コキュートスの妖女
dede
冷蔵庫から来た女
実家にあるボクの学習机の正面の引き出しはずっと空だった。だってドラえもんがやってきた時に中の物が消えてしまったら困るだろ? そう思って空けておいた引き出しだったけど、ついぞドラえもんが僕のもとに来ることはなかった。
それは7月の最初の土曜日のことだった。
「お邪魔してます」
あまりパッとしない人生をこれまで送ってきた。正面切ってバカにはされなかったけど明らかに侮られていた。けれど、まあ、確かにどんくさい自覚はあった。頭の回転も遅いように思う。人と話してる時、相手のじれったそうな表情を見るのがイヤだった。だからあまり人とは話したくはなかった。
「あの、もしもし?」
誰かの役に立ちたいと思っていた。でも返ってくるのは落胆ばかりで期待に応えられなかったのが辛かった。
「聞いてますか? 私の声は聞こえてますか? ……言語の選択を間違えた? Do you understand what I'm talking about?」
あまりに暑かったので町の図書館でゼミのレポートを作成し、夕方施設を出るとその頃には随分と涼しくなっていた。途中でスーパーに寄って御惣菜と数本の缶のサワーを買って自分の安アパートに辿り着いたら、より涼しかった。階段の手摺に触れると冷たくて壁は汗をかいている。明らかにおかしいと思ったが、まずは晩飯だと思い自部屋のドアにカギを差し込んだが手ごたえがない。鍵を締め忘れたかと訝しんだがそんな事もあるかとそのままドアを開けた。
中は凍っていた。そして部屋でくつろいでいた一人の女性が振り返るとしきりに僕に話しかけた。だがあまりの事態に理解が追いつかなくて余計な事ばかり考えてしまっていた。
「내가 말하는 것을 알 수 있습니까?」
だってそうだろう? 帰ったら室内が凍ってるんだ。さすがにクーラーつけっ放しで出てきたかなんて事は思わなかった。
「你明唔明我講緊乜?」
僕が現実逃避の思考を巡らせている間もしきりに彼女は話し掛け続けていた。色素の薄い肌に長くて白い髪で背は僕と同じぐらいか、女性の割には背が高い。そしてスラリとしたモデルのような体型で、その事実が如実に分かるウェットスーツみたいな服を着ている。夏なのに暑くないのだろうか? いや、逆か。そんな恰好で寒くないのだろうか。僕は寒い。部屋に入ってまだ数分だけど息は白いし、汗なんて引っ込んだし、少し体が震えてきた。どうしてこんなに寒いんだ?
「えーと、いらっしゃい。ダイジョウブ、日本語ワカルヨ?」
僕が答えるとようやく彼女は安堵の表情を浮かべた。
「ああ、よかった。ここの責任者ですよね。突然申し訳ありません」
「責任者……一応この部屋の主です。いえいえ、きっと何か事情が御有りなのでしょう。それで、どのようなご用件で?」
彼女は目をパチクリさせると、嬉しそうに微笑む。
「話が早くて助かります。私は、といいますか我々は熱が欲しいのです。しばらくの間、この部屋をお借りして熱を頂いてもよろしいですか?」
「いいですよ。どれくらいの期間ですか?」
僕はスーパーのビニール袋から一本取り出すと、プルを起こした。そしてゴクゴクと飲む。よく冷えていた。
彼女は僕の返事に逆に困惑していた。
「え? いいんですか?」
「必要なんでしょ?」
「いえ、そうなんですが……。言ってはなんですが、あなたにその権限はおありなんですか? 上に掛け合ったりしないのですか?」
「この部屋の住人ですから。それに上……自治体とかに確認しても困るだけで決定なんてできませんよ。その上とかもたぶん同じです。それより、必要なんでしょう? 大丈夫ですよ、内緒にしてればきっとバレませんって。だいたい、暑さに不満ばかりだから涼しくなる分には文句はありませんよ」
「そうでしょうか……まあ、分かりました。お言葉に甘えさせて頂きます。期間は、こちらの単位でいうと一週間の間ほどです。どうかお願いします」
「一週間……結構、長いな」
