第14話:二兎を追う者は一兎をも得ず
帝国陸軍が1907年の梅雨も近い頃に上陸を開始したのは、青島であった。震旦風に発音すれば、チンタオといったところか。旅順の対岸であるその青島への派兵は、一応ドイツの勢力圏であったからそれを排除するため、という名目ではあったものの、仏印への進駐も視野に入れたその行為は、而して現地政府の要請によるものだった。そう、青島上陸作戦は清王朝への助力、というていで発動された作戦であったのだ。以後、辛亥暴動によって多数の逮捕者が出る清の内治であったが、少なくとも辛亥暴動が鎮圧できたのは、大日本帝国の青島上陸が遠因であろう、とすら言われている。もちろん、青島への救援要請発布は決して褒められた手段とは言い難いのだが、清の延命という面だけで考えると、非常に巧みな鬼手であった。
一方で、日本軍の青島上陸を知ったドイツ・フランス・ロシアの陣営は当初それを無視した。無理もあるまい、彼等にとっての主戦場はヨーロッパであり、遠すぎるアジアに関しては現状、何かしようとしても難しいし、大日本帝国の国力は当初見くびられていたので、いずれ力尽きて撤退する、と見られたからだ。事実、大日本帝国にとっての攻勢は伝聞の限りは小競り合いの範囲であり、あとでしっぺ返しをする、程度に考えられていた。……少なくとも、この頃は。
だが、大日本帝国のこの当時の攻勢は、思わぬ形でヨーロッパの思惑を覆すことになる。いわゆる「大東亜共栄圏」への嚆矢は、1907年6月4日が現在では記念日と指定されている。
日露世界戦争 エトーのねこ(略称:えねこ) @H_Eneko
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