デウス・スペード、参上!
「ねぇ、あのー……いい雰囲気のところ、悪いんだけど……」
カバンの外ポケットから顔を出し、キュートが申し訳なさそうな口調で話し出す。
「この付近でエクスマキナの反応が検知された。楽しんでるとこ悪いけど……討伐してくれるかな?」
やっぱりか……という落胆と共に、味方がいるという心強さが湧いてくる。
「ふぅん、私の初戦闘という訳だね。派手に蹴散らしてやろうじゃないか。」
「そうだね……!今なら理香ちゃんもいるし、なんか、勇気が出てきた……!」
「じゃあ、リカにはコレを渡しておくね。」
そう言うとキュートはどこかから金色に光る宝石を取り出し、理香ちゃんに手渡す。
「いいかい?それを持って、『デウス・チェンジ』と唱えるんだ。」
「それじゃあ、時を止めるよ。準備はいいね?」
「うん!」
「ああ。」
キュートが懐中時計のスイッチをカチリと押す。すると、周囲はモノクロの世界へと変わり、大通りの真上の空がひび割れるように裂けていった。
「ほぅ、これは本当に時間を止めているのか……興味深いね。それにあの空間の中に見える星々……なんだか面白いことが起こりそうだ。」
どうやら理香ちゃんはエクスマキナに興味津々らしい。ビビっていた私とは大違いだ。
「エクスマキナが来るよ!!2人とも!!」
「「デウス・チェンジ!!」」
そう唱えると、金色の宝石から煌びやかな光の帯が溢れ出す。それは身体中を繭のようにつつみ、やがて弾け、魔法少女の衣装をかたどっていく。
ピンク色の光が収束し弾けると巨大なカミソリに、水色の光が収束し弾けると大きめの薬瓶に変化した。
少しだけ言い慣れたセリフを言ってみる。
「すべてを切り裂く愛憎の波!
デウス・ハート!!」
それに続いて、理香ちゃんが叫ぶ。
「真理を暴く正義の知性!
デウス・スペード!!」
変身を終え、理香ちゃん……デウス・スペードの方を見てみると、大量の薬瓶を
「ふぅん、この衣装に、この全能感……悪くないね。」
「すごい!理香ちゃん!!とっても似合ってる!かっこいいよ!!」
「ふふふ、充もなかなか様になっているね。かわいらしいよ。」
「もー2人とも!!エクスマキナが来るよ!!準備して!!」
巨大な空の裂け目から現れたのは、やはりゴスロリ調の服を着た、フランス人形のように整った顔立ちのバケモノだった。
袖から覗く手は幾本もの触手になっていて、アレをまともにくらえば骨の数本は容易く折れるだろうと想像がつく。
でも大丈夫。私はひとりじゃない。今は理香ちゃん……スペードがいる。
「さぁ、いこうか。」
「うん!」
その短い会話を皮切りに、私達は駆け出す。
触手で薙ぎ払われそうになった時、すんでのところで跳躍して回避する。そして落下の勢いそのままに、エクスマキナの片手を切り落とした。
「グググ……ガガ……」と悲鳴のようなものがこぼれるエクスマキナに、更に高い所へと建物を伝って跳躍していたスペードが薬瓶を投げつける。
それらはエクスマキナの身体に当たると爆発し、その巨体を大きく揺らめかせる。
「ギギギギ……」と歯ぎしりのような音を立てたエクスマキナは、見境なく残った触手を振り回してくる。しかし、先程の爆発で目が潰れたようで、気をつけてさえいれば全く当たらずに済んだ。
スペードは再び建物を伝って高所へ跳躍し、空きっぱなしになったエクスマキナの口へありったけの薬瓶を投げ入れる。
それが爆発しエクスマキナが光の粒子となって消えたところで、スペードが高らかに笑う。
「科学とは芸術、芸術とは爆発、即ち、科学とは爆発なのだよ!!はーっはっは!!」
「スペード、すごい!!ほんっとうにすごかった!!あんな簡単にエクスマキナを倒しちゃうなんて……!」
「いやぁ、ボクも正直予想を裏切られたよ。もっと苦戦するかと思っていたけど……杞憂だったみたいだね。素晴らしいコンビネーションだ。」
衣装がピンク色と水色の光となって、元の制服姿に戻る。
「さぁ、時を動かそう。これなら、いつエクスマキナが来ても安心だね。」
キュートがカチリと懐中時計のボタンを押すと、モノクロの世界は色彩を取り戻し、何事も無かったかのように動き始めた。
「それじゃあ、帰ろっか!」
「そうだね、また明日学校で会おうね!」
「あぁ、また明日。」
バイバイと手を振りあい、それぞれの帰路に着く。
明日がこんなに楽しみなのって、いつぶりだろう。
今日は、スッキリした気持ちで眠れそうだ。
明日の為の用意を済ませ、床に就くのだった。
「デウス・スペード……うんうん、いい成果だ……このまま順調に行けば……クククッ」
魔法少女よ、死神に成れ。 島流他枷 @shimanaga4
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