黄泉の案内人
東井タカヒロ
三途の川
皆さん初めまして。
私はここ、三途の川で黄泉へ案内している者です。
最近は人が増えて大忙しです。いずれ貴方も来ることになるでしょうから、少し先に案内しますね。
ここは三途の川、あの世とこの世の境界線みたいなものですね。
そのまま渡ることは出来ません。
そこで私達船乗りの出番という訳です。私らが向こう側へと御連れします。
私どもは無理矢理乗せることもありませんし、誘うこともありません。
頼まれ、対価を受け取ってから運びますから。
駄賃はなんでも構いませんよ。船に乗ると同等程度の対価であれば。
お金ですか。片道1万ぐらいですね。
未練などは早めに結末をつけることをお勧めしますっよ。
船に乗る人?幽霊ですか、口を揃えて言いますよ。
「もっと知っておけば」って。
まぁ私はそちら側へ行くことが出来ませんからよく分かりませんけど(笑)
黄泉へ送った先?そんなの知りませんよ。私の仕事はこちら側からあちら側へ送ること。
転生するのか、天国へいくのか、地獄へいくのか。そんなことは知りません。
さぁ、そんな私がかつて運んだ人達の話をしましょうか。
「いくら払えばこの船に乗れるんだ」
そう声をかけてきたのはまさに成金のような幽霊でした。
「乗る分の対価を払えば乗れますよ」
「分かった乗ろう」
そうして男は私の船に乗り込みました。
「手を貸してもらいますか?」
男と手を合わせると、男は駄賃を払いました。
早死。交通事故による被害者でした。そんな彼の駄賃は大切な人との記憶でした。
「良い奥さんですね。」
「俺に嫁はいないぞ。誰の話だ?」
もう彼は覚えていないのでしょう。彼女のことも。
再会した時が楽しみですね。
対価は私どもにさえ選べません。
「さぁ、もう対岸ですよ」
三途の川はさほど長くありません。せいぜい25mぐらいです。
だけど、誰もその身で辿り着くことはない。
「良いことになるといいですね」
「ありがとう。もう会わないと思うが。」
「えぇ、」
もう会わないですか……。魂が変わることはないのに。
あの調子だとまた何処かで会うかもしれませんね。
ここへ来る条件は実に簡単なこと。負債がマイナスになることです。
おっと、今日はここまでのようですね。また明日会いましょう。
それでは、良い人生はお過ごしください。
黄泉の案内人 東井タカヒロ @touitakahiro
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