【短編】最悪な転生 〜被害者は俺と…〜 

起き抜けパンダ

最悪な転生

 突然だが、君達は好きなゲームはあるだろうか?そして、ゲームの主人公、あるいは他に登場するキャラになりたいと思った事はあるだろうか?俺はある。


 ある時はモンスターを狩る猛者、ある時は戦国時代の侍、ある時は何故か美男美女しか通っていない学園の生徒、気分を変えて魔王なんて時もあったな。


 さて…俺がなんで、こんな事を考えているのかというと…


ゲームこの世界を動かしていたアカウント消去され消え去りました。これにより、プレイヤーが直接動かしていた主人公、プレイネーム名前【ダンナ】の行動制限が解除されます。後はご自由に、お過ごし下さい〛


「やっぱり、逃げ出アカウントを消去したか。…どうしよう…今更、自由って…嘘だろ?プレイヤーバカがアカウント消したら本当、どうすりゃいいんだ…!!」


 ―数年前―


 社会人だった俺、刀堂 豊とうどう ゆたかはゲームをやり過ぎて寝不足のまま会社に向かっていた所、交差点の信号を見間違えて車に撥ねられて意識を失った。多分死んだんだろう。気付いたら、寝不足になった原因のゲーム『ファーム・アドベンチャー』のゲーム主人公キャラになっていた。


 ここまではいい。ゲーム世界への転生なんて、俺のようなゲーマーとしては願ったり叶ったりだ。が、それはの話だ。


 俺の場合、本当にゲームの中のキャラになってしまったらしく、体と口が勝手に動いて他のキャラと交流していた。


 いや、ふざけんなよ。プレイヤー他人が動かしてる存在に転生って…誰得だよ!?しかも、俺を操るプレイヤーが強引すぎる!なんで、高威力装備が買える金があんのに初期装備で第一エリアのボスに突っ込んでんだ!?この恐怖が貴様に分かるか!?おかげで5回も死を疑似体験した。ご丁寧に全て違うパターンで。あれ?俺はこの世界ゲーム内で死ねるのだろうか?それでも、プレイヤーはボスの動きを覚えたようで、やっとボスを撃破した。


 お〜お〜凄い凄い。俺ならあのボスは初期装備でも6分あればノーダメで倒せるがな!そして次のエリアに来たら普通は、情報収集するところを…なんで、全装備を外して武器屋と防具屋を探して売っ払ってんだよ!?


 いや、俺もゲームで似たような事をやった事があるけども!その間、パンツ一丁で行動してたんだぞ!?NPCに通報されて危うく騎士に捕まる所だったじゃねぇか!しかも、見つけた防具屋の店員さんは顔は笑ってたが、目は確実に変態を見る目だった…俺好みの娘だったのに…


 このゲームリアリティが高いからパンツ一丁は普通にNPCに通報されて騎士が飛んでくる。こんなの、このゲームをやるなら知ってて当然の常識だろう!?


 それで作った金で新しい武器や防具を買うなら少しはマシだったが…あろう事か、このプレイヤーバカ…防具屋で、ただの服を一着買って残りの金を全部…各店を回って女NPCの好感度アップアイテムに変えやがった…。


 なんで、そんな事だけ詳しいんだテメェ!このゲームは主人公の性別の選択から全てが始まる。プレイヤー主人公は聖なる樹に選ばれし者となり、戦闘・農業・畜産などをして村や町、最大規模で国を平和にしたり金を稼いだり、そして…恋愛が出来るのだ。しかも、攻略対象は全てのNPC!つまり、普通の恋愛から主人公の性別次第で薔薇も百合も楽しめるのだ。そして、これ重要。このゲーム、オートセーブしか出来ないのだ。更に一つのアカウントで一つのセーブデータしか持つ事が出来ない。


 ついでに言えば…R18ゲームだ。つまり、その…そういうシーンを見て楽しむ事も…出来る。


 …なんだよ?俺は純粋に戦闘を楽しんでましたよ?ストレス発散の為にね?本当ですよ?ウソジャナイヨ?


 コホン、その後プレイヤーバカが何をしたかと言えば…第一エリアに戻った。何故かは…言うまでもないな?そう!このプレイヤーバカは女NPCを口説く為だけに、わざわざ第一エリアに戻ったんだ!しかも、一人じゃない。第一エリアにいる一部の女NPC達を口説いたんだ!確かに、第二エリアから好感度アップアイテムを買う事が出来る仕様だけどさ?でも―


 …バカじゃねぇの!?次のボス戦どころか普通のモンスターとの戦闘も、これじゃあ出来ねぇだろうが!このゲームでは篭手を装備しないと殴ってもダメージ通らねぇんだぞ!?そう思っていたのは俺だけではなく…


「気持ちは嬉しいけど…ダンナ君、武器や防具はあるの?」


「プレゼントは貰っとくけど、ダンナ…アンタ…もう戦わない気?」


 そうだ!もっと言ってやれ!このプレイヤーバカに!すると、セリフ選択でが出てきた。


 ①あ…どうしよう

 ②キミの笑顔が見られれば満足さ

 ③戦いが怖くて…一緒に戦ってくれる?

