ソシャゲ世界に転生したら、いきなりエンドコンテンツにぶち込まれた件
聖家ヒロ
第1訓 本編終了後ではなく、永遠に終わらないという意味である
《不確定戦域》。
そこは、あらゆる魑魅魍魎が跋扈するとされる超危険区域。
生半可な準備、そして不相応な実力で踏み入れようものならば、一瞬にして命を落とすとされる反面、得られる利益は莫大であるとされる――。
事故で死んだ青年が目を覚まし、目の前に広がる光景を見て、頭の中にその文言を丸ごと思い浮かべた。
「終わったな」
辛うじて人が住んでいたという痕跡を残しながら、完全に崩壊した都市。そしてそこを飛び交うならず者達の人型機動兵器。
死んで、俗に言う異世界転生とやらをしたのだろう。その転生先が大人気スマホゲーム「動乱:ブラッドゾーン」の世界であるということがまず分かる。
「動乱:ブラッドゾーン」は、大規模大戦で崩壊した地球を舞台に
遠方をビュンビュン飛び回るのは、このゲームの目玉と言っていい
そもそも、地球がこんなになるまでの大戦が起こった原因は、
異次元から齎された革新的な技術に魅入られた人々と、それを忌み嫌う人々で地球は分断されてしまい、やがて戦争が起こった。
と、ゲームの説明はこれくらいで平気だろうか。
次は彼の置かれた状況がどれくらい大変か説明せねば、彼に申し訳ない。
彼が目を覚ました区域は、かつて異次元へのワープホールが数多存在する大変不安定な領域であり、そこには反デペロパー派の強力で野蛮な軍隊や反地球派のデペロパー武装組織、さらには異次元由来の危険な生物も存在する大地獄だ。反面、貴重な物資が山程手に入る。
ゲーム的には、俗に言うエンドコンテンツの舞台であり、数多の廃人ユーザーが周回する場として有名だ。
《不確定戦域》のクエストをクリアすれば、貴重な報酬が手に入るわけだが、その数は膨大かつランダム性が非常に高い。
――だが、その難易度はとてもじゃないが実体験するには高すぎるのである。
わかりやすく例えるならば、やり込んだ廃人であっても、周回する際に少しでも気を抜けばゲームオーバーになりかねないレベル、だ。
この難易度は勿論賛否両論であるが、それが魅力的だという声もある。
「死ぬな、このままだと」
耳を劈くような爆音と頬が焼けるほどの熱を帯びた風を浴びせてくる爆破を横目に、彼は涼し気な顔で呟く。
でもここはゲームじゃない。
ゲームしかやってこなかった奴に、難しそうなロボットの操縦なんてできるわけがない。しかも、初っ端訓練場ではなく、コンマ一秒生き残れるかも怪しい地獄の戦場と来た。
とはいえ、つべこべ言ってる暇はないはずだ。
もう彼に死への恐怖はあまりない。交通事故という悲惨な死に方は、彼から人間としての倫理観を多少なりとも奪ってしまった。
彼は恐る恐る歩き出し、踏み込むたびに煤が舞い散る大地を進んでいく。
隣でミサイルが爆ぜ、頭上から瓦礫が滝のように落ちてくる。
多少の恐怖はあるが、もう感覚が麻痺してしまった。早い、早すぎる。こういうのはもっと時間をかけて奪われていくものではないのか?
彼の感覚を一瞬で麻痺させるほど、このエンドコンテンツはヤバい。
ゲームでやる時は無論、生身で体験しようものなら失神レベルだ。
「あっ……!! あれは!!」
煤まみれの大地で、一つ、艷やかな物体を目に入れて、そこへ向けて全力疾走した。
それは一機の《ストライフ》。
ずんぐりむっくりなボディ、黄色のモノアイ式のカメラセンサを有するいかにも弱そうな機体だ。
それもそのはず、この機体は《プルト》。
ガチャでは星四で排出される(最大は星五)が、ステータスは弱くもなければ強くもない、気がつけば何体も持っていて素材の肥やしになっている可哀想な機体だ。
コックピットハッチが開きっぱなしで、中を覗けば、複雑な機器系統が目に飛び込んでくるが明らかに点滅していることだけは分かった。
「こいつ、動くぞ……!!」
彼は安心に身を任せコックピットに乗り込む。
人が乗り込むと勝手に閉じる仕組みなのか、ハッチは自動的に外の光を遮断し、コックピット内に光がともる。
「マニュアル操作……あるけど、あんまり当てにはできないな」
見るからに複雑だ。とてもじゃないが、動かせる気がしない。
《動乱:ブラッドゾーン》はロボットゲームとはいっても、戦略シミュレーションだ。実際にロボットを操作するわけではなく、マップ上のユニットを動かし攻略していく形式である。
故に、作中で《ストライフ》の操縦法など一切語られない。
「やってやるさ……もう一回死んで、人になれる確率がないに等しいんだ」
技術は確立しているはず。
