放課後巨大化クラブ 新入部員 前編
あれから何回か巨大化して、時にはひとりで時には3人で街遊びを楽しむようになってから、小春は学校が楽しくて仕方が無くなっていた。
相変わらず痴漢にあうことはあったが、以前と変わったのは触られた瞬間に睨みつけるようになったことだろう。
それでもやめなければ巨大化して潰してしまえばいいのだから。
「暑くなったよねぇ、ちょっと動くだけで汗だくだよ。」
見かけどおり代謝のいい、バレー部のあかねがユニフォームのまま集合場所の1年2組で、ユニフォームの裾を少し上げてパタパタあおいでいる。
「あかねちゃん、なんかエロい。」
「いやいや、小春ちゃんのそのバカでっかい奴の迫力には負けるって!」
衣替えでブラウスだけになった小春の胸元は、完全にパツパツだ。もしブラウスやボタンに人格があったら絶対に悲鳴を上げているだろう。
「このおかげで、最近また痴漢率が上がったんだよねぇ。」
「じゃあ、また電車でも挟み潰す?」
その声に振り返ると美沙が教室に入ってきた。
「呼び出し、何だったの?」
美沙は生徒指導室に呼び出されていたのだ。
「あぁ、この前、ちょっとひとりで夜に巨大化して遊んだのよ。時間は戻したからいいんだけど、見られてたみたいでさ。あ、普通の大きさの時ね。」
「美沙ちゃん、超美人だから目立つもんねぇ。」
「そうだねぇ。」
「いやいや、ふたりだって違う意味で目立つでしょ!それはいいんだけどさ、なんか、夜のバイトしてるんじゃないかって言われちゃった。」
確かに美沙は超がつくほど美人で、長身でスタイルもいい。現役モデルと言ってもほとんどの人が信じるだろう。
「今日はどうするの?遊ぶ?」
小春が聞くと、美沙が首を横に振った。
「ごめ~ん、今日はマジのバイトなんだ。」
「そっかぁ、じゃあ私も部活に戻るかなぁ。大会近いし。」
美沙もあかねも今日は都合が悪いらしい。
「小春ちゃんはどうする?遊ぶんなら時間戻しちゃんとやるよ。」
「う~ん、私も今日は普通に寄り道して帰ろうかな。」
「いつものショッピングモール?」
あかねが興味深そうに聞いてみる。
「うん、最近行ってないなって思って、ちょっと行ってみる。」
「そっかぁ、じゃあ今日は解散だね。」
「うん、ばいば~い。」
今日は巨大化しないことになった。
小春はいつものショッピングセンターで雑貨屋巡りだ。
お店の数は減ってしまったが、これだけはやめられない。
どうしても買いたい物は無かったが、それでも充分目の保養になったので、満足げに家路につく。
帰りの電車は運よく座れたので、座ってのんびりスマホをいじっていた時だった。
キキィッ!!
突然の急ブレーキに、身体が前方に倒れ込んでしまう。隣りに人が座っていなかったので、完全に横になってしまった。
それがよかったのかもしれない。立っている人は車両の端まで吹っ飛ばされて、叩きつけられた人もいる。
何が起きたんだろう?小春がそう思った時、重厚な地響きが轟き、同時に車両が大きく揺さぶられる。
(これって・・・まさか・・・)
ボコボコッ!ズッシィィンッ!!
まただ、横転しそうになる。間違いない、巨人だ。でもふたりとも今日は巨大化しないって言ってたのに、気が変わったのかな?
小春はどっちが巨大化したのか確かめるために、既に開いてかなりの数の乗客が外に出たドアから電車の前方を覗いてみた。
「えっ?違う子?」
巨人が高架橋を踏み潰しながらゆっくりと近づいてくる姿が見えた。
暗くてよくわからないが、たぶん高校の制服を着ているスタイルのいい女の子。
しかし、ブラウスを突き破ろうかという勢いの胸が彼女が美沙でもあかねでもないことを物語っている。
ズゥッシィィンッ!!!
衝撃で電車が少し浮いて線路に叩きつけられる。
「キャアッ!」
小春はドア横の手すりにしがみついたまま座り込んでしまう。全くの別人が巨大化しているとわかった途端、恐怖で動けなくなってしまったのだ。
(このままじゃ、踏み潰されちゃう。に、逃げなきゃ・・・)
そうは思うが腰が抜けて動けない。
完全にテンパってしまった小春の中からは、『巨大化する』という選択肢は完全に抜け落ちていた。
ズゥッシィィィンッ!!!
衝撃で小春が乗っていた車両を含む数両が数m跳ね上げられ、横転した状態で線路上に叩きつけられた。
小春は手すりにしがみついたまま、ぶら下がる格好になってしまった。
(あれ?止まった?)
小春がぶら下がったまま真上を見ると、何か途方もなく巨大なものが上空に覆いかぶさっているように見えた。電車を覗き込んでいるようなそんな顔、ショッピングモールで巨大な美沙が中を覗き込んでいた光景がフラッシュバックする。
「あっ・・・」
声が聞こえた。たぶん、電車を覗き込んでいる巨人の声だ。
「落ちないようにしっかり掴まっててね。」
ミシィッ!
