「あきらめ塾」

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 「あきらめるのなら、早いほうが良いですよ?…なぜなら…」そう教える塾があったら、入ってみたいですか?

 「あきらめ」は、お早めに。

 ファミレスなどでおなじみのドリンクバーもそうだが、早いあきらめは大切らしい。

 「早くあきらめたい社会人のためのステキな塾が、できました!」

 町中でチラシを配る女性によれば、無料体験ができるという。

 塾の入るビルは、自転車を停める公園の広場から徒歩 3分。

 そうそう…。

 「駐輪場」

 「自転車置き場」

 あなたは、どちらの言い方が好きですか?

 教室は、20人は入れる細長教室。

 イスに机、ホワイトボードなどがフツーに並ぶ。

 思い思いに席に着いた10数人は、皆、同じように案内された人たちか。

 スーツ姿の男性が、教室に入ってきた。

 「我があきらめ塾に、ようこそ!」

 さては、この社会人塾の代表か。

 「え~。何ごともあきらめるなと言う人が多いようですが、残念ですね。あきらめなければ良いことがあると信じている、勝ち組世代の目線ですよ。あ~、いやだいやだ。コスパやタイパ、ウェルパを大切にしたい今の社会では、早いあきらめこそが大切なのです!ウェルパとは、身体も心も社会的に満たされて生きていることを指すウェルビーイング・パフォーマンスのことですね」

 男性の話は、面白すぎた。

 「会社の休憩時間にファミレスにきてドリンクバーを利用しようとしたら、飲みたい物は補充切れ。皆さん、どうされます?休憩時間内に復旧できるかわからないのに、店員に補充させます?説教の好きな高齢者が、やりそうですね。早くあきらめて、会社に戻るべきでしょう」

 次に教室に入ってきたのは、ギターを背負ったスーツ姿の女性。

 「皆様?突然ですが、私たちのあきらめ塾バンドグループは、解散することになりました」

 何だそりゃ。

 「皆様?野球も、あきらめの早い解散で良いのです!」

 …。

 「 9回の裏、 5点差で負けている応援中のチームが逆転できると思いますか?」

 …。

 「サッカーも、似ていませんか?」

 …。

 「あきらめてスタジアムを出ないと、帰宅に遅れたりで良いことありません。早いあきらめで、良いんです!」

 女性が、ニコッと笑んで続ける。

 「皆様?お越しいただきありがとうございました。もう、あきらめましょう!本日をもちまして、この塾は終了といたします!」

 教室にいた皆が、ずっこけた。

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