【番外編3】隣国からの賓客

「常春の楽園」の噂は、ついに国境を越え、西の隣国にまで届いていた。

 特に、我が領地の特産品である化粧品「ウィンター・ブルーム」の品質と、その背景にある私の革新的な内政手腕に強い関心を持った隣国の王女が、大規模な視察団を率いて、賓客としてこの地を訪れることになったのだ。


 私とゼノは、辺境伯夫妻として、そしてこの領地の主として、外交の舞台に立つことになった。

 視察の初日、王女を歓迎する晩餐会が、辺境伯の館で開かれた。

「シュヴァルツ辺境伯、そしてイザベラ妃。この度はお招きいただき、心より感謝いたします」

 若く、聡明なことで知られる隣国の王女は、少しも臆することなく私たちに挨拶をする。

 その視線は、まずゼノに向けられ、そして探るように私へと移された。


「歓迎いたします、王女殿下。長旅の疲れを、当領の自慢の料理と温泉で癒やしていただければ幸いです」

 ゼノが、威厳に満ちた低い声で応じる。彼の持つ、元王国騎士団長としての圧倒的な存在感は、それだけで隣国の使節団を圧倒する力があった。

 そして、私は私のやり方で、彼らを魅了する。

「王女殿下が、わたくしたちの化粧品にご興味をお持ちと伺い、大変嬉しく思います。もしよろしければ、開発の経緯や、この土地の植物が持つ可能性について、お話しさせていただけませんこと?」

 私は、かつてキャリアウーマンとして培ったプレゼンテーション能力を遺憾なく発揮した。専門的な知識を交えつつも、分かりやすく、そして情熱的に、この領地の魅力を語る。

 王女は、私の話に熱心に耳を傾け、時には鋭い質問を投げかけてきた。彼女もまた、自国の発展を心から願う、有能な為政者なのだ。


 数日間にわたる視察の最終日。

 王女は、すっかり私に心酔した様子で、深い敬意と共にこう申し出た。

「イザベラ妃。貴女のような方が、我が国にもいてくださればと、心から思いました。つきましては、ぜひ、我が国と貴領との間で、正式な交易協定を結ばせてはいただけないでしょうか」

 それは、冬の領地が、もはや一国の辺境という枠を超え、国際的な影響力を持つに至ったことを示す、歴史的な瞬間だった。


 協定の調印式で、隣国の代表と固い握手を交わす私の姿を、ゼノは少し離れた場所から、誰よりも誇らしげな目で見つめていた。

 公の場で輝く妻の姿。

 彼にとって、それもまた、守り抜いた幸福の一つの形だったのだろう。

 私たちの楽園は、これからも、世界に向けてその輝きを増していくに違いない。

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婚約破棄された悪役令嬢の再起。契約結婚相手は無愛想な辺境伯。でも、私の内政チートで彼も領地も大変貌!いつの間にか私が世界の中心でした 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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