最強の呪文
@159roman
第1話
「我が左手に宿りし封印されし力、今こそ解放の時来たれり、炎よ!」
は? え?
なにその中二病的なセリフ。イタタタタ。ちょっと頭痛が痛いですわよ。草生え散らかしますわ。
10歳の私の頭の中に、知らない大人の女性の記憶が流れ込む。怒涛の様に流れていく、こことは違う世界。前世の世界での記憶。
あまりの情報量に本当に頭痛がしてきて倒れこむ。倒れながらスローモーションのような視界の隅で、魔法の家庭教師の左手に炎がポワっと上がっていた。
そこで意識が暗転。
頭痛と高熱で寝込んだのちに、前世と今世の記憶が融合した私になった。
前世はごく平凡な日本人。
今世はメアリー・ローズウッド伯爵令嬢。
金髪に瞳がピンクという前世では考えられないカラーリング。
これカラコンじゃなく天然でピンク。驚きよね。
鏡をマジマジと見て、そのカラフルな色合いと自分の美少女ぶりに感嘆する。
初めて受けた魔法の授業からの出来事。
前世の記憶を思い出してから、この世界の異常に気づく。
魔法という素敵なファンタジー要素を台無しにする呪文。
恥ずかしい。とてもじゃないけれど恥ずかしくて自分では口に出せない。衝撃的な恥ずかしさで前世の記憶がよみがえるくらいだからね。
これはあれだ、前世で見た数々のアニメやマンガの主人公の様に転生特典チートで無詠唱魔法を使えるようになるのよ。
自室でこっそり無詠唱魔法の特訓。
アニメやマンガではイメージが大切だと言っていたような。
左手の平に炎が出るイメージで体内の魔力を左手の平に集める。
声には出さずに心の中で『炎よ!』
ものすごく魔力を込めてなんとかひねり出した炎は想像よりもずっと小さなロウソクの炎位の大きさだった。
おかしい。倒れる時に見た魔法の家庭教師の先生と同じくらいの炎が出るようにイメージしたのに。
次は、水魔法。
同じように左手の平に水が出るようにイメージして体内の魔力を左手の平に集める。
声には出さずに心の中で『水よ!』
ちょっと多めの手汗くらいの水が出た。
ビチャビチャで気持ち悪い。
他にも風魔法、土魔法を試したけれど全然威力が出ない。
手の平じゃなく指先から出るイメージも試したけれど、これもダメ。
物は試しで素直に中二病呪文を唱えたら、魔法の家庭教師の先生よりも少し威力が劣るくらいのものが出た。
あんなに恥ずかしい思いをしてこれとは「解せぬ」
この国の魔法は、とにかく呪文を唱えることが大事。
呪文に決まりはない。誰かの唱えた呪文を真似たものから、完全オリジナルまで。なんなら毎回違ってもいい。
とにかく唱える。これが大事らしい。
しかし、私には中二病的な呪文を考えるセンスがない。
そして、恥ずかしい。とにかく恥ずかしくて上手に唱えられない。
試行錯誤の末、ピンと閃いた!
前世の記憶を借りるのよ!
「ピピルマパムポップン」
手の平からキャンプファイヤーくらいの炎が出てビビった。
吃驚仰天で腰が抜けた。
見守っていた家庭教師の先生も呆然。
すぐに気を取り直して消火してくれたけれど、天井を少し焦がしてお母様に怒られた。アチャー。
こうして前世で見ていた魔法少女たちの呪文のおかげで、私は魔法の天才少女として名をはせたのでした。
ありがとう! 歴代の魔法少女たち。
15歳で貴族が通う学園に入学するころにはすっかり有名人。
わざわざ魔術師団長まで授業を見学に来たりして。
ちょっとした研究対象です。
魔法の授業は、私にとって試される時間。
あちこちから中二病的な呪文が聞こえてくる。先生も生徒も真面目な表情で。
イタタタタ、腹筋痛いですわ。
私の唱える呪文を他の人が真似ても同じ威力は出ない。
誰もが一度は真似してみたくなるようで、老いも若きも先生も生徒も試してみるけれど結果が伴わない。
想像してみて、サンタクロースみたいな白髪のおじいちゃん魔術師が
「ピーリカキュアップテクマクヤンヤンヤン」
とか真面目な表情で唱えてるの。
ね、試されるでしょ? 腹筋が。
不思議な呪文の数々はどうやって考えついたのかと問われても「閃きです」としか答えられない。
まさか前世で見たアニメやマンガの知識とは言えないからね。
そして自分でも試行錯誤の研究の結果、わかったことがある。
魔法の呪文は一節だけだと大きめの炎だったり、多めの水だったりが出る。2作品分の呪文を一説ずつ混ぜ合わせて唱えると、より強大になるし複数出せたりする。
ファイヤーボールがたくさん出る、みたいな感じ?
