第10話 ノドカ、最高のディナーを楽しむ

「【龍王・バザン】……」


 うう、聞いただけでも強さが伝わってくるよ。

 体だってこんなに大きいし、牙も角も大きくて強そうだよ。


 鱗は宝石みたいにキラキラ輝いていて、見た感じ、鉄みたいな質感。


 こんなの相手に木の枝一本じゃ話にならない。

 でも、だからって脅しに屈する理由にもならないけどねっ!


「残念だけど、バザンさんのお願いを聞いてあげることはできないよ。だって私、フェンリルさんと契約したときに思っちゃったんだもん。これだけの広さの森を半分ももらえるなら、きっと楽しいことができちゃうだろうなって」


 例えば森を切り拓いてプールを作ってもいい。

 時間はかかるだろうけど、スライムちゃんたちは水分が好きだから大喜びだろうね。


 他にも森のモンスターと力を合わせて温泉施設を作ったり、スライム喫茶を作ってみたり、みんなが遊べる公園を作ってみたり、フェンリルさんのためにドッグランコースを作るのだって楽しそうだよ。


 そんな楽しそうで幸せそうな未来を、理不尽な脅しで奪われるだなんて絶対に許容できないよっ!!


 そんな私の想いなど知ったことかと言いたげに、バザンさんがフンッと鼻を鳴らした。


(下らんな。そもそもにして、弱者は強者に下るのが道理。お前が何を喚こうが、力が無ければ願いなど叶わぬのだ。しかし私たちは違う! ……確かに種族が増えすぎたというのは我々の都合でしかない、それは理解している。そのせいで領土が減少し、このままでは内争に発展しそうだというのも我々の都合だ。しかしそうならないために私はすべを考案し、そしてそれを実行するための力を持っている。――残酷に思うか? しかしな、それがこの世界の理なのだ!)


 バザンさんは吠えると同時に火炎の砲弾を放つ。その攻撃は私のほんの数センチ横を通過して、スライムちゃんたちの後ろにある大木に直撃した、その瞬間。


 ドォオオオオオンッ!!!!!


 振り返ると、そこに深い溝ができていたよ。

 そして大木はというと、跡形もなく消し飛んでしまっていた。


(今のは私が持つ攻撃手段の中で最も威力の低い・・・・・・・技だ。その気になれば覇圧だけで周囲一帯を消し飛ばし、お前たちを蒸発させることもできるのだ。そうしないのは、一重に私から弱者に向けての恩情に他ならない。できることなら、無益な殺生は避けたいのだ。そうでなければ、そのスライムたちがこの場所に逃げ込むことすらできなかっただろう――その前に倒されていただろうからな)

「うっ、ぅうう!」


 こ、こんなのってないよ。

 強かったらなにをしても許されるの?

 強かったらそれだけでワガママが全部通るって言うの!?


 そんなの、あんまりじゃない!!


 ふと、脳裏に前世の記憶が浮かぶ。


#


【おい、タイムカードはちゃんと切ったんだろうな?】

【は? お前、今が繁忙期って分かってんのか? 土日だからって休みなんてねーよ】

【俺は上司でお前は部下。これで話は終わりだ。下の人間の意見なんてな、会社では通らねーんだよ】

【とっとと外回り行ってこいや! 昼休憩? んなもんねーよ、適当にコンビニでパンでも買って5分で食え!!】


 そして私が倒れた時も。


【ちっ、面倒事おこしやがって、使えねぇな。オイ誰か、救急車呼んでやれ。なに、どーせタダの寝不足だろ。仕方ねぇから1日は休ませてやるが、それ以上は許さねぇからな】

【お前らもよく覚えておけよ。俺たちは社会人なんだ。大人になったからには責任っつーのが伴う。あんま甘ったれたこと抜かすやつは社長に言ってクビにしてもらうから、覚悟しとけよ!!】


#


「…………せない」

(……む?)

「強ければ全部が許されるだなんてそんな理不尽、私は絶対に許せない!!」


 正面から戦ったって勝てっこない。

 だったらどうするか――。


「みんな、逃げて!!」


 私はスライムちゃんたちに指示を出して、全速力でバザンさんに駆けていく。もちろんヤケになったワケじゃないよ。


 作戦なら、ちゃんとあるっ!