▷④今夜一緒にベッドに入ってくれたら、いい考えが浮かびそうだ

 

 この時、俺の知らない選択肢が出てきた。④だ。いや、ゲーム後半には出てくる事は知ってたが、こんなに早く選択肢に出るなんて…隠し選択肢か!?マジで!?


 そして、さっきも言ったがこれは…R18だ、分かるな?この選択肢を特定の女NPCに対してやり、そしてヤッた。画面には光の線や湯気、モザイクがあっただろうが、俺にはバッチリ全部見えていた。感触もしっかりと味わい、ゲームではカットされるであろうアレやコレも全部堪能した。


 それでも、言わせてもらう。なんで人妻や未亡人しか狙わねぇんだよ!?いや、他人ひとの性癖だ。そこは、まぁ…いいよ。問題はなんで避妊しないんだよ!!リアリティが高いんだってば!…この先、大丈夫だろうか。


 ―数カ月後―


 そして運命の日…どうにか、ラストエリアまで来た。俺が死を疑似体験した回数は…聞かないでくれ。さぁ、ラスボスだ!って待て。確かこのゲームのラスボスは…


「私からあの人を奪った世界なんて滅んでしまえばいい。邪魔するなら、お前も死ね!」


 oh…やっぱりグラマラス未亡人キャラ。って事は…


 ①絶対に止めてみせる!

 ②じーーーーーっ

 ③くっ…なんてプレッシャーだ…

▷④ちょっと待って


 ん?どうした?いつもなら、②を選ぶバカが今回は何を考えてる?するとストレージから『死者の言玉』という超レアアイテムを俺に出させた。これは死者と少しの間だけ会話が出来るアイテムで俺はこれでラスボスの死んだ旦那と話をさせて弱体化させた後に倒した事がある。どうやら、バカにも知恵が付いたようだ。よかっ…


「アンタが死んで彼女は苦しんでる。アンタは彼女が苦しむ姿を見るのが望みか!」


『違う。僕も妻には僕の事は忘れて幸せになって欲しい』


「そんな!貴方を忘れるなんて出来ないわ!忘れるくらいなら死んだ方がマシよ!」


 …なんか話の流れがおかしいぞ?


「じゃあ、俺に彼女の事を任せてくれないか?絶対に幸せにしてみせる!」


 俺に何言わせてんだ、お前ぇぇぇ!!


『…本当だね?』


 おい、旦那ァァァァ!?何、OK出しそうな雰囲気出してんのぉぉぉ!?


「嫌よ!私は貴方の事しか愛さないし、愛せないわ!」


 そうだ、頑張れラスボス!本人の意思は大切だもんな!…なんでラスボスの事を応援してんだ俺…おかしいだろ?


「ならば俺に一日…いや一晩くれ。それで愛せないなら無理は言わない。その時は全力で貴女を止める!そして、笑顔にしてみせる!」


『…どうやら本気のようだね。後は君次第だよ?どうする?』


 いやいや、アンタはイヤがれよ!そして、止めろよ!死んでも旦那だろう!?何、くっつけようとしてんの!?バカなの!?それとも、寝取られて喜ぶ性癖をお持ちなの!?こうなったら…ラスボス!お願いだ拒否してくれ!!


「………はぁ…分かったわ。一晩だけ貴方にあげる。何も変わらないと思うけどね」


「変えてみせるさ。貴女には憎しみは似合わない」


 似合わないのはテメェが選択するセリフの数々を吐く俺だボケがぁぁぁ!!


『あ、そろそろ時間のようだ…妻の事を頼んだよ?聖なる樹に選ばれし若者よ』


「任せてくれ。絶対に笑顔にしてみせる」


 クソがぁぁぁバグでもなんでもいいから、止まれ俺の体!これ以上、喋るな口!そして、笑顔で消えるなラスボスの旦那ぁぁぁ!!やめろ、寝室に向かうな!俺のゲーム知識じゃあラスボスは落とせないハズだが…これで、何かの間違いでラスボスまで落としちまったら、聖なる樹がどう反応するか分からんぞ!?


 それでなくとも確か、一定数以上の存在から特別な好意を向けられると【不純なる者】って称号が付くハズだ。コレが付いたら聖なる樹に敵認定されて【聖なる樹に選ばれし者】の称号が剥奪されて、全ステータスが半減するのに!


 …計算上あと一人で付きそうだがな。なんで出会う人妻、未亡人全員を全力で落としに掛かるんだよ、プレイヤーこいつは。


 ―翌朝―


「…確かに貴方は私を愛してくれた。それは認めるわ…けれど、私の心は動かなかった。だから…」


「そうか…すまない。俺の力不足で貴女の心を更に傷付ける結果になってしまって」


 あ…っぶねぇ〜!これで落としてたら、ステータスが半減する以上のペナルティを負っていたぞ。だが、これでよし!ラスボスは攻略対象は攻略対象でも、戦闘での攻略対象だからな。恋愛そっちじゃねぇから!


