第42話 カズキとヒロイン達の答え
「勇者君はほんまに楽しませてくれるなぁ」
と高笑いを残して神様――ロキが去った後、俺の部屋には気まずいような、それでいて甘いような、何とも言えない沈黙が流れた。
俺の腕の中には、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった三人の美少女。その温もりと重みが、俺が選んだ現実を雄弁に物語っていた。
「……つまり、カズキ様は、私たちを、選んでくださったのですね……?」
おずおずと顔を上げたセレスティアの問いに、俺はこくりと頷く。
「ああ。俺は、お前たちがいない世界なんて、もう考えられないからな」
「さすがはご主人様です」
セレスティアとシノンが安堵の吐息を漏らす中、一人こちらを睨みつけてくる少女がいた。
「……それで、あんたは誰を選ぶのよ」
シルヴィアのストレートな質問に、今度は俺が言葉に詰まる。
セレスティアも、シノンも、シルヴィアも、みんな本気で俺を愛してくれている。その想いの重さを知った今、一人だけを選ぶなんて、俺には到底できなかった。
「俺はみんなを選びたい。みんながみんな同じくらい大切なんだ。それじゃあ、だめかな?」
俺がそう言うと、三人は顔を見合わせるとふわりと笑みを浮かべた。まるでこの答えがわかっていたように……
「カズキ様らしいですね、私はそもそもハーレムには賛成ですから構いません。もっとも正妻は私ですが……」
「ご主人様が選んだのならば私に異論はありません、正妻はもっともご主人様の世話をしている私ですし……」
「そう、悪いけど私は反対よ。エルフは一夫一妻制だしね」
「え、でも……それじゃあ、どうすれば……」
困った顔をする俺に三人がいたずらっぽく笑う。
「本来はカズキ様を分裂させたいところですがそれは難しそうなので……」
「週で当番制にすることに決めたんです」
「あんたは実質三人の妻を得ることになるの。それなら文句はないでしょう。私たちで話し合ったのよ」
俺の意見は……と突っ込みたかったが、正直異論はない。そもそもハーレムなんて無茶苦茶なことを言っているんだからな。
こうして、俺の勘違いから始まった物語は、一つの結論に至った。それは、誰か一人を選ぶのではなく、全員と向き合うこと。
具体的には、『当番制』と称して、日替わりでそれぞれの恋人(あるいは夫)として過ごすという、何とも贅沢で、そしてとんでもなく心臓に悪いハーレム生活の幕開けだった。
★★★
「あなた♡ おはようございます。朝食ができましたよ」
甲斐甲斐しくエプロン姿で俺を起こしに来てくれるのは、今日一日、俺の『奥さん』であるセレスティアだ。二人きりの食卓は、シノンのものとは違い家庭的であり、まるで新婚生活のようだ。
昼間は二人で彼女の故郷の孤児院に顔を出し、子供たちから「バカップルだー」とか「エッチなことしたんだー!」とはやし立てられ、夜は屋敷の庭で星を眺める。どこからどう見ても、幸せな夫婦の光景だ。
そして、夜。二人きりの寝室で、俺たちは一つのベッドに入っていた。もちろん、手を出したりはしない。ただ、こうして腕枕をして、彼女の寝顔を見ているだけで、満たされた気持ちになる。
「……ふふ、カズキ様。聞いてください」
眠っていると思っていたセレスティアが、俺の胸に顔をうずめながら、幸せそうに呟いた。彼女はそっと俺の手を取り、自分のお腹へと導く。
「ほら……パパですよ。あなたと私のかわいい赤ちゃんが、ここに……♡」
幸せそうに微笑むセレスティア。彼女のお腹は少し柔らかく、気持ちよい。だけど、言わなければいけないことがある。
「いや、俺達はまだキスしかしてないだろ」
俺が即座にツッコミを入れながらつまむと、セレスティアは「ひゃんっ!?」と奇妙な声を上げて体を震わせた。
「そうですけど!? 神の奇跡が起きるかもしれないじゃないですか!」
「起きないから。それに、まだ心の準備はできてないんだろ?」
俺が苦笑すると、彼女はもじもじと顔を赤らめ、やがて涙目で俺を見上げてきた。
「……だって……だって、カズキ様の……その……ご立派なものが、あんなに大きいなんておもわなかったんです……! 本で読んだ知識では、とても……こ、怖くて……」
ベットでそういう雰囲気になったのだが、いざその時になったら彼女はビビってしまったのだ。泣きながら悲しそうな顔をする彼女を俺はやさしく頭を撫でる。
「ばか。お前が嫌がることを、俺がするわけないだろ」
俺は彼女の涙を指で拭い、その額に優しくキスを落とす。
「お前が本当に『その気』になるまで、いつまでも待っててやるよ。だから、そんな妄想で暴走するな、俺の可愛い奥さん」
「〜〜〜〜っ♡♡♡」
俺の言葉に、セレスティアは完全にショートし、幸せそうに気を失ってしまった。まったく、手のかかる奥さんである。
★★★
「ご主人様、お目覚めの時間です」
