「回る影法師」
人一
「回る影法師」
うしろの正面 だあれ?
「砂枝!」
「うわ、当てられたし。……で、こっからどうすんだっけ?」
「当てられた人は、中の人と入れ替わるのよ。
そして、当たるまでは出られない。」
「……なぁ、もうよくね?いくらグループワークっても、こんなん何回やっても変わんねえって。」
1人が痺れを切らして声を上げるが、周りの人間も気持ちは分かるとばかりに頷く。
……ただ1人リーダーの粗野を除いては。
「そんな諦めんなって。じゃ、俺がまた真ん中やるから!みんなもう1回だけ!な?」
粗野の言葉に、皆は渋々と従う。
中心に彼を置いて、ほか4人が輪になる。
そして歌い出した。
かごめ かごめ
~
うしろの正面 だあれ?
「うーん……じゃあ、鱈野!」
「ち、違うよ……」
「あれ?違ったか。まぁいいか。
じゃあ皆、今日はこれで終わりにして帰ろうか。」
「そうだな。じゃあ俺、先に帰るわ~じゃあなー」
「バイバーイ」
皆、口を揃えて別れの言葉を伝える。
まだ喧騒が残るグラウンドから、彼らは少しずつ帰っていった。
翌日のグループ会議での一幕。
「うーん……昨日散々かごめかごめをやったけど、別になんかある訳でもなかったな。遠矢は……今トイレか。
じゃあ鱈野、なにか見つけたものはあるか?」
「ごめん……何も無いかも…」
「うん、わかった。じゃあ竜木はどうだった?」
「え?あたし?いや、何も無いけど。」
「そうか、ありがとう。砂枝は?」
「発見は何もねーよ。けどよ、面白い噂をネットで見つけてよ……皆で試さね?」
「面白い噂……って何?」
思いもよらない発言に皆顔を向ける。
――ガララ
「すまん、すまん。戻ったけど……皆静かになって、なんの話してたんだ?」
「鱈野が面白い噂があるって言うから~」
「わ、私じゃなくて、砂枝君だよ……」
「?…砂枝、その噂ってなんだ?」
全員揃ったところで、少しの間を置き砂枝は話し出す。
「いや…ネットで見つけた噂なんだけどよ、かごめかごめって4人以上で夜にやるとヤバいんだってよ。」
「4人以上は私たちにピッタリだけど……」
「夜にやるって……ねぇ?」
「確かに、かごめかごめって昼間にやってもなんか不気味なのに、そりゃ夜にやれば怖いにきまってるじゃん。」
「いや!怖い雰囲気だけじゃなくて、試すと”実際にヤバい事が起こる”って話なんだよ。」
砂枝以外はまるで信じられない、といった表情を浮かべている。
「……噂が本当かはさておき、今行き詰まってるのは事実だし……皆、1回くらい試してみてもいいんじゃないか?」
「まぁ、1回くらいならね。」
「…私も……」
「異論なーし。」
「さっすがリーダー!頼りになるなぁ!」
砂枝は冗談めかしてそう言うが、目は期待で輝いていた。
「はいはい。それでそれを試すのは明日の夜でいいか?」
皆は問題ないと頷く。
「じゃあ俺が先生に言っておくから、ちゃんと来るんだぞ。」
そんなこんなで何事も無く会議は終わった。
そして、あっという間に件の噂を試してみる夜になった。
「よし。じゃあ、皆集まったし始めるぞ。」
かごめ かごめ
かごの中のとりは
いついつ出やる
~
うしろの正面、だあれ!
「遠矢だ!」
「違う。今回は砂枝だ。」
「そうか、じゃあ……外れたからもう1回だな。」
かごめ かごめ
かごの中のとりは
いついつ出やる
夜明けのばんに
~
うしろの正面、だあれ!
「竜木ちゃん!」
「違うし。てか、急にちゃん付けしてどうしたん?」
「うふふふ、ごめん。ちょっと楽しくってテンション上がっちゃって……」
「あぁ、そうなん?……まぁ、次始めるよ~」
かごめ かごめ
かごの中のとりは
いついつ出やる
夜明けのばんに
鶴と亀がすべった
うしろの正面 だあれ?
「今度は七沢君!」
「えっ?……誰だそれ?聞き間違いか?皆は知ってる人か?」
輪になったまま確認するが皆知らないと、首を横に振る。
「あ、粗野君……その七沢って人誰かなのかな?」
……返事は無い。粗野はただ楽しそうにニヤニヤと笑いながら揺れていた。
「……よし。もう本当に夜が深くなってきたし、次で最後にしようか。じゃあ、また始めるぞ。」
かごめ かごめ
かごの中のとりは
いついつ出やる
夜明けのばんに
鶴と亀がすべった
うしろの正面 だあれ?
「うーん……じゃあ、次は格山ちゃんだ!」
「おい!粗野、お前さっきからどうしたんだよ!噂があるからって、俺たちを脅かそうとしてんのか?」
「ねぇ!もう終わりにしようよ!」
「そうだよ、粗野君の様子もなにか変だし。」
「……あれ?なんで……手が離れないの?」
場が一瞬、静まり返る。
粗野のおかしな発言に加え、鱈野の言葉に皆一様に顔が青くなる。
「おい!鱈野お前もか!どうしてそん……
て、本当に外れねーじゃねーかよ……!どうなってんだよ!」
繋がれた手はまるで押さえつけられているかのように、ガッチリと繋がり離れそうもなかった。
緊張と焦りが互いの手から伝播していく。
……輪の中心から聞き慣れていたはずの、声が聞こえてくる。
「うふふふふ、ダメだよ皆。まだ僕は正解してないんだから……遊びは終わってないよ?」
もはや粗野とは思えないひどく幼く、歪んだ声に。
……ざらり、と空気が変わった。
「ふざけるなよ!演技はもういいだろ!」
「そうよ!さっさと終わらせなさいよ!」
皆思い思いに叫ぶが、粗野の耳にはまるで届いていないようだった。
「じゃあ、始めるよ~」
「おい、待てって!話をまず聞けよ!」
かごめ かごめ
かごの中のとりは
いついつ出やる
夜明けのばんに
鶴と亀がすべった
うしろの正面 だあれ?
「今度は……払辺くん!
え?また違う?
……じゃあ、もう一度だね~」
繋がれた手は、まだまだ離れない。
ぐるり、ぐるりと輪になり回る。
朝日が射すことのない、その場所で。
回り続ける影法師。
永遠に
「回る影法師」 人一 @hitoHito93
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