【コント台本】AR

アマモリ

本編

明転。

マツシゲ、タクヤが板付き。向かい合うように。

ビデオ通話をしているような距離感での会話が続く。


マツシゲ:「えっと、これ・・・・見えてます?」

タクヤ:「うん。見えてるよ。・・・・芸が細かいなぁ。」

マツシゲ:「はい!お久しぶりです。タクヤさん。」

タクヤ:「・・・・久しぶり。」

マツシゲ:「10年ぶりぐらいですか?僕にはそんな気全然しないなぁ。」

タクヤ:「(優しく)だろうね。」

マツシゲ:「あれ?もしかして、痩せました?」

タクヤ:「あ?わかる?実は・・・・」

マツシゲ:「と言いつつ実は太りました?」

タクヤ:「(小声で)なんでわかるんだ・・・・。」

マツシゲ:「そりゃあ、いつだって活躍を見てますからね。タクヤさんの事だし、そろそろ大河ドラマに出演とか決まっちゃうんじゃないですか!?あ、実はもう決まっちゃってたり!?そしたらごめんなさい!」

タクヤ:「いやあ、大河は流石にもうムリじゃ無いかなぁ。」

マツシゲ:「ちょっとちょっと!そんな気合いでどうするんですか!タクヤさんなら出来ますって!」

タクヤ:「あはは。うん。頑張ってみる。」

マツシゲ:「そうですよ。その意気ですよ。」

タクヤ:「ホント、変わらないなぁマツシゲくんは。」

マツシゲ:「そりゃあそうですよ。人間ってそう簡単に変わったりしませんからね!根気強くいきましょうよ。あ。でも僕はきっと死ぬまでこのスタイルですよ。」

タクヤ:「・・・・うん。」

マツシゲ:「それで、どうなんです?最近は。」

タクヤ:「最近・・・・。最近かぁ・・・・。」

マツシゲ:「なんすかぁ!俺が何を話すつもりか、ちゃんと送ってあったじゃないですかぁ。さては話すことが多すぎてまとまりきらないってヤツですか?」

タクヤ:「相変わらずお見通しだね。」

マツシゲ:「じゃあこっちから聞いちゃいますよ。・・・・流石に結婚のことを聞くのはマズイのかなぁ?」

タクヤ:「うぅん、ちょっとマズイね。」

マツシゲ:「じゃあ最近は、どういう仕事をしてきたんです?海外ロケとか行きました?」

タクヤ:「海外かぁ。海外は無いんだけど、先日屋久島で仕事があったね。

マツシゲ:「凄いなぁ。そんなところまで?」

タクヤ:「うん。行ってきた。アレも見てきたよ。ほら、世界遺産の縄文杉。」

マツシゲ:「え、そんなのがあるんですか!?」

タクヤ:「そうだよ。屋久島って言ったら縄文杉だよ。立派だったよ。縄文時代から生えてるっていうのを納得しちゃうぐらい。言葉のまま、実に神秘的だったね。」

マツシゲ:「へぇ。そこでどんなことをしてきたんです?」

タクヤ:「その縄文杉をテーマにした作品に出演することになって、その撮影かな。主人公のお父さんで、島の案内ボランティアって設定で。」

マツシゲ:「よくやり遂げられましたね、それ!」

タクヤ:「そりゃあね、等身大のキャラだったらそれなりには。監督が言うには、僕の牧歌的な雰囲気がハマリ役だったって。」

マツシゲ:「いやぁ、それは、うん。凄いことですよタクヤさん。」

タクヤ:「ありがとう。」

マツシゲ:「そこまではどうやって行ったんです?飛行機とか?」

タクヤ:「あー、うん。飛行機もそうだけど、最後は船だったね。縄文杉までは徒歩・・・・」

マツシゲ:「(セリフ食って)機内食の味はどうでした?」

タクヤ:「あ。機内食は無かったんだ。国内線だからね。」

マツシゲ:「あぁ、それはどこもそうかぁ。」

タクヤ:「暇だから持ち込んだお菓子ばっかり食べてたね。」

マツシゲ:「流石、食いしん坊ですねぇ!そのやってきたことって、テレビですか?映画ですか?舞台だったらソフト化とかされたりします?」

タクヤ:「どうだろ?まだどうなるかわからないんだけど、もしソフト化されたらすぐにでも送るよ。」

マツシゲ:「そうかぁ。じゃあ楽しみに待ってますよ。見られたら、いいなぁ。」

タクヤ:「見られるよ。きっと。」

マツシゲ:「あ、そうだそうだ舞台って言えば・・・・タクヤさん、あの時渡した封筒まだあります?」

タクヤ:「もちろん。封も開けずにとってあったよ。」

マツシゲ:「ありがとうございます。中身、なんだと思います?」

タクヤ:「開けて良いの?・・・・あ、これ・・・・。」

マツシゲ:「覚えてます?僕たちが初めて一緒にやった脚本ですよ!」

タクヤ:「やったやった!うわぁ懐かしいなぁ。」

マツシゲ:「もうよく覚えてないけど、もしかすると僕が生まれて初めてタクヤさんの為だけに書いた脚本なんじゃないかな・・・・。さぁ、見ながらでも良いんで、ちょっとやってみましょう!」