もう一度缶を傾けるともうひと口飲む。細かな氷が口の中に入ってきた。缶と触れた唇がくっついて少し困った。皮が剥げるかと思った。この状態で1週間は辛いな。クーラー代は不要だけど寝れるか? 泊めてくれそうな友達の宛もないしなぁ。
そう零した僕の不平に彼女は顎に指を当てて思案する。
「そうですか……ちょっと他に効果的に熱を取り出せないか検討します」
彼女はそう宣言すると、両手を突き出し指先を動かす。すると、彼女の周りに幾つも光の紋様が浮かび上がった。それが増えたり減ったりしていたが、やがて彼女の指が止まった。
「あ、これなんて良さそうです。1000キロほど離れた海底で噴火の兆しがあります。この熱を頂けば4日ほど短縮できそうです」
「じゃあ、そこから貰ってください」
「いいんですか?」
「責任が恐いなら僕が許可したと言っていいです。なに、言わなかったらバレないですって」
「では許可は貰ったという事で」
そう言って彼女は更に指先を動かし始めた。彼女の周りで紋様が浮かんだり消えたりして綺麗だった。僕はそれを見ながらまた缶を傾けた。でも今度は何も口に入らなかった。振ってみる。全部凍っていた。僕は今飲む事を諦めた。3日後の楽しみに取って置く事にして、ビニール袋の他の缶と一緒に冷蔵庫に仕舞う事にする。
「それにしても日本語上手ですね。どこから来たんですか?」
キッチンに行くと、冷蔵庫は開きっ放しだった。彼女は作業を続けながら答えた。
「どこ……具体的には説明しづらいのですが、ココとは違う宇宙……異世界の方が分かりやすいでしょうか?」
開きっ放しの冷蔵庫の中は真っ黒な穴がポカリと空いていて、そこからこの冷気は吹き込んでいた。奥底は見えない。ドラえもんではなくナルニア国物語だった。
それで、中に入っていた結構な食料はどこに消えた?
「その恰好、寒くないですか?」
忙しなく指先を動かし続ける彼女に、邪魔かなと思いつつ話し掛ける。
「えーと……この姿はこちらで言う『アバター』みたいなものです。感覚はありますが任意で調整できるので平気ですよ」
「そうなんですか?」
少し手を止めてチラリとコチラに目を向ける。そして少し苦笑する。
「偶然同じ姿をしてるハズないじゃないですか。ちゃんとこちらのコミュニケーションが取れそうな存在に合わせた姿を取ってますよ。まあ、あちらの世界でも元の姿なんて殆ど意味を成さないですが」
そう言ってまた手を動かし始めた。これが仮初の姿なのか。とても人間臭い仕草だと思うのだけど。
「そういうあなたは……寒そうですね。失念してました」
そう言って彼女は片手を少し違うリズムで動かすと、ピタリと肌を刺すような寒さが止まった。
「いかがでしょう?」
「おお、寒くない。すごい、魔法みたいだ」
「そうでしょう。魔法ですから」
「技術じゃないんですか?」
「技術ですよ。分かれば誰でも使えます。けれど、こちらの世界では誰も理解できないし再現できません。前提となる発見や概念がごっそり抜けてますから。そんなの、魔法と何の遜色もないでしょ?」
彼女の周りでは相変わらず紋様が浮かんだり消えたりを目まぐるしく繰り返している。アレだって、どういう仕組みで何もない空間に表示されてるのか理解できなかった。
「その、君の周りに浮かんでる紋様も君たちの技術? 確かにどんな仕組みなのか想像もつかないです」
「ええ、そうです。まあ、見えてるコレ自体は意味がないのですけどね」
「意味がない?」
「機械のランプと一緒です。点灯してないと起動したか分からないでしょう? 見えなくても作動できるんですよ。我々の技術の最骨頂は『事象に直接作用する』ですから。とにかく無駄を排除させたかったんです。微々たるロスなので見えるようにはしてますが。事故の元ですからね」
「へぇ」
よく分からないがすごい事らしい。僕が感心していると彼女の方から質問してきた。
「こちらの事、聞かれないんですね?」
「聞いてるじゃないですか。魔法の使える異世界人さんなんですよね。そして熱が欲しい」
「殆ど分かってないじゃないですか。判断が早過ぎます。我々がどういう存在なのか。熱を渡す事にリスクはないのか。そんな事は考えなかったのですか?」