(……愚か者が。その命、焼き焦がしてくれるわ!!)

「やあああああああああっ!!」


 私は渾身の力で木の枝を放り投げる。

 けれどバザンさんは回避の素振りすら見せない。


 そりゃそうだよね、だってこんな物理的攻撃・・・・・、痛くも痒くもないだろうから。


(下らぬな。この程度、悪あがきになってすら……)

「当たり前じゃんかっ、だって最初ハナから悪あがきしようなんて思ってないんだからね」


 そして私は腰元に括り付けておいた香辛料の内の一つ、胡椒の袋を強く握りしめた。


 バザンさんはたしかに大きい。

 けれどその分、目も鼻も耳も身体に見合ったサイズになっているよ。


 大きな目は遥か遠くを、大きな耳は小さな音を、そして大きな鼻は微かな匂いも嗅ぎ取れるんだろうね。


 すごく優秀だと思うよ。


「でもね、時には優秀なのとが仇になることだってあるんだから!!」


 私が放り投げた胡椒の布袋はバザンさんの顔に直撃して、まるで煙幕みたいに周囲にぶわあっ! と広がったよ。


 そして次の瞬間。


(う、おぉ、お、お、ふえ、ぶええっくション!! ぐおお、ゲホッゲホッ! なんだ、なんなのだこれはぁ! おのれぇ、この私になにをしたぁ!!)


 バザンさんは何度もくしゃみを繰り返して、せき込んで、苦しそうに涙を浮かべているよ。


 やっぱり優秀な器官を持っていると、その分こういうのには過剰に反応しちゃうみたいだね。


「よし、この調子でもっと胡椒攻撃をしちゃうんだから!」


 けれど、そんな私を嘲笑うかのように、バザンさんが高らかに吠えてみせた。するとその全身が緑色の光に包まれて――。


(やってくれたな小娘! だが残念なことに、私は回復魔法も使えるのだ。状態異常などこのようにすぐに治療できるのだ)

「そ、そんな……」

(弱者にしては見事な一撃であった、そこは称賛しよう。だが、ここまで歯向かわれたのだ。もはや恩情はかけられぬぞ。次こそ塵となるがいい、龍炎弾ドラゴ・フレア!!)

「あっ……」


 もうダメだ。

 せっかく女神様に転生させてもらったのに。


 それなのに私、お父さんとお母さんのお願いを叶えてあげられずにここで死んじゃうんだ。


 うう、ごめんなさい。

 でも私、自分なりに頑張ったんだよ。


 迫り来る炎の弾。

 とても直視なんてできなくて、私はその場にへたりこんで祈るように目を閉じた。


 と、その時。

 聞き覚えのある優しい声が頭上から降ってきて、さらにはバザンさんの攻撃が何かに弾かれて明後日の方向へと吹き飛んでいったよ。


(なっ! き、貴様は……っ!!)


 私はおそるおそる頭上を見上げる。

 そしてそこに立っている人物の姿を見て、大きく安堵すると同時に、今度こそ腰が抜けてしまったよ。


「ル、ルインさん……どうしてここに?」

「フェンリルのヤツから連絡を受けてね。龍族の森への侵攻を察知したものの、肝心のバザンを逃がしてしまったというから、それでここまで来たわけさ。フェンリルのヤツにはあとで褒美をあげないとだな。お陰でこうして間に合ったのだからね」

(ぐっ、く! まさかこのタイミングで貴様が出てくるとは。しかし私とて龍族の王、時間を稼ぐことくらいは出来るハズだ! そして時間さえ稼げばすぐに加勢が)

「来るわけがない。それはキミが一番よく分かっているはずだ。相手は五貴聖の序列2位だよ? 王であるキミならばともかく、その他有象無象がいくら束になったって叶う相手じゃない。……争いは無益だ。いま退くというのなら、まだ見逃してあげてもいいけれど」

(ふざけるな。ようやく……ようやくフェンリルが他の者と契約を結んだのだぞ!? こんな機会、二度と訪れぬかもしれない。私たちは更なる種の発展のため、なんとしてでも領土を拡大せねばならんのだァ!!)

