第17話

ウィンドウ・ウォーズ 〜すりガラスの逆襲〜


平和な午後だった。

誠司は休日恒例の「家まるごと拭き掃除」に勤しんでいた。


「さあて……今日は窓拭きだな」


そう言って、リビングの大窓ヒカル・クリスタルを丁寧に拭きはじめた瞬間だった。


「ぴかーん☆ ありがとう誠司さん! やっぱ窓は輝いてナンボだよね〜ん!」

リビングの大窓が調子よく光を反射して、誠司の顔にビームを浴びせてきた。


「ま、まぶしい!」


この眩しさをきっかけに――事件は始まる。



「ちょっとちょっとォォォ!!!」


風呂場のすりガラス《スチーム・バスティオン》が叫んだ。


「ワレワレすりガラス族は、毎日曇らされ、覗かれ、しかも掃除はサボられるッ!!」


「プライバシーって名乗ってんのに、トイレの俺が一番軽んじられてるのおかしくない!?」

トイレの小窓プライバシー=Jrがガタガタ震える。


「油まみれで人権ゼロ。こんな生活もう限界よ!」

台所の換気窓オイリー・グレイスが脂を飛ばしながら叫ぶ。


やがて、誠司の家じゅうのガラスたちが震え、鳴動し――ついに立ち上がる。


「これは革命だ。透明至上主義にNOを叩きつける!」

「レジスタンス“すりガラス同盟”ここに決起するッ!!」



対する透明ガラス派のリーダー《ヒカル・クリスタル》は冷静だった。


「見た目がすべてじゃないって?いやいや、見た目こそが正義でしょ☆」

まぶしい反射光を放ち、周囲を圧倒する。


「僕たち“スケスケズ”の時代を、地味グラスに渡すわけにはいかないんだよね!」


この発言により、ガラスたちの対立は決定的となった。



「みんな!こいつら光ってるだけのナルシストだぞ!!」


「こっちはこっちで、毎日あんたらの排気ガスや湿気に耐えてんだ!!」


「鏡なんてどっちつかずの中立ぶって、実は曇ったら何も見えねえくせに!」


それぞれが正義を叫び、リビングの床に火花が散る。


その間も誠司は、雑巾を持ってぽかんと立ち尽くしていた。



「……あの、拭いただけなんですけど?」



そのとき、階段の吹き抜けにある高窓ハイライト・ダンが重々しく語りだす。


「昔……この家が建った頃、我々は一枚のガラスだった。

それがサッシで分けられ、すりガラスにされ、透明にされ……兄弟同士で争うなど、悲しい限りだ……」


重鎮ダンの言葉に一同は静まり返る。


「争いの原因は、誠司がちゃんと拭かなかったせいじゃないかな」

「つまり根本的に悪いのは――」


「いや俺かよ!」



最終的に、すべての窓ガラスを一枚ずつ拭いてまわる誠司の“ガラス詫び巡礼”が始まった。

その姿に、一同はうっすら納得し、怒りを鎮めていく。



すりガラスたちは主張した。

透明ガラスたちは光った。

鏡はうつむいた。


そして誠司は、今日もただ家を掃除しただけだった。

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ポンコツ家日記 チャッキー @shotannnn

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