第10話
『俺が撃ったことにしたらいいじゃねぇか。まぁ、気にすんなよ。悪いやつを殺すことは、悪いことじゃない。重犯罪者を死刑にすればいいと思ってるやつとか、判決が甘いと言ってるやつはいくらでもいる。お前は、自らで手を下したんだぞ、そこらへんの大人より役に立ってる。』
毒島は、この女たちの正体は知らないが、悪いやつだと決めつけて慰める。
『そういう問題じゃないでしょ。一人の人生を終わらせちゃったのよ。悪い人の人生にも思いやりとか優しさとかあるでしょ。』
涙目の柚子は、汚物を持つように人差し指と親指で銃を持ち、毒島に押し付けた。
『そんなことより、初めてでちゃんと当たったんだよな。なかなかセンスあるんじゃないのか。反動で手が痛ぇだろ。』
桃のそんなことより、に続く言葉としては場違いすぎるため、林檎がため息を漏らす。
『そんなことより、この女どこかで見覚えがあるのだが。』
自分のそんなことより、は正しく使えてるんじゃないのか。と林檎は自信をもって話す。
桃と毒島は、あまり心当たりがなく、首を捻る。
『家政婦だ、奥さんのマドレーヌを私に出した。なぜだ。なんのためだ。ボスの命令にしてはおかしい。』
林檎は思い出し、女の顔をまじまじと見つめる。
『あ、言われてみれば確かにそうだ。多分こいつお前に気が合ったやつだよ。紅茶を淹れるときもチラチラ見てたのを俺は気づいてたぞ。無駄に顔がいいからな。だから、お前のことが嫌いなんだよ。』
桃が、林檎の頬をつつきながら教えてやるが、嬉しそうな素振りは見せなかった。
『好きだからって車で突っ込むなんて、変わったアプローチだな。でも、他の男も乗せてたしよ、お前は二人目の男なんだよ。一番じゃねぇよ。俺がその男を殺したからお前が一番になったけど、女が死んだからもう一番じゃねぇよ。ちょっとだけ一番だっただけだ。』
毒島が、苦し紛れの妬みを飛ばす。柚子は、ついさっきまでこんな幼稚な大人に慰められていたのかと、心底がっかりした。とりあえず、死体を車に詰め込む。人通りがほとんどないとはいえ、見つかれば、また死体を増やすことになるかもしれない。家政婦の女が運転していた車を移動させ、綺麗な丸型になっている血溜まりを隠す。
『ちょっと、嫌な感じがしてきたな。ボスに連絡してみよう。死体の処理もさせねぇと。怒られるかなぁ?なんかあっても連帯責任だからな。』
桃が、電話をかける。かけてすぐに、娘は無事か。と聞こえて来る。こんなに心配していたら、わざわざ武装させた家政婦を向かわせないと確信した。
『いやぁ、途中で奇襲に会いましてね。なんとかなったんですが、死体と車の処理を頼みたいんです。できれば、新しい車も。襲ってきた女が、ボスの家にいた家政婦だったんですよ。林檎のことが気になってたやつ。』
『おそらくその女、最近来て、数日前に失踪した家政婦だ。なにか企んでいたのか。娘と関係があるのか。とりあえず、死体は片付けるから早く娘を探すんだ!』
電話を切り、桃が頭を悩ませて、重い口を開く。
『こりゃ、ただの誘拐じゃないな。もうビルにもいないかもしれねぇ、どこかに移動させたのか、多分、殺しはしないと思うが。』
車を調べていた毒島が声をあげる。
『女の電話が二つあるぞ。連絡用だな、誰かから命令されたんだ。掛けてみようぜ。』
毒島が電話に目をやると、ちょうど着信が鳴る。
液晶には、新島という名前があった。家政婦の女と違ってこの名前には、桃と毒島の二人に見覚えがあり、顔を見合わせる。電話に出ると、
『指輪は見つけたか。』
という声が聞こえてきた。
毒島は、懐かしい声だな、畜生。と小さく呟く。桃は、左の胸ポケットに手を当てて指輪の感触を確かめていた。
フルーツナイフ 檸檬 @remontomikan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。フルーツナイフの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます