火属性最強主人公チートすぎてパンツ以外全部燃えちゃいました。

KASMIN

第1話 その日、俺のパンツは蒸発した──

「俺は燃えないパンツが欲しい」

学園の実習場で天を仰ぎながら思った。

周りはまだ熱気があり、焦げた臭いと煙で騒然。教師は気絶。

俺は着ていた服がすべて焼け、裸のまま意識を失った。

「……お、終わった。せめて布一枚でも」


突如学園を半焼させた炎は、奇跡的に死傷者を出さず鎮火。

火の制御ができず被害を生み出した俺、ラグ・ブレイザー、15歳は即日退学。

火事の影響で学園は休校。学園側から被害にあった分の損害賠償が俺に請求された。

事件当時の下半身丸出しの画像が生徒の間で出回り、色んな意味で有名人になってしまった。


「くそ、もう二度と暴走はしないように気を付けていたのに」

父から譲り受けた伝説の燃えない希少素材のパンツを穿き、正座をして反省しながら後悔していた。ジョロジョロと魔法で水をぶっかけられながら蒸気を出し、ひたすら先生に説教をされている。


「学園の入学金も安くなかったのに、それも全部無駄になり更に大きな負債まで抱えるとは、また冒険者に逆戻りか。火以外の属性も使えるようになればもっと楽になると思ってたのに、何も成長できていない」

「おい。聞いているのか」

怒りの収まらない先生たちは感情的な言葉だったり、被害の内容を永遠とぶつけてくる。


「また水を沸かす仕事でもやるか。でも温泉地の水をすべて蒸発させて旅館や町の人みんなから怒られたんだよな、もう一回やらしてもらえる訳ないか。」

左からも右からも全方向から浴びせられる言葉よりも、これからどうしようかという不安で頭がいっぱいだった。


「いっそのことこのパンツを売ってしまおうか」

父が祖父から受け継いだ形見のパンツ。伝説の燃えない素材で作られたという耐熱性に優れた希少なパンツ。売れば多少の一時金くらいにはなるかもしれない。でも一枚しかないのだ。今回のように暴走した時にアイデンティティを守る最後の砦。手放すには惜しい。

「いや、本当の価値が分かる奴なんて、俺以外にいない」

「せめてもう一枚、替えがあれば今回のことは防げたのに」

「燃えないパンツが欲しいでござるー」

俺は心の中で泣いた。


「本当に火力だけは一人前なんだから、魔物退治でもやってくれよ」

先生の一人が目一杯の優しさで情けの言葉をかけてくれた。

俺は冒険の旅に出ることを決意した。

「火が最強だってこと証明して見せる」

「あと替えのパンツを絶対に見つけてみせる」


ようやく体の熱も冷め、服を着れるようになったラグは早速仕事に出かけた。最近、ゴブリンの被害が報告されている南の森へやってきた。

「ゴブリン程度いくら来ようがわけない」

実際、この程度の魔物の殲滅は何度もやってきたのだ。他の属性が絶望的に向いていない一方で、火の属性だけはすでに一流と言っていいほどの実力だった。


「ねえ、聞いてる?」

当然ながら一人で自由にさせるわけにもいかず、監視役兼サポートとして学園トップの水属性使い、ミリア・アークウェル、17歳が同行することになっていた。彼女がいればもしもの時にも延焼を防げるだろう。

「自分がやったことの重大さ分かっているの?」

彼女の住んでいた寮も吹き飛び、多くの生徒もまた実質的な被害者だった。

「いったい何をしたらあんなことになるのよ」

彼女はまだ怒りを静めきれず、声を荒げて言葉をぶつけるように言い放った。


「あー、左右で合計63個の火球を同時に……」

「はっ、待ってそんなの絶対無理……左右同時の制御だって高難易度なのに……」

一般的に片手の詠唱だけでも高い集中力が必要とされ、ごく稀に左右同時に展開する上級者が存在するとされるが、それが初級魔法の火球(ファイアボール)だとしても、もちろん一学生が到底できるレベルではない。

「だからよー、同じものは複数同時に並列化して、左右に対称で展開すれば……」

口よりも手が先に動く典型的なタイプの彼の両手には、すでに多くの魔力が集中し発生する熱によって気流が乱れていた。

「あいつも疑ってたからよー、こうやって証明してやろうと思ってさー」

状況を確認する暇もなく、悪夢が目の前で再現されようとしていた。


「見つけた、ゴブリンども燃え尽きやがれー、火球(ファイアボール)」

森の奥にいるゴブリンたちの体温を感知し、それらをターゲットにして魔法を放つ。

ドドドドドッと連射するように火球が発射される。

それがゴブリンたちを殲滅させる……はずだったが、プスンとガス欠したように勢いを失う。いくつかの火球は命中したようだが、魔力切れによる不発が多かった。


「ちょっと、やるなら先に言いなさいよ。こっちだって準備ってもんが……」

そもそも正式なパーティでもなく、一緒に戦った経験もない二人、連携が上手くいくはずもなく、場合によっては危険になることもある。

「本当に、火属性使いってのはこれだから……」


「なんか言ったか?さすがに魔力切れっぽいな、仕方ねえ……あれやるか」

まだ余裕があるラグ。しかしこちらに気付いたゴブリンが確実に距離を詰めてくる。同時にジリジリと僅かな音が聞こえ、焦げたような臭いと白煙が辺りに立ち込めていた。


「ねえ、待って何か臭うわ……」

火球の一部は見事に草木を焼き、森を炎で包み始めていた。思ったよりも火の回りが早い。最悪の場合、逃げ場がなくなりゴブリンに追い詰められる。どちらか一方を早急に対処しなければ取り返しがつかなくなる。こんな時こそ連携で役割を分ければ容易になるというもの。しかし火と水のコンビは相性が悪い。


「手伝ってよ。このままじゃ森が全焼よ……ってアンタなんで裸なの?」

気付けば森の中には半裸の男が立っている。どうやら服は体の熱で燃えて消えてしまったようだ。

「燃えてきたぜー、安心しろ、ちゃんとパンツは穿いている」

「そんなこと心配しているんじゃないわよー」

伝説の燃えない素材でできたパンツは彼の超高温にも耐えるのだった。


「炎は炎を強化する」

彼の周りの炎は引き合うように集まり、火災旋風となり火柱を上げ、森を更に勢いよく焼き始めた。ミリアが求めていたのは消火であり、まったく逆のことを行った火力バカ。魔力切れどころか、炎のエネルギーを吸収し自身を強化している。

「本当に何をしているの?このままじゃ森が……ああ」


「火力パーンチ、火力キーック」

炎強化された単純な物理攻撃は、それだけで必殺技級の破壊力を出す。特に火属性はその傾向が強い。ゴブリンに近づいて掴んだり殴ったり、難しいことなんて何もない。そう火属性ならね。


結果は予想通りである。ゴブリンは全滅。見事にラグはクエストを達成した。討伐完了。

「あとは帰るだけの簡単なお仕事だったろ」

笑顔が素敵なパンツの変態がこっちを見ながら微笑んだ。

「……な訳ないじゃん。どうするのこの森。ほとんど燃えちゃったじゃない」

ミリアは気持ち程度の消火活動を続けながら全身に脱力感を感じるのであった。


彼らは学園のみならず、領主に目を付けられ呼び出しを食らうことになった。果たして彼は無事に旅に出ることはできるのか。それとも……

属性最強主人公の物語は始まったばかりである。

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火属性最強主人公チートすぎてパンツ以外全部燃えちゃいました。 KASMIN @Kasmin_Tear

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