あの日の君へ

リクティン

第1話

 焼けつくような日差しがアスファルトを熱し、自転車のペダルを漕ぐたびに、滝のような汗が額から頬を伝い、光を反射しながら落ちていく。文化祭の準備のため今日も学校に向かう。 ちょうど太ももに張り付いたズボンに、じんわりと汗が染み込む頃、見慣れた駐輪場の屋根が見えてきた。


遅めの出勤だろうサラリーマンたちと一緒に少し空いた電車に乗り込む。優先席はがらんと空いていたが、そこに座るのはどうも落ち着かなかった。いつも通り壁に寄りかかれる位置に立って、読書を始める。


ちょうど首の疲れを感じ始めた頃、学校の最寄駅に着いた。足早に下車しホームの階段を駆け降りる。曲がり角を曲がると尻もちをついた。壁で見えなかったがぶつかった相手も急ぎ足だったようだ。尻もちをついている。尻もちをついた拍子に、床に落ちていた砂埃が制服につき、それを払いながら顔を上げると、ぶつかった相手の姿はどこにもなかった。ただ彼がいたところに一枚の適当に破ったような小さな紙が落ちていた。彼の姿を探して振り返ったが、もうそこに彼は居なかった。ほんの少しの好奇心に駆られ、落ちていた紙を手に取る。

そこにはこう書かれていた。

「小曽根駅のホームの曲がり角を8月3日午前9時15分に小走りで通る人物がいる、そいつに接触しろ。」


鼓動が耳の奥でドクドクと鳴り響く。文字通り、腰が抜け落ちそうになった。だってここは、確かに小曽根駅のホーム。そして、私が腕時計を二度見したとき、長針は正確に「3」を指していたのだから。

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