でっかいロボットのエンジニア

@keysmash

第1話 要するにエネルギーは何なのか。

 この時期にしては、ぐっと冷え込んだ寒い朝であった。

強く吹き付ける風が、一面の砂漠を流れ、細かな砂を運んだ。

風に寄せられてひときわ小高くなった砂丘の稜線から、朝日がゆっくりと顔を出し、切り裂くような光の矢が砂の一粒一粒を照らし出した。

きらきらと輝く海のようになった砂漠を眺め、男は長い息を吐いた。


 大きな背嚢を下ろし、カバンの中から大きな通信機らしきものを取り出した。通信機の側面からは銀色に巻き付けられたアンテナがつながっており、通信機を軽く振ると、ワイヤーが自然に伸びて空に向いた。コンソールにいくつかの文字を打ち込むと、表面のランプが緑に代わる。男は砂ぼこりのかかったモニタを軽く払い、マイクに向かってしゃべり始めた。

「こちらA班。 対象はいまだ動かず。観測開始より8時間が経過」

いつもよりも声がしゃがれていることに気が付き、少しのどを鳴らしてから、

通信を再開する。

「観測データはいずれも正常値。状況を送るので確認されたし。以上」

やや疲労を感じる声は、男が一晩砂漠で過ごしたことを物語っていた。


通信機から目線を上げ、首から下げた電子双眼鏡をのぞき込む。

双眼鏡がゆっくりとピントを絞り、急にはっきりと像を結んだ。

そのまま対象の表面からいくつかのデータを計測する。

双眼鏡背面をいくつかいじり、少し待ったのちに画面には送信完了の文字が浮かんだ。そのまま双眼鏡を動かし、稜線から見える対象の姿を改めて眺めた。


 細く伸びた手足は、毛むくじゃらの四肢につながっており、緩やかに上下を繰り返している。硬そうな印象を与える茶色の体毛が朝日を反射してきらきらと輝いており、フォルムはさながらテナガザルを彷彿とさせた。一方で頭部は複数の奇妙な形の頭が突き出ており、それぞれが表情を持ち、目まぐるしく切り替わっている。

大型バスのような巨体が少し動くたびに、大げさな風が吹き、砂漠に同心円状の跡を残した。


 目を離したのと、端末から声が聞こえたのはほぼ同時だった。

「データを確認した。作戦を前倒しする。 通信終了と同時にカウントダウンを開始し、5分後に作戦を開始。A班は状況開始前まで待機、状況開始後撤退を許可する。何か質問は―

 淡々としゃべる情報官に対して、割り込むように返事をする

「ありません」

「ではカウントダウン開-」相手が言い終わらないうちに男は通信を切った。


 砂丘の稜線から滑り降りるように男は移動し、稜線の谷間に張ったテントに声を投げた。

「ナビ!作戦開始が前倒しされた!さっさと起きろ!」

野営地の散らばった道具を一気に背嚢に詰め込み、ベースキャンプには最後にテントが残った。軽く舌打ちしてから大足で歩き、テントのチャックを一息に開いてから手を突っ込んだ。そのまま握りしめて引っ張る。

「痛い痛い痛い!起きるからむりにひっぱらないで!とれちゃうとれちゃう!」

ナビと呼ばれた声ががテントの中から悲鳴を上げる。

男は意にも介さず引っ張り続け、ついに女性がテントから顔を出した。

三角形の耳が頭頂部からピンと立ち、浅黒い肌に大きな黄色の虹彩が特徴的だった。表情は寝起きそのものであり、加えて未発達なあごが実際の年齢以上に幼い印象を与えていた。文句をさらに言いかけたところで、急に思い出したように別の話題を切り出した。

「アラタ君、、、、今、、、、何時?」


アラタと呼ばれた男は少しため息をついてから口を開いた。

「目覚ましを壊してから4時間だ」

「目覚まし、、、、壊れてるみたい」テントを振り向いてナビが答えた。

「違う、壊したんだ」

へへへとナビが鼻を鳴らした。ナビの明るい調子に、今度は大きなため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

でっかいロボットのエンジニア @keysmash

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る