第34話 最終回、夢の形。
ーエピローグー
ワカマツグループの急性期病院のサエキの個室に集まったナンマイダーのメンバーは今後の活動について相談していた。
ヌキナ「ソッカーもいなくなったし、怪人の噂も聞かなくなった。」
ワカマツ「もうすぐ卒業だし、一区切りだ。ここらで解散と行こう。」
皆が賛同する中、サエキは天を仰いだ。
サエキ「留年、負け組確定だなー、俺の人生。いいよなぁ皆は。」
ワカマツ「そう言うなよ。俺も留年なんだから。」
2人は苦笑いした。
サエキ「そうだ!ワカマツ、俺を工場長で雇ってくれないか?!」
ワカマツは片眉をあげ、口をとがらせた。
ワカマツ「だめだ、だめだ。人事権はおれにはない。」
ベッドで落ち込むサエキにワカマツが続けた。
ワカマツ「まあ、お前の右腕ならウチでどうにかしてやれると思うぞ?」
それを聞いた、サエキとフシミは目を輝かせた。
サエキ&フシミ「そうなの?!」
ヌキナ「シンペイ、どうするの?」
ワカマツ「サエキさえよければ、ワカマツグループの義体化手術の被験体をお願いしたいんだ。」
サエキ「もとに戻せるのか?!俺の腕!?やるやる!」
フシミ「あぁ、神様!」
ワカマツは二人のリアクションに苦笑した。
ワカマツ「まあ、時間が経てば、馴染むんじゃないか?最初はコントロールが難しいだろうが。」
???「就職の話かね?」
その時、サエキの個室に1人の警視監が入ってきた。
サエキ「警察?」
警視監「初めまして、機動隊員達を助けてくれて、感謝する。君達のおかげだ。」
フシミ「あなたは?」
警視監「警察庁の者とだけ言っておこう。ナンマイダーの諸君には今度、公安に、新しく立ち上げる怪人専用部隊の初代リーダーを任せたいんだがどうかね?」
ワカマツ「申し出はありがたいんですが、俺、会社が……」
ヌキナ「私も、その、夢があるし……」
警視監「おぉ、そうか、残念だ。そこの2人は?」
警視監はサエキとフシミを指していった。
フシミ「私は……子供がいるから……」
フシミはモジモジして上目遣いでサエキを見た。
サエキ「え!そうなの?!」
フシミはバックから陽性の印のある妊娠検査キットをサエキに見せた。
フシミ「……三ヶ月だって。」
サエキは嬉し涙を流して大いに喜んだ。
サエキ「俺、やります!やらせてください!生まれてくる子供のためにも!」
警視監「なら、決まりだ!今日から君は公安の一員だ!後日、辞令を渡しに来る!」
ワカマツ「やったな!サエキ!夢がかなったじゃないか!」
サエキとフシミは互いに抱きあって喜びあった。ヌキナもワカマツに肩を抱かれながら、その場でもらい泣きしている。
警視監はウキウキしながらその場を去った。
山の中腹にある道教施設ではお面の陰陽師達が何やら外へ行く支度をしていた。
エンノ「宮内庁か、いよいよだなぁ。」
陰陽S「文科省からも依頼が来てます。大学の孔子学院の跡地に陰陽座を開設したいとか。」
エンノ「官僚の連中も共産党の奴らに払う金がようやく惜しくなったか。」
それを聞いたバンコが高らかに笑う。
バンコ「機動隊で陰陽道が流行りだしたと聞いたばかりだが、もう、日本の中枢までの足がかりがついたな!」
お面の陰陽師「陰陽S。」
陰陽S「支度は整った。では、行ってまいります。」
陰陽Sと数名のお面の陰陽師達がエンノとバンコに一礼すると空間に消えていった。
道教施設に2人の翁たちの笑い声が響いた。
数年後、
ボサッツー「ありがとう!またのお越しを!メーン!」
コンビニのレジで女性客に無料のレジ袋を渡しボサッツーは軽くお辞儀をした。そこに、出ていく客とすれ違う形でスーツ姿のサエキが入ってきた。
ボサッツー「よう!ブラザー!調子はどうだい?特に右手の!」
