償い

ガツン、ガツンとボロボロのアパートの階段が音を立てて鳴る。

先程の出来事でまだ苛立ちが収まらないひかるは玄関の扉を勢いよく開け、乱雑に靴を投げ捨てる。

時計を見れば針は深夜三時を指していた。


『…まじでアイツなんなんだよ』


冷蔵庫から水を取り出し勢いよく飲み干した空のペットボトルをゴミ箱に投げ捨て、畳の部屋に寝転がる。

六畳一間の部屋には物が殆ど無くあるのは布団と数着の服のみ。

そんな殺風景な部屋にひかるは、もう4年も住んでいた。


寝転がり天井を睨みつけ先程の田宮の言葉を思い出す。


―火事に巻き込まれる―

―お前の為に言っている―


『ッチ』


小さく舌打ちをしたひかるはそのまま目を閉じて眠りについた。












暫くして何かが焼けるような強烈な匂いで目を覚ました。

呼吸をするのが嫌になるほどの匂いに顔をしかめ、ゆっくりと状態を起こし

辺りを見渡すが部屋は帰宅した時と同じ状態である。


気のせいだと再び眠りにつこうとした時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

そしてどんどんと音はひかるのアパートに近づいてくる。


流石に気になったひかるは起き上がり状況を確かめようと外を覗いてみれば

アパートの前にいる沢山の野次馬がこちらを見上げており、その中の一人がこちらに向かって何かを叫んでいた。


『あ?なんだよ』


気になって窓に触れた時、手に衝撃が走るほどの熱さを感じた。

何故そんなことになっているのか。

状況の把握ができないまま呆然と立っていると、先程より更に強烈な匂いが部屋に充満してくる。


咄嗟に辺りを見渡すと、玄関のわずかな隙間から煙が侵入していることに気が付いた。


『…まさかっ』


自分の置かれている状況を理解したひかるは玄関に向かいドアノブに手をかると、

先程と同じく握れないほどの熱さだった。


―アパートが燃えている―


それもかなりのスピードで炎がこの部屋に到達している。

煙を吸わないように鼻と口を手で覆いこの状況をどうするべきか頭を働かせる。


この辺の道は狭く、入り組んでいるため消防車が到着するには時間がかかるだろう。その間に外へ逃げる道を考えなければならない。

窓を割って下に飛び降りようと考えていたが、ひかるはふと思った。


この部屋に残れば死ねるのではないか。


『…ははっ。そうだよな。逃げる必要なんてねぇだろ』


部屋に戻り壁にもたれずるずると座り込みながら、時が過ぎるのをただじっと待つ。

すると数分もしないうちに炎が部屋の中に侵入してきたのだ。


まるで地獄の業火にいる気分である。ひかるは

燃え盛る炎を見ながら


―これはアイツに対する償いだ―


と、心の中で呟いた。

迫りくる炎の熱さと煙を吸ったことにより呼吸が困難になってゆく。そしてだんだんと視界がかすみ、遂にはその場に倒れこんだ。


―今度こそ死ねる―


そう死を覚悟した時、玄関が音を立てて乱暴に開かれた。


『げほっ、げほっ…』


意識朦朧とする中で視界に入る人物を捉えたひかるは、自分に伸びた手を無意識に掴む。それと同時に浮遊感を感じた。


『…は、るき…』

〈ひかる〉


その声を最後にひかるの意識はぷつりと途切れた。

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死にたがりの君に一生分の愛を 悠李 @akane-yuuri

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