喉の奥が詰まる。




「……久しぶり、ですね」




「少し……話がしたくて」




ツバサは頷いて部屋に招いた。


でも、心の奥ではずっとざわついていた。




(あの人が、“噂”を気にして来たんじゃないかって)




王太子はしばらく黙ってから、口を開いた。




「……最近、何かあったか?」




「別に。変わったことは……ないです」




嘘だった。


でも本当のことを言えば、信じてもらえない気がした。




王太子は、ツバサの顔をしばらく見つめていた。




「……疲れてるように見える」




「みんな、そう言います。だから、僕って……いつも疲れて見えるんですね」




皮肉のように笑って、ツバサはベッドの端に腰を下ろした。




「心配して来てくれたのは嬉しいです。


でも、“聖女”としてなら……気にしなくてもいいですよ」




王太子は何か言いたげに口を開きかけて、結局、何も言わなかった。




そして──帰っていった。








扉が閉まったあと、ツバサはゆっくりと息を吐いた。


王太子の手は、あたたかかった。


けれど、そのぬくもりは、心には届かなかった。




(信じたいのに、怖い)




誰かの優しさが、ただの“義務”や“同情”かもしれないと思うだけで、


胸がぎゅっと苦しくなる。




(僕……おかしいのかな)




そう呟いた声は、部屋の空気に溶けて消えた。

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処刑された聖女Ωが、もう一度愛されるまでの物語 みたらし @MITARASI_

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