脳の手術

白川津 中々

◾️

 感情が抑えられず、癇癪で人間関係からなにから全てぶち壊してしまう癖があるため脳の手術で改善を試みる事にした。


「治せますが、感情に紐付いた記憶は消えます。問題ないですか?」


 医者の言葉に即答でYES。むしろろくでもない思い出を消せてラッキーまである。忌まわしい失敗と恥辱の歴史がなくなるなど救いでしかない。願ったり叶ったりと、早速日程を抑え手術当日を迎える。部分麻酔をかけ、頭蓋の一部が開かれていく。術内容は小脳の一部削除と電気治療。字面にするも物騒だが医者というのは元来血生臭い職業であるから気にしないよう努めた。


「切りますよ」


 医者の言葉と共にレーザーが脳を焼いていく。そのせいなのか、過去の記憶が鮮明に思い出され苦々しい。俺はどうしてあんな事で怒り狂っていたのかと猛省。だが、それも今日まで。明日からは感情を制御できる真の人類として生きていけるのだ。これ以上の喜びはない。そう思っていた。


「……!」


 家族と過ごした時間。母に作ってもらった焼き菓子、初めて彼女ができた日の事。喜怒哀楽の、喜楽に属する思い出が蘇ってくる。そうだ、紐付くのはなにもマイナスだけではない。プラスな感情が付随する記憶も当然ある。俺は、それを失うのか。


「あ、せんせ……」


「大丈夫ですよーもう切れますから。後は電気を流すだけですので」


「ちが……」


 舌がうまく回らない。

 記憶がどんどん、消えていく。

 楽しい事も嬉しい事も全部、全部……

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脳の手術 白川津 中々 @taka1212384

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