「仕方ない。こういうのは聖女様がお望みにならないから本当はしたくないんだけど……」


 ルインさんは心の底から残念そうにしながら、腰元に帯刀したロングソードの柄にそっと手を添えて――。


 間もなく両者が激突する。

 丁度そのタイミングで、私に天啓が舞い降りたよ。


「ちょっと待ったぁあ!!」


 私は前世でも出したことのない程に大きな声で叫んで、両者の間に割って入る。


 すると急な出来事に驚いたのか、バザンさんもルインさんも攻撃の手を止めてくれたよ。


 さっきルインさんが「争いは無益だ」と言っていたけれど、それには私も大賛成だよ。


 だったら、こっちから相手が納得するようなアイデアを出してあげればいいんだよ。わざわざ戦って血を流す必要なんて、どこにもないよね!


「えーと、ノドカさん? 一体どういうつもりかな?」

(小娘。せっかく拾った命、自ら捨てる気か)

「そんなつもりはありません。ただ、思いついちゃったんです。バザンさんの要望を叶えつつ、かつ私たちにも利益があって、その上で戦わなくて済む。そんなとっておきのアイデアを!」

(なっ、なんだと!? そんな素晴らしいアイデアが本当にあるというのか!?)

「う~ん、僕には想像もつかないけれど。ノドカさん、そのアイデアってやつ、教えてくれるかい?」

「もちろんです!」


 私は親指を立てて、それからとっておきのアイデアを二人に教えてあげたよ。


「へ……? ここにモンスターが住める街を作る、だって?」

(小娘よ。まさか本気で言っているのか?)

「もちろん本気です! だって、この森にはたくさんのモンスターがいるでしょ?」


 王都に向かうために泉に向かったときでも、緑色の小人モンスターや豚さんのモンスターがいたよ。他にも、蜘蛛のモンスターも見かけたね。


「そして山にはドラゴンさんがたくさん住んでいる。しかもフェンリルさんだっているんだよ? みんなで力を合わせたら、きっと全員が住める素敵な場所を作れると思うんです!」

「まぁ、時間はかかるだろうけど不可能ではない……のかな?」

(し、しかしだな。フェンリルのヤツが協力する補償なんてどこにも……)

「させます!」

(は?)

「なんとしてでも私が協力させます! だってフェンリルさん、私が作る料理に目がないですからね。美味しい料理を食べさせてあげたら、きっと私のお願いを聞いてくれますよ」

「はははっ。言われてみればフェンリルのヤツ、確かに食いしん坊だったな。……バザン、一度攻撃を加ええようとしておきながら手の平を返すのも都合がいいと思われるかもしれないが、どうだろう? ここはノドカさんの案に乗ってみないかい?」


 しばしの逡巡の後。

 バザンさんはまたもや大きく咆哮したよ。


 けれど不思議とさっきまでの威圧感は感じられない。

 それどころか、どこか安心感を覚える叫びだったよ。


(ノドカ、と言ったか。先ほどまでの非礼をどうか詫びさせて欲しい。数を増す同族、日に日に狭まる領土。龍族の王として問題解決を急ぐあまり、いつしか視野狭窄に陥っていた。まことに申し訳なかった、このとおりだ)

「よ、良かったぁ~~~。もしこれで断られたらどうしようかと思いましたよ」

「その時は僕が斬るだけさ。でも、そうはならなかった。それもこれもノドカさんのおかげだ、本当にありがとう」

「そんなそんな、お二人とも頭を上げてください。とりあえず目先の問題は解決したわけですし、まずはみんなで美味しいごはんでも食べましょう!」

「おお、それは名案だね!」

(うむ、親睦を深めるには共に食卓を囲うのが一番であるからな)


#


 その日の晩。

 王都での買い物を済ませた私とルインさんは、作業を分担しながら夕食作りに勤しんでいたよ。


 というのも今日の夜はお客さんが多いからね。


 まずはルインさん、そしてバザンさん。

 さらにはフェンリルさんまでやってきて、当然ながらルビちゃんとサフィちゃんもいるよ。


 さらには新しく加わった三匹のスライムちゃんの分も作らなきゃだからね。


 みんな、今か今かと料理を待ち望んでいてソワソワしているよ。


 私とルインさんは、料理が完成するたびに居間の窓から庭に直行して、テーブルの上にお皿を並べていったよ。


 オークの焼肉はもちろん、色とりどりの野菜を使ったサラダにとろとろのチーズフォンデュ、魚の丸焼きまでもが並べられて、テーブルの上は見る見るうちにすっごく豪華になっていく。


 さらにはルインさんの驕りでお酒まであるのだから、既にディナーが待ち遠しいよ!


