第23話 埋火 ─また、いつか─

「人のことを心配できるのでしたら、安心ですね」


 そして、言葉を続けた。


「ミッションは必ずしも成功するとは限りません。襲撃で全滅もありえます。あなたがいなければ、もっと酷かったかも知れないんです」


 トミーは黙ったまま彼を見ていた。


「ありがとうございました」


 イヴァンはそう言って一礼をしたのちに視線をトミーに合わせた。


「あなたは立派な──」


 そう言ってイヴァンは言葉を止めた。

 トミーが訝し気に見ていると、彼はにこりと笑い


「メカニックです」


 とはっきりと伝え、再び軽く頭を下げ、部屋を出た。


 ◇


 イヴァンが部屋の外に出ると、扉の横には壁にもたれかかって話を聞いていたノヴァがいた。


 イヴァンは彼女にも軽く会釈をするとそのまま帰って行った。ノヴァはその後ろ姿を口角を下げたまま気まずそうに見送ると、持って来た花束を入り口に置き、彼女もまた帰っていった。


 ◇


 ノヴァは無言で療養所を出た。


「ノヴァ。トミーどうだった?」


 聞き覚えのある声に彼女が振り返ると、見覚えのある3人が立っていた。


 トミーと共にチームを組んでいたメンバーの

「リーダー」アド(エイドリアン)と、「IT」担当のジーク、そして、「通信」担当のテスだった。


「知らないわ」


 ノヴァがとぼけてみせると、アドは笑いながら


「会ってないのか」


 と聞いた。横目で見ながらノヴァは続けた。


「いまさらだしね」


 チームメンバーはその都度、支局からの呼び出しで編成され、ミッションが済めば解散する慣わしだった──それでも。


 ノヴァは常にトミーのことを気にかけていた。

 遅れて来たときは迷子になってないかと。

 雨を理由に仕事を延期し、彼に外出を促し、

 姿が見えなければアジト内を見回り、

 銃撃戦ではトミーを庇いながら応戦していた。


 だが本来は寄せ集めの者たちである。


 元のメンバーに会うことなどなかった。

 そのため、会うことが救いになるとは誰も思ってはいなかった。


「じゃあな。機会があったらまた会おうぜ」


 ジークが軽く手を上げた。彼らもまた、トミーの事が気にはなっていたが、どうする事もできない事実も知っていた。


「裏切りさえしなければね」


 テスがそう言うと、ジークは軽く笑って言った。


「お前らに追いかけられるなんて、ごめんだぜ」


 片手を上げて去る後ろ姿を三人は静かに見送ると、アドが一言告げた。


「また……トミーと組めるさ」


 その言葉に二人も頷き、「じゃあ」と三人は別れて行った。




   ─了─

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メカニック ぱぴぷぺこ @ka946pen

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