もちろん考えた。でも些細な事だった。相手は困っていて、僕は与える事が出来たのだから。
「でもあなたが困ってましたから。出来る事なら役に立ちたかったんですよ」
「っ。とんだお人よしですね」
彼女は何とも言えない表情を浮かべた。
「もう許可を貰った後で恐縮ですが、さすがに何の事情も知らせないのは心苦しいです。ちゃんと説明します。我々の……」
彼女が言いかけた時、うちのチャイムがピンポーンと鳴った。
「はーい。ごめんなさい、少し待っててください」
会話を中断して玄関の扉を開けると、警察の制服を着た男性が腕を擦りながら立っていた。
「どうもこんばんわ。警察の者です。お宅から冷気が出てるせいで近隣から『寒い』って苦情が出てるんですよ、どうにかなりませんか?」
と言う事だった。僕は部屋の奥で作業を続けている彼女を見る。奥の彼女が答えた。
「それはちょっと解決できません。我慢してもらうしかないです」
「ごめんなさい、そういう事ですので後2日は我慢して貰わないといけません」
「後2日!?ご近所迷惑だとは思わないんですか? 訴えられても知りませんよ」
「すいません」
警察官は苦言を残して帰って行った。まあ、ご近所迷惑だというのは至極当然な話だった。また来るかもしれない。
「えーと、それで話の続きなのですが、我々は……」
またチャイムがピンポーンと鳴った。
「ごめんなさい、ちょっと待ってて。はーーーい」
扉を開けると、マイクを持った男が立っていた。テレビで観た事のある人だった。その後ろにはカメラを持った人やマイクを吊るしている人、照明を掲げてる人などが複数人控えていた。
「どうもこんばんわ。〇×テレビです。今話題の『全開冷蔵庫』のお部屋に伺いました」
「全開冷蔵庫?」
「おやご存じない? 今ネットで話題になってますよ」
僕はスマホをチェックする。するとSNSやニュースサイトで簡単に部屋の事らしい記事を見つけることが出来た。写真や動画もアップされている。プライベートも何もあったものじゃないがそもそも場所で起きてる事だから逃れようがない。『全開冷蔵庫』と呼ばれいて、何が起きてるのか憶測が飛び交っていた。ネットでの反響は概ね批判的だった。
「そんな訳で、話題の真相について伺いにきました。なぜ部屋を冷却して近隣に迷惑を掛けているのですか?」
「僕もよく分かってなくてこれから説明を受ける所です」
僕が部屋の奥に目線を送ると、インタビュアーも扉の隙間から目ざとく彼女を見つけて目を輝かせた。
「ほぅ……なかなかのビジュアル。その説明の場に我々も居合わせて撮影させて貰っても……あ、いや。いっそスタジオで場を設けて説明して貰えませんか?」
「え?」
テレビ局の車に乗ってスタッフさん達と一緒にスタジオに移動している。
「バレそうですね」
「これはさすがに……隠せそうにないかなぁ」
なんだかやたら
それまでスマホで会話していたスタッフさんが、通話を切るとこちらに話しかけてきた。
「どこで漏れたか、他局やニュース配信系のYoutuberが参加したいと言ってきています。同席してもよろしいですか?」
「僕はいいですけど……」
僕は彼女をチラリと見ると、彼女もコクリと頷いた。
「私は彼に説明するだけですから、その後ろに何人いても構いませんよ」
僕らの返事を聞いてスタッフさんはまたスマホでどこかに電話をかけ始めた。
「はい、行きます。3、2、1キューっ!!」
「はい、緊急生放送でお送りします。○○市における異常気象と関連があると噂されている、『全開冷蔵庫』の住人の方にお越しいただきました。これから事情について窺っていきたいと思います」
スタッフの拍手と共に番組が始まった。教室を模したセットの壇上には彼女とそのサポート兼司会役の芸能人、その正面の席に座る僕。そしてその後ろには数十人の芸能人やら有識者、Youtuberの方が学生服を着て座っていた。演出だそうだ。廊下側の窓ガラス越しに、大手動画サイトでの生配信がリアルタイムで流れており、リスナーのチャットがしきりに流れていた。事前ミーティングでは僕も立場的に壇上側だろうとなりかけたが、僕が事情をまったく知らないのと彼女が僕以外に説明する気がないとの事でこの配置となった。
