第2話
「美優〜いつまで寝ているの〜朝ごはんできたわよ〜」
「母さん、今行くよ〜」
ベッドに無造作に置いていた本を壁側に跳ね除けてから起き上がった。
「今日、休みだからってだらだらしちゃだめよ」
「う〜ん、わかっているよぉ」
私は眠い目を擦りながら階段を降りる
まだ溶けきってないバターが載ったトーストと、塩胡椒が均等にかかっている半熟状態の目玉焼きと、ちぎったレタスが皿の上に盛り付けられている。
「お母さん、今日は会議があるからもう出るね〜」
「うん、わかった」
トーストを口に運びながら、身支度する母の姿を眺めていた。
母が外出してから、自分の部屋に戻り、文庫本を手に取った。
内容はあまり理解できていない。
読んでいる自分に酔っているせいか、はたまた見栄を張りたいのか……
私は読めもしない文庫本をパラパラとめくっていた。
ピンポーン
インターホンが鳴り出した。
友達か?遊びに行くような約束もしていない。
そもそも、そのような友人もいない。
さては、宅配だろうとドアを開けたら、そこは配達員ではなく、女性が立っていた。
しかも、顔は見知ったどころか普通に知っている。
平尾綾香だ。
彼女は白色のワンピースを身にまとっていた。
少し前のアニメに出てくるヒロインにぴったりな服装である。
「平尾さん、なんで、ウチの家知っているの?」
そもそも彼女に住所を教えた記憶がない。
「そんなことより」
「そんなことよりじゃない!まあ……外は暑いから中に入ったら?」
なんかどうでもよくなり、彼女を家に上げた。
「お邪魔します」
平尾さんは脱いだ靴を揃えた。
育ちは良いのだろう。
平尾さんの周りにいる人は、割とチャラチャラしていても、彼女自身はそういう感じの人ではないし……
彼女をとりあえず部屋に案内した。
「わあ、地味だね!」
しばくぞ
つい心の中が汚い文字で満たされてしまうところだった。
「地味で悪いね」
「こんなに可愛い大橋さんなのに、部屋が地味なのは興奮する」
もしや、彼女は、暑さにより頭がやられているのでは?
元からなら、さらにまずい。
「大橋さん、本読むんだ」
「まあ、うん」
「私の家、書庫あるんだよね」
「よかったら今度遊びに来る?」
「はい?」
「私の家、荻窪だからすぐにいけるよ」
「は、はぁ…」
荻窪で書庫があるような家って、どんだけ大きいんだよ!金持ちか?
また、口調が荒くなった。
まずいまずい
私はお淑やかな文学少女(自称)なんだ
お淑やかに……お淑やかに……
「大橋さんと交わりたい」
「ふざけるな!!!」
ついに私の心の声が外に出てきてしまった。
「ふーん、大橋さんってこんなに口が汚いんだ〜」
平尾さんは、手に待っていた手提げから何かを取り出した。
「そういえば、吉祥寺のケーキ屋でシュークリーム買ってきたんだけど、今から食べる?」
平尾さんはシュークリームを手に掴みながらそう言った。
「なんでシュークリームを素手で掴んでいるの?」
「これは、大橋さんの分だよ」
その瞬間、私の口にシュークリームが突っ込まれた。
苦しい、苦しい、でも甘い不思議な感覚。
やがて、わたしの口元には、クリームと唾液がまとわりついていた。
「何すんの!」
私は彼女の手を突き放し、なんとか解放された。
「きれい……きれいだよ……大橋さん」
平尾さんは、私の食べかけのシュークリームを頬張りながら私を見つめていた。
わたしは、とんでもない変態と知り合いになってしまったらしい。
優柔不断な彼女は、今日も迷い中(なか) インテグラル一世 @integral1
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