第10話「桜舞い散る、永遠の配達」
桜の花が舞い散る、美しい春の日でした。
わたくし、最後の配達に向かっています。
「ハルさん、今日も一緒に行きますよ」
ユウキ君が、わたくしの手を取ってくれました。温かい手でした。
最後の配達先は、小さな保育園でした。送り主は、園長先生の田中恵子さん。宛先人は、保育園の子供たちです。
「先生の最後の言葉を、子供たちに届けてください」
恵子先生の娘さんが、涙ながらに頼みました。
『みなさん、先生は、皆と過ごした時間が、一番幸せでした。皆の笑顔が、先生の宝物です。これからも、たくさん笑って、たくさん遊んで、優しい大人になってくださいね』
子供たちは、先生の声を聞いて、じっと耳を傾けていました。
「先生、ありがとう」
小さな女の子が、手を合わせて言いました。他の子供たちも、真似をして手を合わせます。
わたくし、その光景を見ていて、とても温かい気持ちになりました。愛は、こうして次の世代に受け継がれていくのですね。
配達を終えて、保育園の庭のベンチに座りました。桜の花びらが、ひらひらと舞い落ちてきます。
「ハルさん、お疲れ様でした」
ユウキ君が、隣に座ってくれました。
「ユウキ君、わたくし、そろそろお休みする時間のようです」
「ハルさん……」
「大丈夫ですよ。わたくし、とても幸せでした。たくさんの人の愛を運ぶことができて、本当に幸せでした」
わたくし、だんだん意識が薄れていくのを感じます。でも、怖くありません。
「ユウキ君、これからは、あなたが皆の想いを運んでください。わたくしが、サクラさんから受け継いだように」
「はい、ハルさん。必ず」
ユウキ君の声が、遠くから聞こえます。
わたくし、今まで配達してきた、たくさんの人たちの顔を思い浮かべました。
リコちゃん、ライブラリアン01さん、健二さんと千鶴子さん、古賀さん、美咲さん、山桜、斉藤さん、太郎君、花子さん……。
みんな、とても大切な人たちでした。わたくしは、その人たちの愛を運ぶことができて、本当に幸せでした。
「ありがとうございました」
わたくし、小さくつぶやきました。
桜の花びらが、わたくしの頬に触れます。とても優しい感触でした。
そして、わたくしは、静かに目を閉じました。
***
一年後。
ユウキ君は、立派な記憶配達人になっていました。今日も、誰かの大切な想いを運んでいます。
「配達先、鈴木一郎様。送り主は、お母様の鈴木京子様です」
ユウキ君の声は、わたくしと同じように、温かく響きます。
記憶配達人営業所の壁には、小さな写真が飾られています。わたくしの写真です。その下に、プレートがあります。
『記憶配達人ハル 永遠の愛を運ぶ人』
わたくしは、もういません。でも、わたくしが運んだ愛は、今も人々の心の中で生き続けています。そして、ユウキ君が、その愛を受け継いで、新しい愛を運び続けてくれています。
愛は、決して消えることはありません。
人から人へと受け継がれて、永遠に続いていくのです。
わたくしは、今でも、みんなの心の中で、愛の配達を続けているのです。
桜の花びらが、今日も優しく舞い散っています。
その一つ一つが、わたくしが運んだ愛の記憶のように見えました。
(了)
【SF短編小説】記憶配達人ハル ~最後の言葉を運ぶもの~ 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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