そして、今日はシノンの日。それは、俺が完全に無力な『赤ちゃん』になる日と同義だった。朝、ベッドから抱き起され、服を着せてもらい、食事は全て「あーん」で与えられる。彼女の完璧な世話は、俺を骨の髄まで甘やかし、堕落させていく。
「なあ、シノン。たまには俺が、お前に何かしてやってもいいんじゃないか?」
昼下がり。ソファで膝枕をされながら、俺はふとそう呟いた。シノンは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに蠱惑的な笑みを浮かべた。
「……では、ご主人様。わたくしに、何か『ご命令』をいただけますか?」
それは、明らかに誘惑だった。俺はニヤリと笑うと、膝枕から体を起こし、彼女の手を取ってソファに押し倒す。
「え……? ご、ご主人様……?」
いつも余裕綽々の彼女が、初めて見せる狼狽した顔。俺は彼女に顔を近づけ、耳元で囁いた。
「命令だ、シノン。今から俺が、お前をめちゃくちゃ甘やかしてやる。……覚悟はいいか?」
俺が男らしく迫ると、シノンの顔はみるみるうちに真っ赤に染まり、その美しい青い瞳は潤んでいく。
「あ……う……わ、わたくしは、あなた様の専属メイドで……」
「今は違うだろ? 俺の『恋人』なんだから」
俺がそう言って悪戯っぽく笑うと、彼女は「……ずるいです」と呟き、恥ずかしそうに顔を覆ってしまった。
これまでは主人とメイドという立ち入りだったこともあり、エッチなことはできなかった。だけど、今は違うのだ、恋人なのだから……
「ははは。シノンって攻撃力は高いけど、守備力は低いんだな」
「……ご主人様はいじわるですね」
いつもの仕返しとばかりにからかってやると、彼女は涙目で俺を睨みつけてきた。その顔が、たまらなく可愛かった。
★★★
「ほら、カズキ! ぼーっとしてないで、こっちに来なさい!」
シルヴィアとのデートは、決まって彼女の故郷、エルフの里だ。里の皆はすっかり俺たちを『婚約者』として認識しており、その視線はどこまでも温かい。
「なあ、シルヴィア。お前、最近素直になったよな」
「……別に。あんたが鈍感だから、私がはっきり言ってあげてるだけよ」
月光の泉のほとり。かつて告白された思い出の場所で、シルヴィアは俺の肩にちょこんと頭を乗せてくる。もう憎まれ口を叩きながらも、その行動は驚くほどストレートで甘い。
「いつでも、私だけを選んでいいのよ。あんたが望むなら、他の二人には悪いけど、今すぐ私の本当の婚約者にしてあげる」
「はは、嬉しいこと言ってくれるな」
俺が彼女の頭を優しく撫でると、シルヴィアは猫のように気持ちよさそうに目を細めた。その様子を、少し離れた木陰から、アルコウスさんが涙目でリシアさんが実に微笑ましそうな顔で見守っている。もう、完全に公認の仲だ。
俺もこの素直で、強くて、でも本当は寂しがり屋なエルフが、愛おしくてたまらなかった。
そんな、甘くて、刺激的で、そして少しだけ殺伐とした(他の二人が嫉妬の視線を送ってくるので)日々を過ごす中、ある夜、俺は一人、自室のバルコニーで月を見上げていた。
神様に願った『女の子が超積極的な貞操逆転世界』
それは、確かに手に入らなかったのかもしれない。俺のいるこの世界は、男女比が普通で、女性が一方的にアプローチしてくるわけでもない。
だが、どうだろう。
俺を失う恐怖から、聖女の仮面を脱ぎ捨ててまで愛を叫んでくれるセレスティア。
俺を独占したいがために、その全てを捧げて管理しようとするシノン。
俺の隣に立つために、素直じゃない自分と戦い、ストレートな愛情表現をしてくれるシルヴィア。
彼女たちの愛は、確かに重い。束縛も、監視も、独占欲も、全部ひっくるめて、激重だ。
でも、その重さこそが、俺が本当に求めていたものだったのかもしれない。
俺を他の誰にも渡さない、触れさせない。
それが、彼女たちの望んだ世界であり、そして、いつの間にか、俺が心の底から幸せだと感じる世界になっていた。
「束縛? 監視? 大歓迎だ。あいつらが俺を愛してくれてる証拠なんだからな。だから、ありがとうございます、ロキ様。俺の真実の気持ちに気づかせてくれて」
俺は夜空に向かって、ロキ様に呟いて笑った。
勘違いから始まった、俺の二度目の異世界生活。
それは、俺を愛しすぎた元仲間たちとの、甘くて危険で、そして最高に幸せなヤンデレハーレムだった。
この『重くも甘いハーレム』から、俺はもう、二度と出るつもりはない。
★★★
これにて完結です。楽しんでくださった方がありがとうございました .
愛の重いヒロインって難しいですね……
面白いなって思ったら☆や感想などを頂けたらと思います。
世界を救ったご褒美に『女の子が超積極的な貞操逆転世界』へ転生!!……と思ったら、俺を愛しすぎた元仲間たちの激重ヤンデレハーレムだった件 高野 ケイ @zerosaki1011
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