《プルト》のような量産機なら、ある程度誰でも操縦できる簡易さでも不思議ではない。
闇雲に操縦桿を握り、ペダルを踏み込む。
「立ってくれよ!」
関節を軋ませながら、薄緑色の
黄色いモノアイの点灯は完全機動の合図。
それを見た上空の機体が、瞬く間に目をつけた。
「行きまーすっ!!」
◇
無茶だったのだ。
素人がこんなにも複雑な物を動かそうなど。
軽量かつ異次元由来の動力源 ホライゾンコアにより推力が半端ではない《ストライフ》は、戦闘機のごとく空を飛び回れる。
ビルとビルの間を縫うよう、敵性機体の追跡を逃れようとする。
敵機はエッジが目立つ、バイザータイプの複眼を持つ兵士のようなデザインの《
彼の駆る《プルト》はもう腕と脚を片方ずつ持っていかれた。
これだけ高速で空を舞いながら、少し身体に圧がかかるぐらいなのはテクノロジーのおかげなのだろう。お陰で、操縦自体には慣れてきた。
《プルト》は振り向きざまに、手持ちのマシンガンを乱射する。
だが弾は一弾もかすりもしない。
腕がないと、攻撃に慣れようにも慣れることができない、イコール、積みである。
「……《オブギミ》のひとつでもないのか……!?」
メインモニターを見ながら吐き捨てる彼。
《オブギミ》――《オブジェクトギミック》の略称で、ゲームの中でマップ上にあるオブジェクトを利用して敵にダメージを与えられるシステムのことだ。
そんな都合よくあるわけがないが、この《不確定戦域》においては例外だ。
《不確定戦域》はその難易度ゆえ、幾多のアップデートが重ねられてきた。
そこで明らかに変わったのが《オブジェクトギミック》の増加、だ。
普通のステージに加え、ここは《オブギミ》という救済措置が多いということだ。
「探せ……探せぇっ!!」
敵が放つビームライフルという卑怯な攻撃を避けながら、揺れる視界で懸命に《オブジェクトギミック》を探す。
暫くして、ようやく希望の光を見つけた。
強固であろう鉄筋の建設途中ビルから垂れる、放置されたクレーンががっしり掴んでいる鉄板の山。
わざとらしいが、《プルト》をその真下で止める。
敵はまんまとそれに引っかかり、剣を引き抜いて斬りかかってきた。
コックピットを貫かれかけるも、辛うじて残った左腕を空高く掲げ、マシンガンを連射した。
弾はクレーンのアームに直撃し、数発の後にへし折ることに成功。
落下する鉄板への反応が遅れ、即座に脱出した《プルト》の手前、崩落に巻き込まれ《L0-1》は撃墜された。
初の戦闘をやり遂げ、青年は荒く息をした。
しばらく操縦することを忘れてしまい、徐々に下降していく。
敵機が埋もれている鉄板の前まで来て、《L0-1》が完全に潰れている光景を目の当たりにした。
「……まぁ、しょうがない……よな」
普通なら初の殺しに狼狽えるところだが、ここに至るまでの苛烈さが、彼から普通の概念を取っ払ってしまったらしい。
「こんだけ死にかけたんだ、報酬は美味くあってほしいが……雑魚一体じゃあな」
雑魚一体でも報酬はあるが、大したものではない。
とは言え、いわば”初期状態”である彼からしたら、エンドコンテンツで入手できるアイテムは喉から両腕が出るレベルの代物だ。
「えぇっと……何か調べる機能とかないのかな」
マニュアルを凝視しながら機器を弄ると、メインモニターが緑がかり、スキャンモードに入った。
瓦礫の山をスキャンすれば、二つほど反応があった。
オプションパーツ
《アタッチメントRV-782》
*射撃力10%↑
*「ビーム武装使用時の攻撃力上昇」
《アタッチメントRV-782 》
*機動力10%↑
*「近接武装使用時の攻撃力上昇」
《追加基盤零六》
*防御力30%↑
「やっぱり渋い」
このオプションを含めた、効果にランダム性のある装備品が、《不確定戦域》を周回する理由になるのだが。
いいものだと装備効果が四個、五個はつくしもっと倍率もある。
この中で一番マシ――というか、一番必要性の高いのは防御力を三十%も上昇させてくれる三つ目のパーツか。
オプションパーツは機体そのものに取り付けるものだ。
それと同じように、プレイヤーに装備させる《パイロットコネクタ》というものもある。勿論ここで大量にゲット可能だ。
「死ぬ気しかしないが、ここで装備を整えるか」
操縦は素人、だが戦術においては違う。
原作知識という諸刃の剣を活かし、兎にも角にも生き残ることを最優先に動くのだった。
ソシャゲ世界に転生したら、いきなりエンドコンテンツにぶち込まれた件 聖家ヒロ @Dinohiro
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