番外編 悪役貴族は娘の誕生日を祝いたい➂
「……馬車での移動が暇すぎる」
「まあ、ベギル殿なら走った方が早いだろうな」
俺は竜の隠れ里に向かうため、アルテナ王国の旗を掲げた馬車に乗って移動していた。
数台の馬車が並び、その馬車を守るように騎士や兵士たちが整然と行進している。
十年前の戦いで熟練の兵士たちが大勢亡くなったせいか、俺よりも若い者が多い。
しかし、練度はかなり高そうだった。
「よく訓練されているな。フラッグシルトの兵士と遜色ないぞ」
「一領地の兵士と王都を守る騎士や兵士が遜色ないのはどうかと思うが……」
「褒めてるんだ」
「ならば素直に受け取っておこう」
……それにしても。
「ん? なんだ、ベギル殿?」
「あ、ああ、いや、なんでもない」
アルロは以前よりも強くなっているようだが、それ以上に色気も増している。
正直、目のやり場に困る。
いやまあ、それ以外にも困る理由はあるっちゃあるんだが。
「ところでベギル殿。いつシャルナ女王陛下を抱いてくれるんだ?」
「アルロまで何を言い出すんだ……」
「いや、すまんな。口では国のためと建前を並べているが、陛下はあれで割と貴殿に本気でな。いい加減他の男にしろと言っているんだが……」
「そう言われても、今から娶るとなると面倒が多い」
「何も娶れとは言わん。抱いてやってくれるだけでもいいんだ。陛下も子供ができても責任を取れとは言わんだろう」
それはそれで無責任な感じがして嫌だなあ。
「駄目なのじゃ!!」
「む、タマモ殿も反対なのか」
「当たり前なのじゃ!! あの小娘、かなり繕ってはいるが、妾と同じ匂いがするのじゃ!!」
「我が国の女王を
「いいや、妾の勘はよく当たるのじゃ。普段は女王に相応しく振る舞っておるが、一皮剥けばご主人様に媚びるれっきとしたマゾになるはずなのじゃ!! ご主人様の女でマゾ枠は妾だけで十分――んひゃんっ♡」
「……うちの変態がすまない」
「い、いや、相変わらずだな」
お尻を強めに引っ叩くと、タマモは口からよだれを垂らしながら静かになった。
コイツを黙らせる方法がこれしかないのはどうにかならないだろうか。
俺は気まずい空気を変えるため、話題を逸らすことにした。
「そう言えば、アルロは結婚したんだったな」
そう。実はアルロ、数年前に結婚したのだ。
当時は俺も忙しくて結婚式には行けなかったが、王都ではかなり話題だったらしい。
なんでも相手はかなりイケメンだとか。
「遅くなったが、おめでとう」
「ああ……まあ、そうだな」
「……ど、どうした?」
「いや、大丈夫だ。……まあ、貴殿なら話しても問題あるまい」
そう言ってアルロは真実を話し始めた。
「表向きは恋愛結婚だとされているが、オレと相手は政略結婚でな」
「そ、そうだったのか?」
政略結婚。
いや、貴族にはよくあることだし、シャルナの地位をより強固なものにするためにその身を差し出したのだろうが……。
アルロは大きな溜め息を吐きながら、内心を吐露した。
「オレの夫が、実は男色家でな。男の愛人が何人もいるそうだ」
「え?」
「他の者たちに怪しまれないようにそろそろ子供を作らねばいけないのだが、夫はオレの顔を見るのも嫌らしい」
「えぇ……」
「まあ、夫はオレに好きな男と子供を作れと言っていてな。その子供を自分の子として認知し、後継者として育てるから問題ないと言っている」
「それは、なんというか、大変そうだな」
家庭にはそれぞれの形があると思うが、アルロは特に大変そうだ。
しかし、勿体ない。
「俺がアルロの夫なら毎日抱きまくるのに……」
「なっ、き、貴殿は何を言っている!?」
「あ、いや、すまん。忘れてくれ」
人妻に対して今の発言は失礼だったか。
「……ベギル殿は、オレのことをそういう目で見ているのか?」
「まあ、少なからず」
「そ、そうか。……それなら、ベギル殿。よかったらオレと、その子供を――」
と、その時だった。
悶絶していたタマモが復活し、いきなり俺に身体を擦り付けてきた。
「駄目なのじゃ!! ご主人様の女はもう十分いるのじゃ!! これ以上女が増えて妾の抱かれる時間が減るのは御免なのじゃ!!」
「お前はいつも乱入してくるからほぼ毎日抱いてるだろうが」
「本当は二十四時間ご主人様とズッコンバッコン生でハメハメした――」
「黙れ、変態狐」
「お゛ほっ♡ ご主人様の愛の鞭なのじゃあっ♡」
タマモのせいで馬車の中が更に気まずい空気で満たされる。
どうしてくれるんだ、この空気。
しかし、しばらく沈黙が続いたところで思わぬところから救いの手が伸びてきた。
「ソードマン騎士団長!! フラッグシルト様!! りゅ、竜が、竜の群れが現れました!!」
騎士の一人が慌てた様子で馬車の扉をノックし、報告してきた。
外に出て空を見ると……。
「多いな……百はいる」
「あ、あれほどの数の竜に襲われたらどうしようもないぞ……」
「いや、それはないだろう。こっちには人質――コホン。交渉材料があるしな」
「今、人質って言いかけたか!?」
「む。一匹降りてきたな」
全身が赤い鱗に覆われた巨大な竜が使節団の前に降り立ち、俺たちを睨み付けた。
「人間たちよ、ここより先は我らの領域。何用で参った?」
「そちらの姫が俺の命を狙ってきた。お陰で娘の誕生日パーティーに参加できなくなった落とし前を――」
「横から失礼する!! 我らはアルテナ王国の者だ!! 此度のグレオン殿による我が国の大英雄ベギル殿への襲撃について話をしたく参った次第です!!」
俺の恨み言を横から割って入ってきたアルロが妨害する。
すると、赤い竜は一言。
「それは、なんというか、すまなかったな。うちの馬鹿姫――コホン。グレオン様はどちらに?」
「馬車の荷台に積んであるぞ」
「……我らの姫が無礼を働いたのは分かるが、いくら何でも酷いのでは……」
「暴れるから結界で押さえつけて、荷台に放り込んでおいただけだ」
「……重ね重ね、本当にうちの姫が迷惑をかけた」
赤い竜がとても申し訳なさそうに頭を下げると、他の竜たちがざわめいた。
「ドラウルス!! 序列二位の貴様が人間ごときに頭を下げるなど!!」
「黙れい!! 先に無礼を働いたのは我らの姫であるぞ!! 竜族の誇りを溝に捨てる気か!!」
「っ、何が誇りだ!! 我らにそのようなもの、とうにないわ!!」
……ふむ?
竜は誇り高い生き物だ。自らを嘲るようなことはまず言わない。
竜たちの会話から察するに、ゲームにはなかった俺の知らない事態が彼らの里で起こっているのかもしれない。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント作者の一言
作者「人妻女騎士は好きですか?」
「嫉妬するタマモがかわいい」「政略結婚した相手が男好きなの草」「人妻女騎士とか大好物です」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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【書籍化決定!!】人類滅亡エンドに突入したので、世界最強の悪役貴族は油断慢心をやめました。〜難民を受け入れまくってたら領地が『最後の砦』に。絶対防御スキルと人材チートを駆使してゲーム知識で無双します~ ナガワ ヒイロ @igana0510
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