第2話

 あの魔物の大軍の襲来から数日。


 騎士団、魔術師団共に落ち着きを取り戻しつつあった。

 砦の外で蹴散らしたので、復旧しなくてはいけないような被害も少ない。

 ちょっと砦の外の地形が変わったけれど、滅亡よりは全然些事。

 

 ちょっと蹴散らした魔物の数が多すぎたので瘴気が発生して復旧どころじゃないけれど、滅亡よりは全然些事(白目)

 魔物が落とした魔石を拾いに行く命知らずたちと取り締まりの騎士の攻防で世紀末感があるけれど、滅亡よりは全然些事(白目)


 あの時唱えた呪文

 「萌え萌えキュン」


 例によって他の魔術師たちも試しに唱えてみるわけですよ。そうしたら、なぜかものすごい威力が出ちゃったりして。

 私が魔法少女の呪文を唱えた時よりは威力が弱いけれどね。

 私以外の人が「萌え萌えキュン」を唱えると、威力は出るけれど脱力感も半端ないらしい。魔法の威力の反動? 


 最強の呪文の生みの親として、救国の筆頭魔術師として、

 「最強の呪文はここぞという時に使うように」と魔術師団員たちに厳命しました。


 本音としては、頻繁に使われると腹筋がヤバイので。


  

 王宮や騎士団、魔術師団などはあの騒ぎで大変でしたが、一般の国民にはパニック防止のため、もともと魔物の大軍のことは知らされていなかったのでそれほどの混乱はありませんでした。知る人ぞ知る、くらいの情報量。

 すべては砦の外での出来事なので内部に被害は無いし、すべて世は事もなし。


 そのはずなのに、なぜかまことしやかに不吉な噂が流れている。


 「魔王復活」




 他国で行われた世界会議から帰国した国王をはじめお偉方が集まった会議室に呼びだされ、とある任務を拝命してしまった。圧が強すぎて断れないやーつー(白目)

 それに、他の人には任せられないし仕方ないよねー(涙目)



 過日の魔物の大軍を退けた祝勝会を兼ねた夜会は、他国の要人も多数招待して行われている。

 この夜会は内々に決まった任務の決起集会も兼ねている重要な夜会。


 賓客たちの目を楽しませるためにプロジェクションマッピングのように魔法で花やシャボン玉、幻想的な風景など様々な幻影を映していく。

 チー〇ラボは魔法使いだったのかもしれないと考えながら呪文を唱えていく。

 

 「フレール」「マジカル」「ポポリナ」「キュアップ」「レムリン」「ポッピンパ」


 次々と映し出される幻影魔法に招待客たちから歓声が上がる。

 その中に瞳を輝かせ「魔法少女」と呟く聖女様を発見!


 魔法による演出が終わり「ご自由にご歓談を」と偉い人が挨拶をした瞬間、私と聖女様は手に手を取り休憩室に走った。



 人払いをした休憩室の扉を閉めて。


 「パンプル」

 「ピンプル」

 「パムポップン」


 「ピピルマ」

 「プリリンパ」

 「パパレホ」

 「ドリミンパ」


 「テクマク」

 「マヤコン」

 「ラミパス」

 「ルルルルル」


 「マリリン」

 「ごめん、それ知らない」


 「ダブダブ」

 「ごめん、その呪文覚えてない」


 突如始まった魔法の呪文クイズ。クイズなのか? どちらかが呪文の一節を言い、聞いた方が続きを言う。

 数度繰り返し、お互い確信した。転生者であると。

 いや、その前から確信してたけどね。


 そこからは転生者あるあるとか、前世話とか、中二病呪文で爆笑したり。

 語っても語りつくせない。ずっと喋りっぱなし。しかも日本語で。


 夜会が終わってもまだまだ話し足りない私たちは、聖女様の宿泊している部屋で二次会を始めた。

 ワインを飲み、つまみを食べながら、日本語で喋りまくる。


 「転生してから転生者に会ったの初めて~」

 「私も~。っていうか、頭痛が痛いみたいになってるよ~」

 ギャハハと品のない声で笑い合う。

 

