第6話 やさしい毒





「ツバサ様、最近……お疲れのように見えます」




昼下がりの温室。


手入れされた花々の香りが満ちるなかで、カミュは微笑みながらそう言った。




ツバサは椅子に座っていた。


もう、立っているだけでも息苦しい。


毎晩悪夢にうなされ、朝になれば冷たい視線が待っている。




「……そう、見える?」




「ええ。……無理もありません。異世界で、誰も頼れる人がいないのですから」




その言葉に、ツバサの指がぴくりと動いた。




(……やっぱり)




カミュはわかってる。


僕が今、誰も信じられずにいることを。




「それに、王太子殿下とも……何かあったのでしょう?」




「……っ、」




ツバサは息をのんだ。


心臓が跳ねた。




見られていた?


聞かれていた?


──それとも、嗅ぎ取られていたのか。




「……別に、何も」




「大丈夫。言いませんよ、誰にも」




カミュはにっこりと笑う。


まるで親友のように。


慈しむ兄のように。




でも──その笑みの裏にあるのは、


「僕は知っている」という支配の匂いだった。








「王太子殿下は……きっとあなたを、傷つけるつもりはなかったんですよ」




「……っ」




「でも、あの人は国の未来のために動く方です。


感情よりも、責任を選ぶタイプ……私は、そう思います」




ツバサの心に、棘が刺さる。




それはただの言葉だった。


優しく、穏やかで、冷静で。


なのに──




(本当に……そうなの?)




王太子は、僕を抱いた夜も、


その翌日も、何も言わなかった。


手も、伸ばさなかった。




あれは、ただの“義務”だったのか?


あの人にとって、僕は“迷惑”だったのか?




わからない。




わからないけれど、


カミュの言葉が、心に染みこんでいく。




まるで、甘くてやさしい毒のように。








「ツバサ様。私たちは……同じ立場ですよ」




「……同じ?」




「召喚されて、期待されて、でも、その重さに押し潰されそうになる。


だから、私はあなたの味方でいたい。


あなたがもし壊れてしまいそうなら……その前に、私が守りたいんです」




──やめて。


そんな顔で、そんな声で、言わないで。




ツバサはただ、目を伏せた。


本当に誰かを信じられなくなってしまいそうで──怖かった。

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