「気にしないで…それじゃあ、戦いましょうか。私は奪われた恨みを少しでも晴らす為に、貴方は私から世界を守る為に」


 気を引き締めろよ?プレイヤーバカ。コイツは、この見た目で大斧を片手で振り回す馬鹿力を―


「え?なんで?」


「は?」


 …俺は何故、このプレイヤーバカを殴れないんだ。昭和のテレビも叩けば直るんだから人の頭も似たようなモンだろうに。


「いや、だって貴方は聖なる樹に選ばれた―」


「それが何?俺は言ったよね?〝全力で貴女を止める!そして、笑顔にしてみせる!〟って。一言も戦うとか、倒すとか、殺すなんて言ってないし、思ってないんだけど?俺は貴女に笑ってほしいだけ」


「…私も舐められたものね…分かったわ。なら私の笑顔の為に、今ここで死になさい!」


 プレイヤーバカァァァァ!ラスボス相手に俺に何言わせてんだお前ぇぇぇ!!ほら、大斧が振り被られてるぅぅぅぅ!!操作してるだけのお前は平気だろうが、目の前にいる俺は怖いんだよぉぉぉめっちゃ怖いってぇぇぇ!!何回まで死んで大丈夫なのか分からないから、出来るだけ死にたくないんだよぉぉぉ!!これで俺の意識が消えたら、どうすんだよぉぉぉ!!


「覚悟!」



[ブオォォン!]



 イヤァァァァァ!!!避けろぉぉぉ!!!なに突っ立ってんだぁぁぁぁぁ!!



[オォォォ―――ビタッ!]


 嫌だ!消えたくないぃぃ……あれ?な、何?た、助かったのか?


「何故、避けないの?」


「貴女の想いがその攻撃に乗っているように見えたからだ」


 死ねぇぇぇ!!俺じゃなく、プレイヤーお前が命賭けろやぁぁぁ!!


「ふ…ふふっ…あっはははははは!貴方、大馬鹿ね。でも…嫌いじゃないわ」


「それは光栄だ」


 おい…おいおいおいおい。ラスボスの雰囲気がなんか柔らかくなってる気がするんだが?!まさか…嘘だよな!?


「ねぇ…敗者の生殺与奪の権利は勝者が持つって事は知ってるわよね?」


「もちろん。俺は貴女と戦わないがそれが不戦敗扱いされるなら、俺は喜んで敗者になろう」


 だからぁぁぁ!実際に敵対してないプレイヤーお前が、それを決めるなぁぁぁ!


「そう、じゃあ私の命令に従ってもらうわ」


 カッカッカッ


 嫌だぁぁぁ!来ないでくれぇぇぇ!この流れはマズいって若干甘い雰囲気が出てるって!ここからどうにか戦闘ルートに戻るには…ハッ!いや、そうか!恋愛ルートと見せ掛けて、無理難題吹っ掛けて最後に殺されるパターンか!そうだろう?そうだと言って!頼むラスボス!!


 チュッ♡


「……私より先に死なないで。命令はこれだけよ。どう?守れる?」


 …は?俺、今何された?キス?キスされたの!?ラスボスに!?嘘だろう!?こんなルート、俺知らない!!え?ラスボス戦って、攻撃しないとなんの!?


「お安い御用さ、可愛い人」


 だ・か・ら!俺に似合わないセリフを選ぶんじゃねぇよ、プレイヤーバカ!どうなるんだよ、コレ!


 ―そして現在―


「ラスボス含めた全人妻、未亡人を落とした結果、その人数173人。そのうち妊婦56人、子供38人…これだけでもヤバいってのに、プレイヤーあのバカ…寝取った人妻達の旦那達に『この笑顔をアンタ達は何度見た事がある?』なんて言うもんだから…」


「おい、いたぞ!こっちだ!」


「げっ!」


 よく、こんな路地裏を探しに来たな。今すぐ逃げ…あれ!?もう囲まれてる!?


 うっそぉぉ…旦那達の瞳の中に憎悪の炎が見える…当たり前だな。同じ事されたら俺でも、そうなると思う。


「見つけたぞ、ヤリ●ンのクズ!よくも俺の妻を!…うっ…妻…を…グスッ…テメェは殺す!!絶対に!」


「十数年一緒にいて初めて妻のあんな顔を見た。あんな…幸せそうな…ふぐっ…許せねぇ!俺が幸せにするハズだったのに!」


«ぶっ殺してやる!!»


 わ~い、皆さん綺麗にハモりますね〜じゃねぇよ!旦那達武装してんじゃねぇか!プレイヤーの奴、妊娠が発覚した辺りから、あっちウロウロこっちウロウロ俺にさせてたが、子供が産まれて旦那達の殺気が最高潮に達した瞬間に自分だけ逃げ出アカウント消去しやがって!お前はそれでいいかもしれねぇが、俺は逃げられねぇんだよ!



「最悪だぁぁぁぁ!!!!」

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