直後に小春が乗っていた車両全体が軋み、さらに上空へと引き上げられる。
小春はここで落ちたら死んでしまうと必死に手すりにしがみつくしかなかった。
突然天地が逆さまになり、小春は手すりに掴まったまま車両の外にぶら下がる格好にされた。
「あの・・・小春、ちゃん?手を離して、大丈夫だから・・・」
外から少し怯えたような声が轟いた。
(私のこと、知ってる?でも、大丈夫・・・かなぁ)
そうは思ったがもう腕が限界だった。
小春が諦めて手すりから手を離すと、何だか柔らかい場所に落下した。
(ここって・・・って、でかっ!!!)
小春の想像通り巨大な手のひらの上だというのは理解したのだが、目の前には巨大なブラウスが壁のように聳えている。だが、驚いたのはそこから突き出しているものの巨大さだ。
ブラウスを突き破りそうな勢いで出ているそれは、小春の爆乳に匹敵する巨大さだ。
実際、もう片方の手で摘まんでいる小春が乗っていた車両を余裕で呑み込めそうな大きさだった。
上空から声が聞こえた。
「ごめんね。怖かったでしょ。時間、戻すね。」
見上げると、巨大な女子高校生の顔が小春を見下ろし、摘まんでいた電車を真っ二つにへし折って、握り潰しているところだった。
「ふぅん、そんなことがあったの。」
翌日の放課後、小春が美沙とあかねに昨日起こったことを説明していた。
「でも、それって美沙ちゃん以外に魔女がいるってことだよね。」
あかねも少し興味津々だ。
「うちの学校にもうひとりいることはいるけど、そういうことする子じゃないと思うんだよねぇ。」
「「いるんだ!?」」
小春とあかねが思わず声を揃えてしまう。
「まだ学校にいるかなぁ。ちょっと見て来るよ。」
そう言って、美沙は教室から出ていった。
小春とあかねが1年2組の教室で待っていると、美沙が同じくらいの身長のスタイルの良さそうな女の子と一緒に戻って来た。
「犯人見つけたよ~。」
「み、美沙ちゃん、犯人とか、ひどいよぉ・・・」
一緒に来た女の子は少しオドオドしているようだった。
(あ、あの時とおんなじスタイルだ。やっぱ、胸、すっごく大きい!)
小春は顔はよくわからなかったが、昨日の巨人だとすぐにわかった。
「え・・・えっと、1年4組の木闇沙織、です。あの、小春ちゃん、昨日はごめんね。まさかいるとは思わなくて、見つけた時ビックリしちゃって、あの、その・・・」
それっきり沙織はうつ向いてしまう。
「あっ、きっ、気にしないで、でも、巨人が歩くだけですっごく怖いんだね。」
「そうだよぉ、小春ちゃん、超ビビってたんだから、責任取らなきゃ、ね、沙織ちゃん。」
美沙が横やりを入れる。
「えっ?せ、責任・・・って?」
「それは小春ちゃんに決めてもらおう。」
狼狽える沙織に美沙がしれっと言い放った。
「あの、沙織ちゃんも、魔女、なの?」
小春としてはやはり聞かずにはいられない。
「え?あ、はい。。。」
続けて美沙が補足とばかりにまくし立てる。
「沙織ちゃんはS級魔女だよ。私はA級だから魔女としては沙織ちゃんの方が上なのよ。」
「S級とA級ってどう違うの?」
しばらく聞き役に徹していたあかねが口を挟む。
「簡単に言うと魔力の強さかなぁ。例えば、時間戻せるじゃない?あれって私だと1億人の記憶を1日戻すのが精いっぱいなんだ。でも、沙織ちゃんは世界中の人間の記憶を1年は戻せるくらいの魔力があるのよ。」
「すごっ!そんなに違うんだ!」
素直に小春が感動する。
「でもさぁ、なんで巨大化したの?人間いじめるの好きじゃないって言ってなかったっけ?」
今度は美沙が沙織に質問した。
「実は・・・3人が巨大化して遊んでるのを偶然見ちゃって、でもその時は『楽しそうだな』くらいしか思わなかったの。でも、昨日、電車で酔っ払いに絡まれて、」
「ムカついて巨大化して潰した感じ?」
「うん、それで、足元見たらみんなちっちゃくてなんかちょっと遊びたくなっちゃって、ちょっと向こうに電車が止まったから、踏み潰そうかなって思ってつい・・・」
「そんで小春ちゃんを見つけて焦ったんだ。」
沙織はゆっくりと頷いた。
「でもさぁ、沙織ちゃんはこういうことは好きじゃないだろうなと思って誘わなかったんだけど、意外と好きなんだね!」
「うん、酔っ払いの電車踏み潰した時はちょっと楽しかった。」
「じゃあさ、私のお願い決まった。沙織ちゃんも一緒に今度4人で遊ぼうよ!」
小春が目を輝かせて沙織を見上げる。
「えっ?いいの?」
「いいんじゃない。歓迎するよ。美沙ちゃんは?」
あかねも賛成した。
「元々最初は同じ魔女だし沙織ちゃんを誘おうと思ってたからね。でも、沙織ちゃんおとなしいし、そういうこと嫌いかなって思って誘わなかったんだ。それに沙織ちゃんが仲間に入ってくれたら、魔力不足とか気にしなくて済むしね。」
お互い魔女とわかってからは友人同士なので、美沙が反対する理由はどこにも無かった。
巨大娘短編集 唐変木 @touhenboku_desu
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