レッツパーティー
藤泉都理
レッツパーティー
〈お題〉
【Aさんは仲間(B、C、D)と四人でパーティーをすることにしました。
会場はいつものBさんの家に決まり、当日Aさんは準備をしに少し早めに向かおうとします。
しかし、仕事で遅くなるから勝手に入って先に始めててくれとBさんから連絡が来ました。
前にも何回かパーティーをしているので、勝手知ったる他人の家。Bさんの家の合いカギの隠し場所を、Aさんは知っています。
Bさんの家の玄関を開けて一目見るなり、血相を変えてAさんは逃げ出しました。
Aさんは何を見たのでしょう?】
会場はいつもの葡萄の家に決まって、当日杏は準備をしに少し早めに向かおうとする。
しかし、仕事で遅くなるから勝手に入って先に始めててくれと葡萄から連絡が来た。
前にも何回かパーティーをしているので、勝手知ったる他人の家。葡萄の家の合いカギの隠し場所を、杏は知っていた。
葡萄の家の玄関を開けて一目見るなり、血相を変えて杏は逃げ出した。
口から吐き出されるのは、荒い呼吸。
心の中で吐き出されるのは、嘘つきの一言。
嘘つき、嘘つき、嘘つき。
葡萄のやつ、嘘をつきやがった。
(いえ、もしかしたら、葡萄も知らなかったのかもしれない。仕事で遅くなると言っていたし。仕事中の葡萄に連絡が付かないで勝手に入ったのかもしれない)
葡萄が嘘をついたのではないかもしれないと信じたかった。
まさか、杏を、青梗菜を、大豆を差し出す腹積もりではなかったのだと、心底信じたかった。
ダンダンダダンダンダダン。
気のせいか、否、気のせいではないだろう。
ダンダンダダンダンダダン。
妙にリズミカルな地鳴りが聞こえるのは。
やつらが、追ってきているのだ。
逃げた時点で諦めるようなやつらではなかったのは、重々承知。
けれど、逃げなければ。
けれど、捕まってしまえば。
ダンダンダダンダンダダン。
ダンダンダダンダンダダン。
ダンダンダダンダンダダン。
妙にリズミカルな地鳴りと共に、様々な音が聞こえてくる。
笑い声、叫び声、怒り声、悲し声、素振り音、ボール音、銃声、剣戟音、飛翔音、動物の鳴声、正体不明音。
数が、増えたのだ。
(ヤバいヤバいヤバイヤバイっ!!!)
今年はもう、
「贅沢できない………なあ」
「ねえねえ、杏姉ちゃん。これも買っていい?」
「ねえねえ、杏姉様。あれも買っていい?」
「なあなあ、杏さん。これもいい?」
「なあなあ、杏。これもいいか?」
「ねえね。杏ちゃん。これもいいかな?」
「もしもし。杏さん。これもよろしいでしょうか?」
「もし、杏様。あれもお願いできないでしょうか?」
「ようよう。杏。これ全部お願いふぅ~」
「ちょちょちょちょっ。これもお買い得だって。いいよね。いいよねっ!」
「もうみんな買い過ぎだよ。ねえ。杏さん。もう買わない方がいいよね?」
二十の無邪気な瞳に見つめられた杏は、か細い声で、買っていいよと言った。
瞬間、湧き立つ歓声。
いいじゃないか。
ほろり。涙を流した杏は自分自身に呼びかけた。
いいじゃないか、葡萄とはもはや家族同然の付き合いといってもいい間柄なのだ。
それじゃあ、葡萄の兄妹の子どももまた、家族同然。
家族に大金を使うのは、ままある事だろう。
(場所も貸してもらってるわけだし、お金を出さないわけには。けど。葡萄、青梗菜、大豆と割り勘しても、これは結構な金額)
「「「「「「「「「「レッツパーティー!!!」」」」」」」」」」
「れっつぱーてぃー」
杏は夏休みに突入した元気いっぱいの保育園児、幼稚園児、小学生、中学生、高校生、計十人の葡萄の兄妹の子どもと共に、両手いっぱいにパーティー用の買い物袋をぶら下げてスーパーから出たのであった。
(………多分。今夜は眠れない。な)
子どもたちの相手をしたのちは、葡萄の兄妹が待ち構えているのだ。
眠れるはずがないのである。
(明日が仕事だったらよかった、ね)
葡萄の家の玄関を開けて一目見るなり、杏は逃げ出したくなったが、十人の子どもたちに阻まれて叶わず。
杏を追わなかった他の葡萄の兄妹の子どもたちにもみくちゃにされている、青梗菜と大豆と視線を交わしては、こくり、小さく頷いたのであった。
ちなみに、葡萄が帰って来たのは、葡萄の兄妹の子どもたちが寝静まり、大人たちの時間に突入して間もない深夜一時であった。
(2025.7.19)
レッツパーティー 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます