番外編 悪役貴族は娘の誕生日を祝いたい➁




 頭から大きな角を、腰から竜の尻尾を生やした黒髪の美少女がいきなり部屋に入ってきた。


 和風のゴスロリ衣装とでも表現すればいいのか、この辺りではまず見ない独特な衣装をまとっている幼い少女だった。



「で、シャルナ女王陛下。俺が愛娘の誕生日パーティーに参加できなくなった原因であるトカゲ女は圧殺してもよろしいでしょうか」


「よろしくありませんわ!! どうか怒りを静めてくださいまし!!」


「ははは、おかしなことを仰る。俺は至って冷静ですよ。冷静に害獣を駆除しようとしているだけです」



 俺はいきなり部屋に入ってきた少女を結界に閉じ込め、じわじわとその結界を小さくする。



「ぬおおおおおっ!! 出せ!! 我にこのような真似をしてタダで済むと思っておるのか!!」


「お前の方こそタダで済むと思ってるなら大間違いだ。すぐにぐちゃぐちゃのミンチにしてやる」



 俺は一気に結界を小さくした。


 しかし、あろうことか少女は手足を大きく広げて縮む結界を無理やり広げようとしたのだ。


 お、俺の結界圧縮攻撃を気合いで防ぐだと?



「……シャルナ女王陛下、このクソガキは何者なんです?」


「彼女は竜帝の娘、黒竜王グレオン様です」


「竜帝? ……そうか。竜帝の娘なのか」



 竜帝。


 その名前は『ブレイブストーリーズ』の終盤、魔大陸へ向かう直前に受注できるサブクエストで登場する。


 内容は邪竜を討伐して竜の隠れ里を救ってほしいというものだ。


 このサブクエをクリアすると、魔王の攻撃のほぼ全てを弾く『竜帝の盾』という勇者専用装備が手に入れることができる。


 そう言えば、魔王城で戦った勇者はそれらしき盾を装備していなかった。

 あの勇者、とことん寄り道しないで魔王城に挑んだんだな。


 もし魔王城で戦った勇者があの盾を装備していたらもっと苦戦していただろう。


 ……勇者がサブクエストをクリアしていないのだとしたら、邪竜や竜の隠れ里は一体どうなったのだろうか。


 いや、余計なことを考えるのは後回しだ。


 話を戻すが、そのサブクエストの依頼主が竜帝なのだ。

 竜帝は竜の中で最も強く、強すぎて周囲へ甚大な被害を出してしまう。


 勇者と魔王の最終決戦に参戦しなかったのも、世界の半分が燃え尽きてしまうから、みたいな設定があったはずだ。


 その竜帝の娘なら結界の圧縮に耐える力があっても不思議ではない。



「それで、その竜帝の娘がなぜ王都を襲いに?」


「それが襲いに来たわけではないそうですの。ある用があってアルテナ王国の王都までやってきたらしく、どこから入ればいいのか分からなくてしばらく辺りを飛んでいたそうなのですわ」


