マクリと玩具。

taiyou-ikiru

第1話

 西欧の玩具店の窓際には近頃マクリという男児が夢見る様に覗いているのでした。マクリは玩具を見ることが好きでした。生まれは決して貧乏と言うほど貧困ではなく、毎日白パンが食卓に並ぶほどの家でした。ですがマクリは最近貧乏でした。なぜなら親からの小遣いを必死こいて戦艦のプラモデルに使用して、懐はすっからかんに寒くなっていることが何よりの証明でしょう。しかし今日は違いました。小遣いが支給される唯一の月末に心温めて、朝一番に窓から玩具を覗いていました。しかし、明瞭な目の輝きと言うには程遠く、どこか悩みがある様に手を組んで悩ましそうに見ているのです。

(今日貰ったお金は2000円だ。もし、これを下手なおもちゃに使ってしまったら本当に欲しかったこの飛行機のプラモデルが買えないだろう。たった三つき待てば買える程度の金額なのに。だけれど今日手持ち無沙汰で帰るのはどこか心苦しい。ああ、どうしよう。)

 そうして幾分か悩んだ末に一旦家へ帰ることにしました。後ろ髪を引かれながらも玩具店を後にしました。そうして闊歩していると薄暗く、見えづらい街角に出没しました。

 何食わぬ顔でいると傍から病犬が襲ってきました。特徴の牙を尖らせて、翡翠の目の色をした犬でした。マクリはわっと驚き、後ずさりをすると病犬は言いました。

「俺の主食はあそこのおもちゃだ。あれは美味い。美味だ。今すぐ持ってこい。さもなければお前を代わりに食ってやる」

 その逆撫で声と困惑でマクリは参ってしまい、言いました。

「いや、それは、、、できないよ・」

 それで病犬は食い下がることなく、「いいや、買ってこい。おれはそれをのぞんでる」と言うので心を纏めてマクリは言いました。

「だってあの玩具を買ってしまったら本当に欲しいものはいつまで経っても買えないじゃないか。僕は本当に本当にあれが欲しくて焦がれていたんだ。この僕の気持ちを一時の心変わりでなくなることはもったいないじゃないか。」

  そう言うと、悪魔が角からやってきました。そして暴れる病犬を羽衣でふわっと優しく結びつけ、そのまままた角へと連れ去られに行くのでした。それを見ているとなんだかばからしく感じて、わっはっはと勢いよく笑いました。

 そうして帰り道に駆けるマクリの手は一回り大きくなった気がしました。

 また、帰った後に買えばよかったと少し、思ったことはまた別のお話です。

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マクリと玩具。 taiyou-ikiru @nihonnzinnnodareka

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