 やがてすべての料理が並ぶと、私はルインさんに促されて辺りをぐるりと見回したよ。


 うん、みんなすごく穏やかな顔をしているね。

 

「準備はいい?」

 

 私が問い掛けると、それぞれが元気よく返事をくれたよ。


「それじゃ一つだけルールね? みんないろいろとあったかもしれないけれど、その事はいったん忘れること。あ、それから美味しい食事をちゃんと楽しむこと! というわけで、いただきまーすっ!!」


「いただきます」

『きゅぴーーっ!!』

[ぽよい!]

(うむっ、ありがたく頂戴しよう!)

――もちろん我は肉だっ、肉からいかせてもらうぞ!!


 とまぁこんな感じで。

 異世界に転生してから早くも四日目。


 私はもっとも賑やかで楽しい夜を過ごすことになったのでした。


「う~ん♡ お肉にお酒、やっぱりこの組み合わせはサイコーだねっ!!」



―――――――――――――――

ここまで読んで頂きありがとうございます!

これにて第一章完結、そしてこの作品も完結する運びとなりました。


理由はやはり閲覧数ですね。

第1話が400回近く読まれているのに対し、データの参照となる最新話の一つ前(今作の場合は第9話)は150PVとなっています。


1話から2話、2話から3話まではPVは少ししか下がっておらず、今回は行ける! と思ったのですが、3話から一気にPVが下がり、なんとか立て直しを図ろうとしましたが叶わなかったというのが現状です。


正直言うと自分はスライムが大好きで、今作品も書いていてとーーーっても楽しくて楽しくて仕方ありませんでした。

既に第2章も最後まで構想が決まっているくらいです。


しかしそれ以上に自分は結果に重きを置いていて、感情論では作家として成長できないと考えています。


今作は、自分は楽しかったけれど読者さんからは「つまらない」を突きつけられた作品であり、それが数字に出ています。


なのでその事実から目を背けずに、もっともっと成長できるように今作の失敗を糧に、今後はもっと面白い作品を掛けるように頑張ります!!


(ちなみに自分は第3話で勇者様を出したことが失敗だったと思っているのですが、「3話のここがつまらなかった」という意見をお持ちの読者様がいらっしゃいましたら、遠慮せずに仰って下さると作者としてはすごーく助かっちゃいます! どんなにきつい言葉でも(~~がつまらねーんだよ、〇ね)とかでも警察に行ったりしないくらい真摯に受け止める心構えはできていますので、もしご意見・アドバイス頂ける場合は遠慮も忖度も全くの0でお願いします(でも〇すは行き過ぎなのでお控えください)



ところでなんですが、閲覧数以外の推移はかなり優秀な部類だったので「タイトル・あらすじ・キャッチコピー」によって読者さんを引き付ける力、そして2話までの作品の空気感は正しかったのだと思います。


作品の方向性自体が否定されたわけではないので、これからも失敗を怖がらないで何度も挑戦していく所存です。


それから今作以降ですが、少しだけ新作の投稿を止めて「ダンジョンのお掃除屋さん」に集中しようと思っていますので、なにとぞご了承ください(裏では自分好みの作品書いて公募に出したりはするかもしれません)


では長くなりましたが、ここまで読んでくださった読者の皆様、今作を応援いただき本当にありがとうございました!!


超超超絶に悔しいですけど、絶対に絶対に結果を出して読者の皆様に報いてみせますので、どうかご期待していてください、ではっ!!!!!

 


 


 

 









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

過労で倒れた社畜OL、転生特典で「お家」をもらったので異世界の辺境を開拓してのんびりライフを満喫する~自由気ままに生きていたら可愛いスライムやモフモフたちに溺愛されて幸せです!~ 藤村 @fujimurasaki7070

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