番外編 悪役貴族は娘の誕生日を祝いたい①





 俺の名前はベギル・フラッグシルト。


 およそ十年前、俺は生き残った人類を率いて世界を滅ぼそうとした魔王を討伐した。


 ……まあ、実際は世界の崩壊を止められなかったがな。

 俺と女神エリュシオンの間にできた娘、エリーがいなかったら世界は滅びていた。


 しかし、世間の人々は事実を知らず、俺を本物の英雄だと思っている。


 アルテナ王国の女王、シャルナが俺を完全無欠の英雄にした方が今後の国の統治に役立つと考え、そういう物語を作った影響だろう。


 正直、娘の手柄を奪ってしまったようで申し訳ないのだが……。



『お父様のお役に立てて嬉しいです!!』



 肝心のエリーは全く気にしていないようだった。


 お陰で若干の罪悪感を抱きつつ、大公として領地を治める毎日だ。


 そして、ある日の出来事。



「父上の嘘吐き!! もう嫌い!!」


「ま、待ってくれ、ルリエットぉ!!」



 俺はもう一人の愛娘であるルリエットに嫌いと言われて精神に絶大なダメージを負ってしまった。



「娘に、嫌われた……死にたい……」


「……かつて魔王を倒して世界を救った大英雄にダメージを与えるとは。ルリエット様は末恐ろしいですね」


「感心してる場合じゃないだろう、パデラ!!」



 俺は傍らで頷く側近、パデラに苦言を呈する。


 すると、パデラは「仕方ないでしょう」と眼鏡を外してレンズを拭き始めた。



「ようやく大陸中の国を吸収し、政治体制も整ってきたところで王都付近に竜が現れたのです。今王都が被害を受けたら、今後の統治に支障が出ます」


「知らん!! 娘の誕生日パーティーの方が大事だ!!」


「その娘が平和に暮らすための国が失くなるかもしれないのですよ?」


「ちくしょうめ!!」



 よりによってルリエットの誕生日が迫っているタイミングで王都がピンチとは!!


