【30秒で読める小説】声なきこえを拾ってくれよう

kesuka_Yumeno

──君が言えない願いを、私が拾おう。受け取るか、返すか?

「何?訳あって、参拝理由を声に出せない、絵馬にも書けないだと?」


陽の射す森の奥、白き社の前に佇むその者は、笑っていた。ウインクとともに、ずるく、優しく。


「良かろう、それでも私が全て聞き届けよう。願うだけで良いぞ。」


三つの尾が風を撫で、金の髪が光をはね返す。その姿は、狐にも狸にも似て、どちらでもない。男か女かですら定かではない。


「対価は──身も心も、全て私に差し出すことだ。嫁ぐ覚悟があるなら、何もかも叶えてしんぜよう。」


冗談とも、本気ともつかぬ口ぶり。それでもその目は、真実だけを映していた。


「ああ、覚悟がないなら、帰って自分で戦いたまえよ?応援くらいしてやろう。」


そう言って差し出されたのは、手のひらよりも小さな、木彫りの守り。


無造作で、優しくて、少しだけくすぐったい。


…阿保らし。願いなんて、誰かに託してたまるか。


「戦ってやるか。」


空に向かって呟いたその声も、きっと、あの神は拾ってくれているだろう。

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