3作品分を一節ずつ混ぜ合わせて唱えると、さらに強力になり増える。
それにイメージの力も合わせると、もっと繊細なコントロールもできるようになった。
ガ〇ダムのファ〇ネルみたいに四方八方から攻撃とか、水芸みたいにあちこちからピューっと噴水みたいに水を出したり。
学園に通っている間に、攻撃から人を楽しませる芸までこなせる繊細なコントロール力を手に入れました。
学園卒業後は、在学中からスカウトされていた魔術師団に就職。
新人なのにいきなり筆頭魔術師になるとか、おかしいよね? なぜ誰も反対しなかったのだろう?
いきなりの大出世でいびられるかと思いきや誰もそんなことはしなかった。
「解せぬ」
この世界には魔物がいる。
魔物の対処の仕方はそれぞれの国によるけれど、我が国では通常は騎士団が討伐にあたっている。魔物の数が多い時に魔術師団も要請されて討伐に出ることもあるけれど、基本魔術師団は専守防衛という名の内勤。
魔術師団員は研究が主な仕事で、たまに災害の復旧作業を魔法でこなすくらい。
平和な職場なのだけど、なぜか最近魔物討伐の出動要請が増えている。
そんなことを魔術師団内で噂していたら、緊急出動要請がかかった。
突如現れた魔物の軍勢に対処せよ、と。
転移魔法陣で出動要請のあった砦へ移動する。
瞬時に到着した砦で見たもの……。
周囲を囲う砦の上であっけにとられる。
スライムやホーンラビット、ゴブリンのような比較的よく見かけるものから、滅多に姿を見ることのない巨人族の魔物まで多種多様な魔物の軍勢。
数千、数万、わからないくらいの魔物がひしめきあってこちらに向かっている。
日々騎士団が見張りをしているはずなのに、どこからこんなに突如わき出てきたのか見当もつかない。
呆けている場合ではない。
あの数の魔物の軍勢が攻めてきたら国が滅ぶ。
砦の上から騎士団と協力して魔物を減らすべく魔法を放つ。
騎士団員は弓や大砲で。魔術師団は魔法で。
それぞれが懸命に攻撃を放つが焼け石に水。
前線に出ていた騎士団員たちも後退を余儀なくされている。
私は必死に魔法の呪文を唱える。
ここで国を守れなくてなにが筆頭魔術師か。
「キュアップピリララマハリクマヤコン」
「パンプルリンクルパリエルプリリンパ」
「パラリンフレールシャランラレリーズ」
思いつく限り呪文を唱える。
迫りくる魔物の軍勢に騎士団の攻撃も魔術師団の魔法も焼け石に水。
強力だともてはやされていた私の魔法も敵の陣形を崩すことすらできない。
このままでは国が滅ぶ。
なにか、なにか、なにか、なにかないのか。
もう頭の中は真っ白で呪文が思い浮かばない。
それでも考えるのをやめたら滅亡する。
なにか、なにか、なにか、なにか……。
そして私の口から出てきたのは……
「萌え萌えキュン」
チュドーン!! と轟音が鳴り響き、ビームのように伸びた炎が敵を薙ぎ払う。
さながら巨〇兵のように。
ナ〇シカで見た光景だ。(白目)
もう一度唱えてみる。
「萌え萌えキュン」
今度は大水が湧き出でて魔物たちが濁流に飲み込まれる。(白目)
一周回って面白くなってきた。
「萌え萌えキュン」
たくさんの雷撃が魔物の軍勢を襲う。(白目)
何度唱えても、ものすごい威力を発揮する呪文。
周りで見ていた騎士団員と魔術師団員もあっけにとられてポカンとしている。
あれほど大量にいた魔物の軍勢は、ほぼ壊滅状態。
まばらに生き残った魔物たちが散り散りに逃げていく。
国は守られた。
私たちは滅亡の危機を脱したのだ。
こうして私は筆頭魔術師から、救国の筆頭魔術師へとクラスチェンジしたのでした。
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