タクヤ:「え?イキナリは・・・・」

マツシゲ:「まぁまぁ。条件は俺もほとんど一緒ですから!じゃあ・・・・第6場の4ページ目。タクヤさんの台詞から行きましょう。」

タクヤ:「え?ちょっとまって、どこ?」

マツシゲ:「えーと・・・・文化祭で・・・・って台詞からですよ?行きます。よぉーい、はい!」


二人は学生時代の脚本を演じ始める。

両者とも、30代の男性。

タクヤはマッドサイエンティスト「ソラベ」。

マツシゲは風来坊な劇作家「アマモリ」を演じる。

両者は学生時代からの友人、という設定。

ソラベは泥酔しており、情緒が不安定である。


タクヤ:「(ボソボソと一息で)文化祭で君の書いたあの作品を見た時、自分の中に雷のような大きな衝撃が走ったんだ。」

マツシゲ:「・・・・そんなにスゴイ話だったっけ?」

タクヤ:「いわゆる天啓、みたいな。あの作品が、僕の研究にブレイクスルーを与えてくれたんだよ!」

マツシゲ:「ブレイクスルーねぇ?俺にはさっぱりだ。」

タクヤ:「(大きく態度が変わって)そう!それなんだよ!」

マツシゲ:「は?」

タクヤ:「その姿勢だ、僕が言いたいのは!・・・・その時の僕は、まさか鏡の中に別の空間があるだなんて考えもしなかったんだよ!だってそうだろ!?鏡っていうのは、ただ単に、ただのガラスに、ただの金属を、ただ蒸着させただけの、ただの道具じゃないか!」

マツシゲ:「ソラベ?」

タクヤ:「たしかに鏡の持つその神秘性から、それを別世界への入り口だと想定した作品は古くから存在したよ?アマモリの作品もそういった、凡庸で凡常かつ凡俗な、ありふれた作品の一つに過ぎない!」

マツシゲ:「さらっと失礼だな。」

タクヤ:「けどね!僕が衝撃を受けたのは、鏡の世界では時間の流れが逆になるという設定がその作品には有ったと言うことなんだ!」

マツシゲ:「あぁ、まぁ、そんな設定だったね・・・・。」

タクヤ:「一般的に左右が反転していると捕らわれがちな鏡像、つまり鏡に映ってる空間が、実際は左右ではなく前後が反転しているだけだというのは、物理学を少しかじればすぐにわかることだ。けども当時の僕は、時間の前後も逆になるという発想にはたどり着けなかったんだ!これがどれだけ愚かなことか、アマモリにはわかるかい!?」

マツシゲ:「えーっと・・・・」

タクヤ:「つまり!僕が何を言いたいのかと言うと!・・・・想像力に知識はひれ伏す!知識は時として何の役にも立たない!かのアインシュタインの言葉を僕は初めて痛感した!あの作品のおかげだ!だから僕はあの作品に感謝しているんだ!だからありがとうアマモリ!キミのおかげでタイムマシンは完成した。そしてこれから、キミのおかげでタイムマシンは完成するんだ!」

マツシゲ:「意味が分かんねえよ!」


やや間があって、マツシゲがカットをかける。


マツシゲ:「・・・・はいカット!いやぁ流石ですね!当時に比べて年期も貫禄もあって、もっと良くなってる!」

タクヤ:「そうかな?」

マツシゲ:「そうでなきゃ、でしょ?」

タクヤ:「生涯現役だからね。」

マツシゲ:「そう言ってくれると思ってました!」

タクヤ:「うん。今でもそう思ってるよ。」

マツシゲ:「ありがとうございました。ホント、楽しかったですよ。」

タクヤ:「こっちも。すごい懐かしくて、楽しかった。」

マツシゲ:「欲を言えばねぇ。こんな感じでまたタクヤさんと舞台やりたいですよ。」

タクヤ:「・・・・そうだね。やりたいね。」

マツシゲ:「こうしてざらっと見ていると、今の僕じゃ使わない表現もたくさんあって・・・・いやぁ、書き直してぇなぁ。書き直したヤツをタクヤさんに演じて欲しいなぁ・・・・。」

