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「……梢ちゃん」

 翌年の秋。ポニーテールの女は、コンビニのイートインコーナーで安納芋のクリームパフェを食べながら、思い出した。

 思い出してしまった――ひとり、殺し忘れていた。

 夏の似合わない、陰気な少女。

 彼女のことだけは、あの澱んだ町で唯一、嫌いになることができなかった。生まれてきたこと自体が苦しみであって、溺れるように生きている、同志とすら感じていた。

 まあ、それでも、殺さなくてはいけない。

 この地上から、黛西寺流を消し去らなくてはならない。

 穢らわしいこの殺人拳の遣い手を一人残らず葬り去り、然る後に自らの命脈もまた閉ざすことによって、朝日奈釉子の復讐は完遂されるのだ。

 とりあえず美味しいものを色々食べ尽くしてから死のうと思い、一年くらいだらだらと先延ばしにしていてよかった。焦って死んでしまっていては、梢を殺せないところだった。

 大師範・條厳が死に、黛西寺は焼け落ちた。もはや白昼堂々の大量殺人という不祥事どころではない大惨事を揉み消すことは誰にもできず、日本は恐怖に震え上がった。

 半分残ったパフェに口を拭ったナプキンを入れて、そのまま捨てた。

 その後一週間で、釉子は全国の黛西寺流隠し道場の全てを襲撃し、殺戮の限りを尽くした。しかし、あの陰鬱そうな少女の面影は、どこにも見つけることができなかった。

 令和の世を震撼させる殺人鬼・朝日奈釉子と、失われた黛西寺流唯一の伝承者としてその名が知られていくことになる影宮【かげみや】梢の、それが因縁の幕開けなのであった。

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天拳 穏座 水際 @DXLXSXL

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