地獄みたいな高校で、隣の席の君に恋をした。でも、君は俺じゃない誰かを見ていた。
@BestXiaoMing
第1話 墜落した紙飛行機と砕け散った初恋
うだるような暑さの、夏の日だった。
巨大なスーツケースを引きずり、入学式の受付に並んでいた時。水色のワンピースを纏った彼女が、すぐ前にいた。
未来なんて何も知らなかったあの頃。田舎者の俺には、都会の女の子の肌が目が眩むほど白く、まぶしく見えた。
行列の待ち時間は退屈で、手にしていたスーパーのチラシで紙飛行機を折って遊んでいた。
紙飛行機は数回宙返りすると、不意に吹いた風に煽られ、コントロールを失って地面に墜落し、ぴくりとも動かなくなった。
腰を屈めようとした俺より先に、一本の白い手が伸びた。
彼女だった。
彼女は耳元の髪をかき上げ、しゃがみ込むと、その安っぽい「飛行機」を拾い上げた。
「君の紙飛行機、落ちたよ」
微笑む彼女の横顔で、陽の光が踊っていた。その瞬間、けたたましい蝉の声も周りの喧騒もすべてが消え去り、世界には彼女の澄んだ声と、インクの匂いがする目の前の紙飛行機だけが存在していた。
あれが「恋」という感情なのだと、俺が理解したのは、ずっと後のことだ。
けれど当時の俺は、ただ呆然と立ち尽くすばかり。彼女がもう一度繰り返して、ようやく夢から覚めたようにそれを受け取り、かろうじて「ありがとう」と呟いた。
彼女はくすっと笑うと、すぐに振り返って友達との談笑に戻ってしまった。
ふと、手の中の紙飛行機が急につまらないものに思えた。無意識に翼を弄ると、たいして鋭くもないその縁が、やけに指に突き刺さるような気がした。
それが、俺たちの最初の出会いだった。
何年も経って多くのことを忘れた今でも、その日の彼女の笑顔だけは、鮮明に覚えている。
その後の数日間、入学手続きは慌ただしく、記憶も曖昧だ。寮と食堂を往復するだけの毎日。それでも俺は、人混みの中にいつも無意識にあの水色の影を探していた。
そして、教室に入って、ようやく彼女を再び見つけた。
担任の先生が教壇で席順を発表していく。
もっと近くに、あと少しだけ近くに。心の中で、そう何度も唱えた。
天の采配か、俺は本当に彼女の隣の席になった。
――ただ一本の、狭い通路を挟んで。
俺は心の内でガッツポーズをした。神様も捨てたもんじゃない。もしこの恋が実ったら、一生かけてこのご恩に報いよう、とまで思った。
だが、俺は彼女の前の席を見るのを忘れていた。
前の席の男が振り返ると、彼女ははにかみながら頷いた。その頬は、俺が一度も見たことのない赤色に染まっていた。
その瞬間、俺の胸にあったすべての喜びは、あの酷暑の夏と一緒に、一瞬にして音を立てて崩れ去った。めちゃくちゃに、跡形もなく。
地獄みたいな高校で、隣の席の君に恋をした。でも、君は俺じゃない誰かを見ていた。 @BestXiaoMing
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