サエキ「問題なしさ。ボサッツーも元気そうだな?」
ボサッツー「メンテナンスフリーだからな!後、20年は持つね!」
店内には聞き覚えのある声でテーマソングが流れていた。
サエキ「あ、ヌキナさんの声じゃん、これ。」
ボサッツー「どっかのレーベルでデビューしたんだってさ!知らんけど!」
知らんのか、そこは自分も知らないサエキだった。
ヌキナは渡米直前で、街でスカウトされて、そのまま、残って国内で活動をしていた。
時流に乗らない、あまりテレビを見る時間がないからかもしれない、とデザートコーナーで商品を物色しながらサエキは自身を振り返った。
サエキ『抹茶ロールは……あったあった。』
お目当ての商品を取って、レジへ向かう。
ボサッツー「三つ?離乳食外れたのかい?」
抹茶ロールが三つ。フシミと生活を共にしていく中、生まれてきた娘の舌はもちろん、サエキの舌もフシミの味覚と似てきていた。
サエキ「子供の成長は早いよ。」
ボサッツー「ハハハ、ブラザーも成人したばかりだろ?」
恥ずかしくなったサエキは顔を赤くした。
ピッピッピッ……
ボサッツーがリズミカルにレジのボタンを押す。
サエキが会計を待っている間に、レジ待ちの客が並び始める。
ボサッツー「オーナー!レジお願いしまーす!」
バックヤードから顔を出したオーナーに軽く会釈するとサエキは店を後にした。
街道には、はためく、日の丸のほかにタオを模した白黒の旗も掲げてあった。
サエキ『ずいぶん、街の雰囲気も変わってきたなぁ。平和だ。』
サエキのスマホのバイブが鳴る。
サエキ「キョーコからか?」
慣れた手つきで右手でスマホを取る。
サエキ「もしもし?」
フシミ『あ?パパ?帰りにダイジョーで5色いなり買ってきて?』
サエキ「分かった。他には?」
フシミ『あと……あ!オムツも。Mサイズの。』
サエキ「りょーかい。」
サエキはその足でウキウキしながらダイジョーへ向かった。
ワカマツ「お、サエキ。いらっしゃいませ!」
サエキがカゴを持ってダイジョーに入ると、野菜の品出しをしていたワカマツが挨拶をしてきた。胸には店長と書かれたネームプレートが安全ピンで刺さっている。
サエキ「ワカマツ!もう、店長かよ!」
ワカマツは照れて頭を掻いた。
ワカマツ「あ、そうだ!お前にこれを渡そうと思ってな。」
ワカマツはポケットから青とピンクの合わせて2つのブレスレットをサエキに渡した。
ワカマツ「俺たちはもういらないけど、サエキはまだ使うだろ?」
サエキ「え?いいのかよ?!」
ワカマツは頷いた。
ワカマツ「渡米の護身用にって思ってたけど、なくなっただろ?渡米。」
サエキ「やったぜ!ありがとよ!戦友!」
ワカマツ「喜んでもらえてよかったよ。店まわるんだろ?ごゆっくり、買い物をお楽しみください。」
サエキ「おう!じゃあな!」
サエキは5色のいなり寿司のパックを三つカゴに入れるとサラダの惣菜を取った。
サエキ「……買って帰るか。」
フシミ「あ、いたいた!リョータ!」
声に振り向くと、店の鮮魚コーナーにいるワカマツがサエキを指さしていて、小さい子供を抱っこしたフシミがサエキに駆け寄ってきた。
フシミ「コロッケも特売なんですって!買って帰りましょ?」
サエキ「あ、ホントだ。いつもの20円も安い!」
その時、フシミに抱っこされていた娘がサエキに抱っこをせがんできた。
サエキ『よっと。』「後はオムツだな。」
フシミ「行きましょう。」
娘を右手で抱っこして左手でカゴのトッテをつかんだサエキはフシミと共に、にこやかにダイジョーを回った。
ーおわりー
仏具戦隊 ナンマイダー 超絶不謹慎作家コウキシン @k0uk1s1n
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