 「こんなに羽目を外して気持ちよく酔っぱらったの初めて~」

 「私も~。この世界、気ぃ使うよね~。気苦労多いよ~」

 しんみりする。


 「わかる~。こんなにわかり合える人に会えてよかったよ~」

 「こんなご時世じゃなきゃ、もっとよかったよね~」


 聖女様が不安にならないように

 「大丈夫! 私が最強の呪文で敵を蹴散らすから安心して!」

 自信たっぷりに見えるように笑顔を見せると。


 「え~、最強の呪文ってどんなの~」

 と返ってきた。

 聖女様は不安がっていなかった。ただの酔っぱらいだった。


 最強の呪文を聖女様に教える。

 ギャハハハハハと爆笑である。

 つられて私も笑ってしまった。


 酔っぱらいの聖女様が

 「おいしくなぁれ 萌え萌えキュン」

 と手をハートにして振り付きで唱える。

 今度は私が爆笑、……できなかった。


 窓の外に閃光が走り夜空が一瞬明るくなった。

 急いでバルコニーに出て空を見上げると分厚い結界が張られている。


 「すごいよ! この呪文! 聖力爆上がりした!」

 聖女様も興奮状態。

 酔いも吹っ飛んだ。



 けたたましく扉がノックされ、玉座の前に連れ出されたのはそれからすぐのことであった。

 深夜の閃光と結界。城中はてんやわんやの大騒ぎ。非常事態に王様もたたき起こされたそうで、不機嫌そうに見える。

 いくら救国の筆頭魔術師でも権力には弱いので背中を冷や汗が伝う。


 「して、此度の騒ぎは?」

 王様の問いに対して


 「聖女様と魔法談義をしていました」

 おすましで答える。


 「最強の呪文を教えていただいて、聖力にも応用できるかと試してみたところ……」

 聖女様もおすましの表情で全力で乗っかってきた。ついさっきまで酔っぱらっていたとは思えない。


 もともと聖女様来訪の際に王都に張ってもらった結界が分厚くなり距離が伸びて、国中を覆う結界になったそうだ。

 あの魔物の大軍のせいで瘴気まみれになった砦の外の土地も結界のおかげで浄化されたそうで、めでたしめでたし。これで復旧作業がはかどるね。




 最強の呪文の新たな可能性に湧き立つ城内は、悲壮感が消え希望に満ちていた。

 共に任務にあたる者たちと親交を深め、準備が整い、いよいよ出立。




 ◇◇◇




 勇者様、聖女様、筆頭魔術師様のお3人と、お世話をするための侍従と侍女。そして、記録伝達のスキルを持つ記録係のわたしで魔王討伐の旅に出発したのでした。


 魔王討伐という過酷な任務とはうらはらに、道中はまるで快適な旅行のようでした。

 聖女様が結界で守って下さっているおかげで危なげなく進む馬車。

 転移魔法で必要な物資や食事も瞬時に届きます。城から送られてくる贅を凝らした食事は美味でした。


 魔物と遭遇しても筆頭魔術師様が魔法で、聖女様は結界で蹴散らしてくれます。

 筆頭魔術師様の魔法は言わずもがな。聖女様が新たに編み出した結界アタックの威力たるや。

 聖女様が結界でご自身の周囲を覆い魔物に向かっていくと、結界に触れた魔物が浄化消滅する技。

 その名も「結界アタック」


 お2人のご活躍で特に危険もなく魔王城に到着し、城内もスムーズに進み、最強の呪文を唱えたお2人により瀕死になった魔王に勇者様が伝説の聖剣でとどめを刺す。 

          

 ここに魔王討伐と相成りました。 


 この報はすぐに、わたしのスキルで世界中に伝達されました。

 世界中の人々が安堵したことでしょう。


 その後は、聖女様が瘴気を浄化し、筆頭魔術師様が魔法で土地に活力を与え、勇者様と侍従侍女のわたしたちで魔物が落とした魔石を拾い集めて帰りました。

 (勇者様はこの道中ずっと魔石拾い係みたいだなと思っていたことは、ここだけの話です)


 こうして魔王は倒され世界に平和が戻り、救国の筆頭魔術師様は救世の筆頭魔術師様に。聖女様は救世の大聖女様と呼ばれるようになりました。

 

 お2人のご活躍はその後も聞こえてきましたが、勇者様のその後はようとして知れませんでした。



 『記録係の回顧録』より

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