静かになった
はな
第1話
これは、音が消えたあとの“静けさ”が怖くなる話です。
語られない違和とざわつきが、胸の奥に残るかもしれません。
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静かになった。
3日前から急に。
引っ越してきてすぐ、ハズレを引いたと思った。
挨拶に行った時、対応してくれた20代半ばの(に見える)女性からは想像出来ないくらい、隣の部屋はうるさかった。
一ヶ月が経ち、流石に管理会社伝いに苦情を入れようとしていた矢先に静かになった。
毎日20時を過ぎると、本当にひとり暮らしなのか疑いたくなるほどうるさかったのだが、ぴたりと収まった。
彼氏が来ていて喧嘩をしているのか。
友達が多い人で、毎晩女子会を開いているのか。
色々と想像を巡らせてしまうほど騒がしかった部屋が、静かになった。
いや、“静か”では足りない気がする。
数日前までは、ひとり暮らしを疑うほどだったのが、今では、本当に人が暮らしているのか、と思うほどに静まり返っているのだ。
年末年始やお盆の時期であれば、帰省中なのか、と思えるのだが、今は10月。
あんなに毎日毎日静かにしてくれと願っていた筈なのに、願いが叶った今、なんだか不安で仕方がない。
風邪で寝込んでいる可能性も考えたが、そもそも、音だけでなく、生活の気配が丸ごと消えてしまったような静けさがある。
近くのコンビニで3回ほど見かけたことがあるが、体調が悪そうな様子もなく、いつも1人だった。
挨拶をしに行った時にも感じたが、とても夜毎に騒音を発するタイプには見えない。
どちらかというと地味で、あまり印象に残らない顔をしていた。
朝、自宅の鍵を閉めながら、横目で隣のドアを見る。
開く気配は無い。
大して関わりの無い隣人の心配をしている自分がおかしく感じて、足早に階段を降りる。
バス停に向かう途中、ゴミ回収場にやたら大きな袋が置かれているのが目に入る。
誰か引越しでもするのだろうか。
昼休み、社食でテレビを観ていると、見慣れた風景が映る。
自宅から徒歩3分のコンビニ、その近くを流れる川の映像が流れ、緊張した様子の男性記者が、
「後ろを流れる川で切断された男性の遺体が発見されました。」
「なお、遺体の一部はまだ見つかっていないということです。」
首筋を嫌な汗がつたう。
朝に見たゴミ袋が頭に浮かんでくる。
いや、遺体は“男性”だ。
頭に浮かんでくる予想を掻き消すようにニュースの内容を反復する。
アパートに着くと、“隣”は相変わらず静まり返っていた。
朝には不安だった静けさに安心する。
部屋の灯りをつけた瞬間、インターホンが鳴る。
胸のざわつきを抑えながら画面を覗く。
50代くらいのガッチリした男性と20代くらいで背の高い男性が険しい顔で立っている。
居留守を使いたいきもちでいっぱいだったが、おそらく私の帰宅を待っていたのだろう。
灯りがついたタイミングでインターホンを押したのだ。
ドアチェーンをかけ、恐る恐る玄関をあけると、ガッチリした方の男性が、ドラマでしか見たことのないものを目の前に突き出してくる。
「警察です。
お隣にお住まいの方について、少しお伺いしたいのですが。」
「……。
はい、なにか、あったんですか?」
「お隣の方と面識はありますか?」
「はい、引越しの挨拶の時に。」
「いつ頃ですか?」
「私がここに越してきてすぐなので、
9月の初め頃だと思います。」
私の返答を聞いた2人は眉間に皺を寄せて、何やらコソコソと話している。
「お隣の方の顔はおぼえてらっしゃいますか。」
「一度挨拶しただけなので、はっきりとは……。
細身の女性です。」
先ほどまで質問を投げていた刑事が黙り込み、代わりに若い刑事が口を開く。
「お隣を契約しているのは、男性です。
今朝、遺体で見つかりました。」
一瞬で鳥肌がたつ。
声を出せない私に、刑事は続ける。
「死後、2ヶ月が経過した状態でした。」
静かになった はな @hana0703_hachimitsu
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