第19話 英雄記録に任命されました!
おかいものチームは全員で六人です。みんな白い頭巾をかぶり、男性二名、女性四名です。
「ジーモン宰相から赤インクを買ってくるよう頼まれました。ミーナさん、行きましょう。赤インクは商店街の熊の子文具がもっとも発色が良いです」
セイラさんからのミッションのお知らせです。私も白い頭巾をかぶって、あとをついて行きます。
「ジーモン宰相は黒インクより赤インクをよく使います。提出案など数々の書類に、赤インクで訂正箇所を書き込むからです」
セイラさんは瞳の澄んだ、きりっとした女の子です。
「セイラさんはどうしておかいものチームに入ったんですか?」
「私は所望に対して期待を超える物をお渡しするのが好きだからです。市場価格を把握するのも楽しい。私はおかいものに向いています」
「いいなぁ、私はまだ自分にはこれが向いてるっていうのがなくて……」
「あなたを認めている人が、きっと導いてくれますよ。さて、インクの次は刺繍糸に果物。まだまだ買うものがありますよ。すべて高品質、適正価格で買います」
セイラさんは市場を高速移動するので、ついていくのに疲れました。
お昼休憩をしてほっと一息ついて、午後からはシンシアさんとの面談です。
「すみません、まだ決められなくて……」
私が言うと、シンシアさんはにっこり微笑みました。
「会議の結果、あなたには記録係として新しい役職についてもらう案が出ました。ミーナさんは人の話をじっくり聞くことが得意で、観察眼にもすぐれていらっしゃいます。
“話しかけやすく、話しやすい”と多くの方から評価されています。
そこで、あなたにアイラ女王とライモ様の記録係をして頂きたいのです」
「えっ!!! そんな、王族と関わる役職を新米の私でいいんですか!?」
「はい。ライモ様とアイラ女王からも推薦されています。お二人は英雄として生きることを覚悟されていて、自分たちの言動を“生の言葉”で、未来において歴史修正や美化されないためにと、生活の細やかなことまで記録してほしいとおっしゃっています。
記録チームのマッシーニさんが、これを『英雄譚記録』という班として発足されました」
わわわ、めっちゃいいー!!
推しの記録ができるとか最高!
今すぐ鳴り石鳴らしてアレサを呼び出して伝えたい!
「や、やります! やらせてください!」
私は立ち上がって宣言しました。
「うん、ありがとう」
シンシアさんが応えたあと、面談室がノックされました。
入ってきたのは私と同じ歳ぐらいの少年です。黒髪で右目を隠した鬼太郎ヘアスタイル。口がむすっとしていますが、丸い目の童顔です。
彼は胸ポケットに白い羽根ペンを入れています。
「…………どうも、英雄譚記録のヘンリーです。俺一人でもよかったけど、女王の女性のプライバシーには踏み込めないからなぁ。あんたさぁ、ライモ様に近づくチャンスとか考えるなよ。女王の嫉妬で死んじゃうかもねぇ」
ヘンリー、君っていきなり嫌な奴ですか。
「そんな気はまったくありません。真面目に職務をこなします。アイラ女王の女性のプライバシーはわたしが守ります」
私がむすっとして言い返すと、へらっとヘンリーは笑いました。
「ふーん。俺、あんたのこと同僚とか思ってねーから。俺の記録を読んでせいぜい学べよ」
なぬう!!
こっちこそ、私が前世アメブロで推し作品考察を書き続けた文章力を読みやがれですよ!!
「はい、ヘンリーの書く記録を楽しみにしてるわ」
ほほほほ、と私は笑います。
「まあまあ、お二人とも。良いですね、その張り合いでお仕事がんばってください。
でも、殴り合いのケンカはダメですよ」
シンシアさん、笑顔で言います。
へらへらしていたヘンリーが真顔になって、そして顔色が悪くなりました。
「殴り合いのケンカをすると、罰としてオー様にへその臭いを嗅がれて、恥ずかしい秘密を暴露されます」
シンシアさんの言葉に、ヘンリーがぎゅっと目をつむって唇をすぼめます。
あ、嗅がれたことあるんだねー、ふふふ。
「その、なんだ。俺たちは仲良くライバルでいよう! さて、記録チームに行こう」
私たちは記録チームの仕事部屋に行き、マッシーニさんから正式に社員として登録されました。社員証には私の名前と役職、王家の百合の印鑑が押されています。
「記録チームに配属されました、ミーナです! ふつつか者ですがよろしくお願いします!」
私が記録チームのみんなに挨拶すると、皆がペンをピタッと止めて、ガタッと立ち上がりました。
え、怖い。
「よっしゃーー! 歓迎会、歓迎会だぞ!」
「酒だ酒だ酒だァ!! 今日はもう仕事終わり!」
「歓迎会という名の酒を飲む合法!」
「呑んでばかりじゃダメよ、食べる!! 今日はダイエット解禁!」
静かな人たちだと思ったのに、めっちゃテンション高っ。
マッシーニさんは、無言で阿波踊りしています。
「なんかこのチーム、やたら酒好きで食い意地張ってるやつ多いの。俺ら未成年者はとにかく食え。おごってもらうんだから食うぞ」
ヘンリーの言葉に、「押忍」と私は答えます。
「同じチームになれて嬉しい! 仲良くしようね」
フィアナさんが私をハグしてくれました。
「さて、飲みに行くゾォ!! 今日は白ワイン解禁!」
あ、フィアナさんも飲兵衛発言、出ましたよ。
ホワイト企業のお城のメイドに転生した私は龍殺しの夫婦の推し活で忙しい なつのあゆみ @natunoayumi
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