終章:僕は、夢と彼女と共に生きる

第20話:志を忘れてほしくない

 2月最初の週末――朝陽あさひはスーツ姿で、とあるホテルへやってきた。約3か月前……先輩・万真かずまより渡されたのは、この日このホテル内で行われる結婚式の招待状だった。人の結婚式へ参列するのは、人生で初めてだ。


(何だか緊張するなぁ……誰か来ないかな)


ホテルの前に着いたが、誰も知り合いに会えない不安からか、このまま入っていいものかと付近をウロウロしていると……


「あれー、朝陽君じゃん」


「やっほー」


1学年上の先輩である田中たなか那奈なな仁奈にな双子がやってきた。


「ど、どうも。那奈先輩に仁奈先輩。お2人も、万真先輩の?」


「そうだよー。寒いし中入ろうよ」


「ですね」


 受付を終え控室に到着すると、万真の先輩らしき方々2人程と2学年上の先輩・立花たちばな翔太しょうたが既にいた。部活勢では最年少の参列となった朝陽は、先輩方と懐かしい話をしたり近況報告し合ったりし、どうにか緊張をほぐすことができた。


「まさか、兄さんが結婚するとは思わなかった。あんなにも姉さん一筋だったのに……」


翔太から初めてこの場で聞かされたことだが、1つ上の実の姉が女性として好きだった万真。だが、今の嫁さんこと美玖みくとの出会いにより少しずつ心を塗り替え、正当な恋に落ち、やがて結婚――。かつてはあってはならない恋愛感情を抱いていた万真本人からの激白を唯一聞いていた翔太ならではのこの言葉に、朝陽は重みを感じた。


 係員より移動の指示があり、チャペル式の結婚式会場へ。朝陽は思わず見惚れてしまいそうだったが気を引き締めた。やがて式が始まる空気になり、タキシード姿の万真の姿が見えた。


(タキシード、似合ってるなぁ……)


式場のドアが開き、ウエディングドレス姿の美玖が父のエスコートの下、共にバージンロードを歩き始めた。


(ウエディングドレス、すげぇなぁ……)


美玖の父から万真へバトンタッチ。神父が誓いの言葉を述べる。


「新郎・万真――貴方はここにいる美玖を 健やかなる時も める時も 喜びの時も 悲しみの時も める時も 貧しき時も 妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」


「はい、誓います」


「新婦・美玖――貴方はここにいる万真を 健やかなる時も 病める時も 喜びの時も 悲しみの時も 富める時も 貧しき時も 夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」


「はい、誓います」


野木のぎ夫妻は真剣な眼差しで誓い――最後に誓いのキス。朝陽の隣に座っていた仁奈がにわかに興奮しているのを横目に見ながら、式が終了。


 披露宴の時間になるまで、朝陽たちは控室待機。


「あんな結婚式、憧れるなぁ」


「ねー」


那奈と仁奈がうっとりしているのを見ていると……那奈に目をつけられる。


「いつか康貴やすたか君のお姉さんと結婚することになったら、式呼んでね! 絶対よ!」


「は、はい……」


那奈に耳元で言われた朝陽は、タジタジとそう答えるしかなかった。


(結婚かぁ……万真先輩も、当初はピンときていなかったんだろうなぁ)


 披露宴の時間になり、朝陽は写真部時代後輩組のテーブル席に着くことになった。終始和気あいあいとした時間だったが、お色直しを終えた新郎新婦からの挨拶で途中、万真の視線がどこかへ向けられる。


「……実は結婚が決まってから、ある後輩に直接報告をしに行きました。実はその子へ結婚式に招待し、来ていただいてます。……米村よねむら朝陽君です」


(ん? 僕……?)


何のことだかと思いながら、席を立つ朝陽。


「――朝陽、フォトグラフィアコンテストの最優秀賞受賞おめでとう」


「……あ、ありがとうございます」


係員より無意識に受け取ったマイクを片手に、お礼をする朝陽。


「君はこの先、1人のカメラマンとして化けると信じている。俺には将来の夢なんて本当になくて、特にこれといったやりたいことはなかったけど、朝陽にはある。写真部に入部してきた時、偉いなと思った。その志は忘れてほしくない。いつか有名なカメラマンになれたら、俺の後輩なんだって周りに自慢したい。……それが、俺がやりたいことかもしれない」


万真の隣で、巫女風の衣装に身を包んだ美玖が深く静かに頷いていた。


「……ありがとうございます。万真先輩の期待に応えられるような、立派なプロカメラマンになります。年月はかかるかもしれませんが……決して屈しません」


那奈や仁奈、翔太の他、他の参列者からも温かい拍手が送られた。人生初めての結婚式参列はこうして、幕を閉じたのだった。


〈先輩の結婚式、無事行ってきたよ!〉


今度は自分の番かもしれないと思いながらも凪咲なぎさへ、LINEでそう報告した。


☆☆☆


 一方で同じ日、日陽ひなたはキサキにて万衣まいめぐと3人で集まり、話し合いをしていた。


「お兄ちゃんの夢も、康貴先輩のお姉さんのことも信じたい。寂しくなるけど、お兄ちゃんが決めたことは、絶賛応援したい」


「……でも、康貴先輩が『行ってほしい』と言葉でも、行動でも示してくれることが先決じゃないかな。そんな気がするんだよなぁ」


「相当気遣って、本音が言えないままかもしれないですしね……」


 その頃康貴は……


〈未だに朝陽君のご両親反対してるでしょ? 今の仕事を降りて日本に帰ってくることも考えたけど、朝陽君の未来を守るためにも私が身を引くしかないのかな……〉


今後について悩める姉からのLINEを見て、


「……何でそんなこと言うんだよ」


誰もいないリビングでただ1人、ポツリ憤りを呟いていたのである。

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夢を追いかけた先に、彼女はいる? はづき @hazuki_com

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