第三章:千年の眠りと希望の花
宇宙船は自動航行し、蘭丸と佳輝はコールドスリープに入った。
千年の時が流れ、システムが蘭丸を目覚めさせた。
モニターには、地球によく似た緑豊かな星が映っていた。
「着陸だ…新しい始まりかな。誰もいない…寂しいね。翔太や悠斗がいない…美咲さんも…」蘭丸は独り言を呟き、船の窓を見つめた。
外の緑が、彼女の心を揺さぶった。
涙がこぼれた。
一人では困難と判断し、佳輝を起こした。カプセルが開き、彼は弱々しく目を覚ました。
「蘭丸…どこ?また戦うのか?疲れたよ…もう限界かも…みんな…死んだ…」彼の声は震え、顔は青白かった。
「新しい星だよ。希望があるかも。起きて、一緒に探そう。頼むよ、佳輝。一人じゃ怖い…君が必要だ…」蘭丸は優しく答えた。
彼女の手が、佳輝の肩に触れた。
冷たかった。
「本当に?俺、役に立てるかな…またおかしくなったらどうしよう…蘭丸、嫌われないか?みんなに…」佳輝が不安そうに言うと、蘭丸は「もちろん。君は私の力だよ。信じて。一緒なら大丈夫。ずっとそばにいるよ。約束だよ」と励ました。
二人は船を降り、探検を始めた。
草が膝まで生え、風が穏やかに吹いていた。
鳥の声が聞こえた。
希望だった。
崩れかけた研究所を発見し、蘭丸はロゴに気づいた。
「ここ…元の地球?嘘だろ…また同じ場所?何で…翔太や悠斗のために…美咲さんのためにも…」彼女の声は絶望に満ち、膝をついた。
誰もいないこの星で、ただ一人の女となった彼女は、未来に希望を見出せなかった。涙が地面に落ちた。
泥が汚れた。「佳輝…私たち、どうなる?一人じゃ無理だよ。
怖い…みんながいない…翔太の声も…」蘭丸が尋ねると、彼が苦しみ始めた。
「うっ…また…変だ…蘭丸、離れて…危ない…殺すかも…」ウォーキングデッドの兆候が現れ、蘭丸は慌てた。
「佳輝!だめだ!耐えて!お願い!また戻って!信じて!」彼女が叫ぶと、数分後、彼の目がクリアになり、「蘭丸…俺、正常になった?薬が効いた?信じられない…本当に?みんなに…」と驚いた。
手が震えていた。
涙が止まらなかった。
「本当に?!すごい!佳輝、生き返ったんだ!やったよ!翔太や悠斗にも伝えたかった…美咲さんにも…」蘭丸は抱きしめ、涙を流した。
「ありがとう…蘭丸。俺、ちゃんと生きられる?またおかしくなったら…みんなに申し訳ない…翔太に…」佳輝が尋ねると、彼女は「うん。一緒に生きよう。新たな始まりだよ。信じて。君がいてくれれば大丈夫。みんなも見守っててくれるよ」と答えた。
二人で顔を見合わせた。
温かさが戻った。
「ここで新しい人生だ。俺がアダム、君がイブだろ?笑える話だな。昔の夢みたいだ。宇宙に行けたらって…」佳輝が笑顔で言った。
「アダムとイブか…笑えるね。でも、いいかも。やってみよう。二人ならやれるよね?翔太や悠斗の分も…美咲さんの分も…」蘭丸も笑い、二人で手を握った。温かさが、冷えた心を癒した。
ペンダントが光った。
終章:希望の花
太陽がゆっくりと地平線から昇り始めた。
柔らかな朝日が、朝顔らしき花の花弁に優しく触れ、薄紫と白の色彩が一層鮮やかに輝き始めた。
「生き残ったのかな?綺麗だね、蘭丸。これ見て。昔、君が美術部で描いてた花だよ。夏の教室の窓から見えたあの朝顔を思い出すよ。懐かしいな。」佳輝が静かに呟きながら、花のそばにしゃがみ込んだ。
彼の声には、長い戦いの疲れと新たな希望が混じり合っていた。
蘭丸は彼の隣に立ち、花を見つめた。
「うん。一緒に育てよう。新しい地球をね。約束だよ。みんなの夢も乗せて…翔太の強さも、悠斗の笑顔も、美咲さんの優しさも。この星で生き続けるよ。」
彼女の言葉には、涙が滲んでいた。
ペンダントを握りしめ、失った仲間たちの顔が頭をよぎった。
風が花を優しく揺らし、遠くの森から鳥のさえずりが聞こえてきた。
それは、かつての地球では失われた音だった。
朝顔の花は、蘭丸の人生のように儚くも強く、日の光を浴びて咲き誇った。
その花弁には、ウォーキングデッドの時代を乗り越えた生命力と、未来への静かな決意が宿っていた。
佳輝が立ち上がり、蘭丸の手をそっと握った。
「この星で、俺たちは何を始める?新しい家族を作れるかな。種を蒔いて、村を築いて…でも、またウイルスが…不安だよ。」彼の声にわずかな震えが混じった。
蘭丸は微笑み、「大丈夫。君と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。ウイルスはもう過去だよ。
この花が証明してる。
きっと、子供たちがこの朝顔を見て笑う日が来る。
新しい歴史が、ここから始まるんだ。」彼女の目は、遠くの地平線を見つめていた。
そこには、緑の平原と川が広がり、遠い未来の村の姿が幻のように浮かんでいた。
ウォーキングデッドの時代は終わりを告げた。
だが、この静かな朝の光の下で、二人の心には新たな試練と希望が共存していた。
遠くで、風が花を揺らし、その音はまるで過去の仲間たちの囁きのように聞こえた。希望が広がり、未知の世界が二人を待っていた。
やがて、朝の霧が晴れ、太陽が全貌を現すと、蘭丸は小さく呟いた。「みんな、見ててね。約束、守るよ…。」
その言葉が、風に乗り、新たな時代へと届いた。
<おわり>
短編SF「朝顔」 ポチョムキン卿 @shizukichi
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