タクヤ:「いいなぁ。それは、面白そうだね。」

マツシゲ:「ホント、バカみたいにやる気出して毎晩毎晩稽古してましたよね。しんどかったなぁ。」

タクヤ:「・・・・ほんとにね。」

マツシゲ:「でも、楽しかった。千秋楽のカーテンコールとか、ずっとこれが続けば良いのに、って。」

タクヤ:「・・・・うん。楽しかった。」

マツシゲ:「まぁ、続かなかったわけですけど。」

タクヤ:「そんなことないよ。僕の中では今でも続いているよ。」

マツシゲ:「あぁそっか、そういうのは考え方次第か。俺も負けてられないなぁ。」

タクヤ:「マツシゲくんが頑張るなら、僕も負けてられないな。」

マツシゲ:「・・・・ねぇ、タクヤさん。今、幸せ?」

タクヤ:「幸せ・・・・かな。色々やったり、食えない時もあったけど、なんだかんだで自分のやりたいことで生きていけてるし・・・・正直、幸せかどうかはともかくとして、とにかく今、楽しいから。」

マツシゲ:「そうですか・・・・。羨ましいなぁ。」

タクヤ:「答えになってるかな?」

マツシゲ:「もちろん!俺も今、幸せですよ!・・・・幸せって言うのは、求める物じゃ無くて、後から気付く物だ。ってよく言いますけど、本当にその通りですよ。とにかくがむしゃらに突っ走ってきたけど、それでも俺は今、幸せですよ。なんてったって、ほら、すっごく、楽しかったから!」

タクヤ:「・・・・そうかぁ。」

マツシゲ:「正直、俺は嬉しいですよ。タクヤさんが今でも役者を続けていてくれて。俺はもうそっちの世界の人間じゃ無いから、タクヤさんみたいにいろんなことをやったりできませんけど、ほら、その代わりこうして、タクヤさんがいろんな話を聞かせてくれる!それだけでもう満足ですよ!」

タクヤ:「昔からよく言ってたもんね。あの時一緒に頑張った役者が活躍しているのを見ると、それが自分のプライドにも成る。って。」

マツシゲ:「負け惜しみみたいでちょっとみっともない気もするんですけどね・・・・。」

タクヤ:「そんなことないよ。」

マツシゲ:「まぁともかく!これからもいろんなモノを見てきてください。いろんなことをやってきてください。そしたらまた、その時の話を聞かせてくださいよ!あ、もうこんなこと言われるのなんて心外ですよね?すみません。」

タクヤ:「そんなことないよ。」

マツシゲ:「(照れ隠しに笑う)・・・・もうそろそろ時間ですね。」

タクヤ:「あ、もう?あっという間だなぁ。」

マツシゲ:「あぁもっと話を聞いていたいのに!すごく名残惜しいですけど、なんてったって俺たち、尺には五月蠅いですからね!」

タクヤ:「そうだね。組んだときからずっとね!」

マツシゲ:「今回聞けなかった話はまたの機会に是非!何年後だって何十年後だって、絶対聞いて見せますから!待ってますよ!」

タクヤ:「うん。どんなことがあっても、いつまでも僕たちは・・・・」

マツシゲ:「(セリフ食って)僕たちはずっと、相棒ですよ!じゃあ、また10年後。」

タクヤ:「うん。またね。」


タクヤ、大きく息を吸う。ため息ではなく、ゆっくり吐く。

マツシゲ、去る。

タクヤ、頭に付けていた端末を外そうとすると、端末から声が聞こえる。


マツシゲ(声):「・・・・ありがとうございます。」

タクヤ:「ん?音だけ・・・・?」

マツシゲ(声):「きっとタクヤさんのことだから、俺に合わせちゃうんじゃないかなって。今、このときだけ役者になってくれているなら、それが僕は一番辛いんだ。これを見てくれてるだけでいいんですからね?いえ、見てくれなくたっていいんです。本当は俺に、口なんて無いんだから。好きな時に、忘れてくださいね。」

タクヤ:「そんな、忘れるわけ・・・・。」

マツシゲ(声):「じゃあまた、10年後!」


タクヤ、改めて端末を頭から外し、片付けながら端末に話しかける。


タクヤ:「・・・・違うよ。だから口があるマツシゲくんを僕は現実にするんじゃないか。画面の中の君を生きてると思いたいから、だから僕は生涯現役なんだよ。」


端末を置き、静かに写真に手を合わせる。

タクヤ:「じゃあまた、10年後・・・・。


マツシゲ、ややあってから再び登場。


マツシゲ:「・・・・っていう作品を考えてみたんですけど、どうですかぁタクヤさーん!」

タクヤ:「趣味が悪い。」

マツシゲ:「おおう・・・・。」


マツシゲ、崩れ落ちる


暗転


【演じられる方へ注釈】

(作品内作品の設定では)マツシゲはすでに亡くなっています。

会話風のメッセージビデオを10年おきに再生するようにタクヤへ言い残していきました。

タクヤさんはマツシゲさんがまるで生きているかのように振る舞わなければなりません。

あえて自然な会話に仕立てるのか、ぎこちなく作るのか、演者の皆様にお任せいたします。

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