 近頃は交易の仕事で忙しく、何かと構ってやれなかったので誕生日は盛大にお祝いしてあげたかったのに……。


 本当に病みそうだ。



「ベギルさま」


「ん? ああ、メリエル。どうした?」



 俺が部屋で出撃の準備を整えていると、メリエルが入ってきた。


 十年前、出会った頃と比べると背が少し伸び、更に胸も大きくなっている。

 今ではもうエリュシオンのサポートなしで身だしなみを整えられるようになった。


 元々可愛い妻だったが、今は更に可愛くて眠らない夜が続くこともしょっちゅうだ。


 そのメリエルが頬を赤らめている。



「いえ、その、しばらく会えないと思ったので、顔を見たくて……」


「パデラ、ちょっと三時間くらい部屋の外で待っててもらっていいか?」


「……はあ、承知しました」



 パデラは俺が何をしたいのか察して、部屋を出て行った。


 俺はメリエルを抱きしめてキスをする。



「んっ♡ ちゅ♡ れろっ♡ べきりゅしゃまっ♡ ぷはっ♡ い、いきなりキスは、恥ずかしいです……♡」


「二人しかいないんだ、メリエルの恥ずかしいところをもっと俺に見せてくれ」


「ベギルさま、エッチです♡」


「可愛い妻がスケベだからな」



 メリエルをベッドに押し倒し、しばらく会えない寂しさを埋めるように彼女を隅々までめちゃくちゃにした。


 三時間とは言いつつ、翌日の出発時間までぶっ通しでイチャイチャしてしまった。


 出発寸前――



「嫌だ!! 俺はメリエルとイチャイチャしてルリエットの誕生日を祝うんだ!!」


「我が儘言ってないで行きますよ!!」



 俺は最後の抵抗をするも、パデラに無理やり馬車へ乗せられて王都へ出発した。



「うぅ、メリエルとイチャイチャ、ルリエットの誕生日……」


「そう泣くでない、ご主人様。イライラや悲しみは全て妾で発散するとよいのじゃ!!」



 カタカタと揺れる馬車の中、俺にそう言って身体を擦り付けてきたのは魔王の元配下、大妖狐タマモだ。


 最後の戦いから十年が経ち、その身体は小柄ながらも少女と呼べるくらいに成長している。


 その中でも特に胸の成長が著しいだろう。


 前は微かな膨らみがある程度だったが、今は小振りなメロンくらいだ。


 問題はその格好である。


 身体はしっかり成長しているにも関わらず、身にまとう着物のサイズは変わらない。

 前面を大きくはだけさせて、わざと着崩しているのだ。



「……」


「んんっ♡ スケベに成長した妾の誘惑を無視するとはさすがご主人様なのじゃ♡ 妾の旦那様、男らしいのじゃあっ♡」


「……何もしなくても興奮するとか、お前は無敵の生き物なのか?」



 結局、そのまま俺は乱暴にタマモを抱いた。


 メリエルにはしたくない、完全に人を壊す勢いのエッチだ。



「ふぅ、少しやりすぎたな。タマモ、大丈夫か?」


「お゛ほっ♡ 乱暴されてすぐ優しくされると頭おかしくなるのじゃっ♡」


「……普段は言動がアレで、性悪なところも直っていないから適当に扱ってるが、お前も俺の妻だからな。心配くらいする」


「あひっ♡ もう妾、ご主人様がいないと生きていけないのじゃ……♡」



 エッチした後も身体を擦り付けてくるタマモ。


 こうやって甘えてくる分にはメリエル同様、可愛い妻なんだがな。


 俺や俺の周囲に対する態度は軟化したが、彼女の本質は変わっていない。

 人の苦しむ姿を見るのが大好きな、性悪狐のままだ。


 その標的が今は罪を犯した罪人に向けられているのがせめてもの救いだろうか。



「む、ご主人様よ!! 王都が見えてきたのじゃ!!」


「おお、本当だな」



 しばらくしてアルテナ王国の王都が見えてきた。


 竜の中でも気性が荒く、危険な黒竜に襲われたと聞いたが、王都にこれと言って被害は出ていないようだった。


 王都に設置してある結界大剣のお陰だろう。


 しかも王都の結界大剣は希少金属の中でも更に希少なオリハルコンが使われている。

 アデルシオン――破壊神でもなければ壊すのは不可能だ。


 王都に入るや否や、大勢の民衆が俺を歓迎する。



「ご主人様は凄まじい人気じゃな」


「魔王を倒したのは十年も前のことなのにな……」



 そのまま馬車は王城の敷地に入ると、女王シャルナとその側近、クィーンサキュバスのナサリーが俺を迎えた。


 ナサリーはあまり変わらないが……。


 シャルナは十年前と比べると胸が豊かになり、色気もムンムンだった。


 笑顔を浮かべるシャルナ。



「お待ちしておりましたわ、ベギル様」


「お久しぶりです、女王陛下」


「よそよそしい呼び方はおやめくださいまし、どうかシャルナと」



 そう言ってシャルナは俺に腕を絡めてきた。


 豊かに実った胸が腕に押し当てられ、突然の出来事に俺は困惑する。



「女王陛下、近くないですか?」


「ベギル様と仲のいいアピールをしておくと何かと便利ですから。大人しくして抱き着かれていてくださいまし」


「……分かりました」


「何ならこのままベッドにわたくしを連れ込んでくださって構いませんわよ。英雄の子を宿せば王家は安泰ですから」


「え、遠慮しておきます」



 何というか、目が肉食獣なのだ。


 仕事が忙しくて一週間くらいご無沙汰だった時のメリエルと同じ目をしている。


 頷いたら何をしてくるか分からない。



「それで、黒竜に襲われたと聞きましたが。そのクソトカゲはどこに?」


「あら、随分と機嫌が悪そうですわね」


「可愛い娘の誕生日パーティーに参加できなくなったので。八つ裂きにしてやろうかと思いまして」


「そ、そうですの」



 王城の一室で黒竜の話を聞こうとした矢先、シャルナはどこか困った様子で笑った。



「……何かあったのですか?」


「ええと、実は……」



 その時だった。


 ドタドタと何者かが廊下を走ってくる足音が聞こえ、勢いよく部屋の扉が開く。


 そこには頭から竜の角を生やした少女がいた。



「汝が英雄ベギルか!! 我は竜帝の娘、黒竜王グレオン!! 貴様に決闘を申し込むため、遠路遙々来てやったのだ!!」


「お前かクソトカゲはああああああああああああああああああああああああッ!!!!」



 俺は爆裂戦鎚を構え、襲いかかった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

メリエルは人妻感が増している。



「メリエルがかわいい」「エリュシオンがいない、だと!?」「なんだかんだタマモともイチャイチャしてる……」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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