「つまり、襲撃は思い過ごしだったと?」


「わ、わたくしの早とちりであったことは謝罪しますわ」


「……いや、女王として当然の対処だろう。そこを責めるつもりはない。悪いのは全てこの害獣だ」



 俺は竜帝の娘――グレオンを囲む結界を更に圧縮させた。



「うぬおおおおおおおおおおっ!!!! ま、参った!! 我の敗けだ!! だからせめて話を聞いてくれ!!」


「だが、断る」


「ま、待て!! 汝にとっても悪い話ではないのだ!!」



 俺は気にせず圧縮を続けた。


 しかし、そこでシャルナとは別の思わぬ人物が俺を止めた。



「ご主人様よ、少しくらいは話を聞いてやってもよいのではないかえ?」


「……珍しいな、タマモ。お前が他者に同情するなんて」


「うむ。少し、ご主人様と出会った夜のことを思い出しての」


「ふむ?」



 たしかに初めてタマモと会った夜、俺はガン無視で彼女を仕留め続けた。


 今でこそ何をしても興奮する無敵の変態だが、タマモはタマモなりにトラウマを抱えているのかもしれない。


 少し申し訳ないな、と思ったのも束の間。



「妾と同じ淫乱ドマゾ枠が増えるのは困るのじゃ!! ご主人様に尻をシバかれながら豚のように鳴くのは妾だけの特権なのじゃ!!」


「この淫乱狐が」


「あひっ♡ ご主人様のゴミを見るような眼差しでイクっ♡」



 タマモが足腰をビクンビクン痙攣させながら、その場にへたり込む。

 シャルナの「ベギル様も大変ですわね……」という同情するような眼差しが印象的だった。


 ……はあ、仕方ない。



「結界を圧縮するのはやめてやる。その代わり、事情を洗いざらい話せ。竜帝の娘が何の用で王都に来たんだ?」


「それはベギル・フラッグシルト!! 決闘で汝を倒すためだ!!」


「……どうして俺を倒したいんだ? 竜から恨みを買うような真似はしていないはずだが」


「汝を倒せば、次の竜帝は我になる!!」



 どうしよう。全く話が見えない。



「どうして俺を倒したら次の竜帝になるんだ?」


「知らぬ、父上がそう言っておったのだ。世界を救った英雄を倒せば我を次の竜帝にしてやるとな」


「……なるほど」



 つまり、俺がルリエットの誕生日パーティーに間に合わなくなったのは竜帝のせいということか。



「ちょっとカチコミに行ってきます」


「お、お待ちくださいまし!! 平和的に!! 平和的に解決しましょう!!」


「……分かりました。平和的にカチコミに行ってきます」


「お、落ち着くのじゃご主人様!! いい加減冷静になるのじゃ!!」


「はっ!?」



 その時、俺は気付いた。



「カチコミは後回しにして、今から全力疾走で走ればルリエットの誕生日パーティーに間に合うんじゃないか!?」


「カ、カチコミはするんじゃな……」


「残念だが、そういうわけにはいかんのだ。ベギル殿」


「む。その声はアルロか」



 部屋の入り口の方を見ると、そこには白銀の鎧をまとい、真っ赤な髪をポニーテールにした褐色美女の姿があった。


 会ったのは数年ぶりだが……。


 気配というか、存在感が以前よりも遥かに増している気がする。



「そういうわけにはいかない、とは?」


「それについてはわたくしから。今回、ベギル様には竜の隠れ里に派遣する使節団に同行してもらいたいのです」


「やだ」


「行ってもらわないと困ります」


「やだやだ!! 俺はルリエットの誕生日を祝うんだ!!」



 俺がしばらく駄々を捏ねていると、シャルナは溜め息と共にある提案をした。



「では、もし使節団に同行していただけるなら王家が保有する『星の天剣』をお譲り致します」


「――何ですと?」



 俺は耳を疑った。


 『星の天剣』は性能こそイマイチだが、振るう度にキラキラしたエフェクトが発動する魔剣だ。


 しかし、『星の天剣』の価値はそこではない。



「お譲りすると言ったのです。ベギル様のご息女がほしがっていた『星の天剣』を」


「引き受けた。竜畜生どもを殲滅すればいいのか?」


「い、いえ、竜帝様から今回の真意を確かめてもらいたいのです。絶対に殲滅とかしないでくださいね?」


「む、そうか。分かった」



 こうして俺は報酬に釣られ、竜の隠れ里へ向かうことに。


 待っててくれ、ルリエット。


 パパはお前がほしがっていた魔剣を手に入れて帰るからな!!



「おい!! いつまで我は結界に閉じ込められていればいいのだ!!」


「羨ましいのぅ。妾も結界の中に閉じ込められて放置プレイされたいのじゃ」



 グレオンとタマモが何か言っているが、細かいことは気にしない。








―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

鎧で分かりにくいが、アルロのオパーイはワンランク成長している。


あとがき詳しく、と思ったら★★★ください。


「勇者が勇者すぎる」「タマモが相変わらず無敵」「カチコミ行きたいのは分かった」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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