司会の芸能人が参加者を紹介していく。僕も
「それで最後にこのコスプレしてる美少女さん。教師役だから一番の関係者なんだろうけどなー、俺もよく知らんのや。悪いけど自己紹介してくれる?」
「はい、ご紹介に預かりました。他の宇宙からやってきました異世界人です。フリージアと呼んでください」
名前については始め彼女からフリーザを提案されたけど印象が悪かったのでフリージアに変更して貰った。
彼女についての評価はというと「可愛い」と「頭おかしい」で二極化していた。
「そうですかぁ。異世界人。本当はエアコンや冷蔵庫つけっ放しなんじゃないかって疑いたいところなんだけど、あの冷却具合はさすがに説明つかんし、ひとまずその設定で話進めましょうか? それでその異世界人がなんでココ日本に?」
「日本だったのは偶然ですが、目的は一つです。熱が欲しかったのです」
そう彼女は僕に向かって言った。司会者はやりにくそうにしていたが、話を続けた。
「はぁ、熱。まあ、こんだけ暑いんだから冷やして貰えるのはありがたい話ですけども。なんでまた?」
「我々の世界は、こちらでいうところの『熱的死』直前の世界なんです。宇宙のエントロピーが最大に届きそうで既に冷え切っており、限られたエネルギーで細々と活動しています。少しでも世界を延命させるため、我々は熱を欲しています」
そこで生徒役の一部がざわめき、配信のチャット欄も書き込みが集中した。
司会者がカメラに映らない位置でスタッフと密談を交わし、また壇上に戻ってきた。司会者もスタッフもバカではなかったのだろう、その事の重大性について認識しているようだ。僕はわからなかったが。
「それって、つまり、我々の宇宙からそちらの宇宙に寿命を切り渡してませんか?」
「はい。どの程度の影響があるかは不明ですが、その通りです」
彼女も認めた。それを受けて生徒役の人物から怒号がとんだ。
「我々の世界から勝手に寿命を掠め取ろうとしてたのか!!」
そこで初めて彼女は言い淀んだので僕は手を挙げると席を立った。
「僕が許可しました」
すると彼の厳しい視線は僕に移った。
「我々の世界を売ったのか!」
「まあまあ。作り話かもしれませんし、そんな熱くならんでも」
「こいつが世界を売ったのは事実だろうが。この、世界の敵めっ!」
そう言うと彼は手元にあった水のペットボトルを投げつけてきた。
「させませんよ」
彼女が静かに手元を動かすと、紋様が浮かび上がる。そしてペットボトルは僕にぶつかる前に一瞬発生した光の壁に弾かれて床に落ちた。
「……は?」
僕以外の人間はその光景に呆然としていた。生配信が映っているディスプレイを見てみるとリスナーからは安いCGだと受け取られたようだ。
それからは彼女フリージアに対して質問の嵐だった。リスナーからの質問も幾つか取り上げられた。それに一つずつ答えていく彼女。尤も。僕には殆どがよく分からなかったが。配信のチャット欄を見ると半分は異世界への質問で、残り半分は僕に対する批判のコメントだった。
そうして時間は過ぎて行った訳だが、そのうちノートパソコンでSNS等をチェックしていたスタッフが慌ててた様子で立ち上がると近くのスタッフにパソコンを見せて説明している。それを受けて他のスタッフも慌ただしく動き始めた。やがて司会者の耳にも届く。
「……ここで臨時ニュースです。異例の事態ですが、政府が動きました。現場の撮影に切り替えます」
すると右上にLIVEと書かれた自衛隊に囲まれた僕のアパートの映像にディスプレイが切り替わった。
自衛隊は僕の部屋のドアを合鍵で開けると、土足で何人も入り込んでいく。
「僕の部屋がっ!?」
そして冷蔵庫迄辿り着くと、手りゅう弾の栓を抜いて冷蔵庫に放り込んだ。
「おーーーぅいっ、僕の冷蔵庫が!?」
しかし闇に飲まれた手りゅう弾から反響が返ってくることはなかった。
それを確認すると今度は機関銃を取り出し、僕の冷蔵庫に銃口を向ける。
「やめてっ!?」
しかし無情にもトリガーに掛けていた指を引いた。銃から鳴るけたたましい銃音とマズルフラッシュ。しかし冷蔵庫に弾丸が至る前に、ペットボトルと同じように光の壁が発生して冷蔵庫の破壊を防いだ。
「勘違いしてるようですが、冷蔵庫はたまたま位相が重なっただけで冷蔵庫自体が熱を奪ってる訳ではないのですよ? 今回防いだのは単純に彼が困るから守っただけですから」
フリージアは澄まし顔で淡々と言った。
更に自衛隊は作戦を続行する。今度は屋外の戦車が映ると、砲身が僕の部屋に向く。
「のぉぉぉぉぉ!?」
爆音が轟いた。しかし結果は同じで光の壁に阻まれて、砲弾はゴトリとアスファルトの上に落ちた。
「次は戦術核でも使用しますか? ……そこまでいくと熱量的に有用そうですね。頂けると嬉しいのですが、ダメですか?」
司会者は律儀に言った。
「この国に核はないから」
「あらそうですか。残念です。しかし改めて宣言させて貰いますね。私や彼、彼のアパートに危害を加えようとした場合は遠慮なく無効化させて貰いますから」
そうして自衛隊は撤退していった。番組も終了した。
2日目。起きたら体に霜が降りていた。これで寒くないのは不思議でならない。
アパートの周囲は静かだった。昨日の自衛隊騒動も合わさって近隣の住人はどこかに行ってしまった。この辺りには僕とフリージアだけだ。
スマホでネットをチェックする。昨日の生放送、生配信でネットは荒れていた。大半はヤラセと思われてるようだが、信じてる人も一定数いてどうすれば昨日の出来事を再現できるか討論を交わしていた。
「でも前提として必要な事が足りてないんですよね?」
「そうですが、可能かどうか知らずに進むのと確信を持って進むのとは大きく違います。この分野は進むかもしれませんね」
「へえ、すごいな」
「他人事ではありませんよ? 一番身近でたくさん目撃してるのはあなたですからきっとヒアリングされると思いますよ?」
「よく分からないんだけどなぁ、それ。あと、今更僕に声を掛ける人いるかな……」
昨日の騒動後に、SNSで一番多かった意見は僕への批判だった。総じて『世界の敵』扱いだ。
「なあ、僕がそちらの世界に行く事はできないですか? こちらじゃ肩身が狭くって」
すると彼女は困った顔を浮かべた。
「可能ではあります。けれど止した方が良いです。地獄ですから」
3日目。
あいかわらず静かなものだった。誰も近づこうとしない。どうも今回の事で東京の温度は10℃下がったらしい。
「あ」
「どうしました?」
「結局火山、鎮静化してしまいました。噴火直前だったのですが」
「まあ、いいじゃないですか。……もうすぐですね」
「はい、予定していた熱量までもう少しです。この後の事ですが、私がいなくなっても私の魔法は続きますから身の安全は安心して下さい」
「ありがとうございます。それだけでも助かります」
「それからこれを」
彼女から紙の冊子を手渡された。
「これは?」
「我々の技術一部です。うまく使って立ち回ってくださいね。これからは、世界があなたを必要とするはずです」
ペラペラとめくってみる。よく分からないけど、繰り返し読めば僕でも理解できるようになるだろうか。
「ありがとうございます。ちなみに最後に聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「僕が許可しなかったら、どうなってましたか?」
「戦争して奪ってましたよ?」
さも当然のように彼女は言った。
「当たり前じゃないですか。死ぬほど欲しいものですから。弱者に対して遠慮なんてしませんよ」
「君一人に何もできなかったですもんね」
「ええ、私一人でこの星を鎮圧する予定でした。しかし手間は手間ですからね。許可して頂けて大変助かりました」
そう言って彼女は嬉しそうに微笑んだのだった。
コキュートスの妖女 dede @dede2
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