第3話 出勤グ&ショッキング
9月5日(くもり、雨は降らなさそうな曇天)
もちろん今日も、日記をしたためましてよ。
今日のハイライト的な思い出は、お仕事中に起こりましたの。という訳で早速、そこに至るまでを記述しますわ。色々ありましてくたびれましたけれども、この日記くらいは続けてみせますわよ。
本日の始まりは雲。朝日を遮る分厚い雲、オフロードタイヤの様な分厚い雲でしたわ。おてんと様がいないとなると、随分寂しい朝ですわ。けれどもそんな気分は片足を上げる間にサヨナラです。曇天だけにどんでん返しな気分乱高下やもしれませんが、理由もきちんとありますわ。なぜなら今日は出勤日!会社の皆様と合う事ができる特別な日なのですわ!私の会社で働く者は、心の優しいお方ばかり。どんなお仕事もあんなお仕事も、何倍にもなって楽しめるという訳ですわ。
ウキウキと浮足立ちながらお出かけの準備をば……と思っていたらば既に会社についておりました。背中側には自家用車に変身したレインボー様の姿が、蒸気を吐き出し上機嫌なサムズアップまで見せていますわ。これにて私は理解しました。なるほど、出社出勤における大概の事柄を、レインボー様がなしてくださったのですわね。だからこそ私は、夢見心地のままに家を出られたという訳ですわね。感謝と言ってきますを伝えていざ車内、ではなく社内へゴーですわ!
視界に広がるはいつものオフィス、そしていつもの仲間達。おはようの声を響かせたらば、皆様私を見るやいなや、挨拶を返してくれますの。返しのお決まりはハイタッチ!さあ皆様に美しく返してやりますわよ!
まずは隣人でもあるオクラさんへノーマルかつ美しいハイタッチを1つ。お次は頭足類社員のカットさん、全ての触手にヨルサワ連打式ハイタッチをなせばにっこりと。続いては自販機大好きペンチ頭のウォーマーさんです。今日も自販機下部よりズズンヌンと登場!「驚かせてすみまへんな。昨日も塩分過多やったさかい」と、相変わらずにひょうきんですわ!そんな彼とは後頭部は柄に裏側ハイタッチ!……とまあ様々色々に私企業的モーニングルーティンを決め回りながら残すは最後の大物・おフクさん。恰幅のよいフクロウなお方で、心も体も大らかでフワフワな素敵な上司様。フクロウだからおフクさんという安直な精神呼称も許可してくださる寛大さは、彼が子供の頃の遊び相手であった頃からお変わりもございませんこと。柔らかな羽に負けぬシルキーなハイタッチで挨拶を締めましたわ。挨拶だけでもこんなに楽しくて賑やかだなんて、流石は私の会社を選んでくださった皆様ですわ!私の前、つまり父上が社長であった時からも、笑顔が絶えぬものであったと、何度も何度も聞かされてきましたからね。
さて挨拶も済んだからにはいよいよお仕事に着手をば。清掃に会計に家事代行に家電修理に廃品回収に学校用品販売に交通量調査にアドバルーン製作&レンタルにその他様々諸々にと、ああもうそりゃもう手広く幅広くやっておりますのが私の会社にございましてよ。さあ今日のお仕事は何かとPCを開いたところ、突如に窓から特大の銀塊が突っ込みましてよ!……と思いましたらそれは社員のフライトさんでしたわ。ギンバエ由来の立派な複眼と翅に、傷を幾つもこさえており普段とまるで異なるご様子。他のお仲間も集まりまして、様子を見つつ様子を伺い、何事かと問うたところ、絞り出される声には「……出た」とのこと。何が出たかと問えば「アイツらが」と。
私達は皆仰天いたしました。ここいら辺で"出た"と言えば、お化けなんかじゃございません。それよりもっと恐ろしいもの、悪名高きニードルフィッシュギャングですわ!彼らは光る物を集めて回る強奪犯で強奪班。空き巣、強盗、ひったくりと、「奪」や「盗」の付きそうな事柄は大体経験済みのお尋ね者達ですわ。フライトさんは廃品回収の朝帰りにて、積み荷の銅線あたりを狙われ彼らに襲撃されたのでしょう。なんとおいたわしいこと……。
このままで良いのかと。
フライトさんの手当てをなしながら、私は考えましたわ。危険な奴らが近所にいるとあれば、当然にフライトさん以外の皆様も危険なはず。社員を守り安全を確保することは社長の勤め、ですから、私が立ち上がらなくてはなりませんわ!
さあ、そうとあっては為すことは1つ。それはニードルフィッシュギャングへの厳言!どれだけ危険でも、せめて一言くらいは言ってやりますわ!「今日の廃品回収は私が」とことわりを入れて外に向かえば、この場の社員の皆が皆「お手伝いする」と申し出てくださいました。怪我したはずのフライトさんでさえも。ありがたいのは本当です。けれども、大好きな皆様を危険に晒す訳にはまいりません。気持ちだけ受け取りますわ!
声を背に受け駆け出るは外、そこではレインボー様の姿が。行きの際の自家用車の姿ではございません。速度に耐久にと優れたスーパートラック的運輸車両の姿でしたわ。流石はレインボー様。私の心に為すべきことに、全てにおいてあなたが傍にいますわね。おっと、いくら一心同体的な彼だとはいえ、今は感心の時分ではございませんわね。急ぎ乗り込み道を捉え、ギャングのたむろす個所へ飛ばさねば!アクセルを強く踏み込み、イザ出陣ですわ!……その際にバックミラーをちらりと見やれば、社員の皆が映りました。おフクさんやカットさんは息切れし、オクラさんは膝を抑え、ウォーマーさんに至っては荷台に乗ろうと前方跳躍由来の大転倒といったご様子でした。やや痛ましさもありますが、一旦は皆様耐えてくださいな。こんなにも想ってくださる方がいるだなんて、私はなんて幸せなのでしょうか。
燃えに燃えた気概のまま、あくせくアクセルを踏みクラッチを引き絞り突っ走りました。熱狂灼中無我夢中、前も周りも見えずぐわんしゃと気迫十二分。待っていなさい悪党の皆さん!
体感数分に満たぬうち、外も中も切り裂いた涯提圧の元に大音響、激突衝突の果てに見えるは、特大金属残骸の山でしたわ。ここは恐らくスクラップの山、あるいはゴミ捨てまたは置き場。光る物を探す者からすれば、宝の山に違いありません。ガラス越しに光るは何か、小さく光るそれは目玉で、そこにしゅるりと伸びつく身体、そいつが3、5体並ぶとあれば、やはり答は一つだけ。
そう、ニードルフィッシュギャングですわ。
私が彼らに気が付くや否や、向こうもこちらを認識しました。冠印のリーダーギャング、いやギャングリーダーを筆頭に、全体がずらりとにじり寄ります。されども私も、集団囲い込み戦法には屈しませんわ。眼圧に身体圧に怯まぬよう自己暗示をなしつつ、レインボー車を蹴破り脱出、痛がっていたレインボー様ごめんなさい、今はしばしの我慢を!そして前方への回転突撃を繰り出せたらと悔やみつつリーダーの真正面に衝突的対面を果たしましたわ。あまりの事柄にリーダー以下は皆足がすくむばかり、いきなりにして、私とリーダーとの一騎打ちへと相成りましたの。さあ再突撃にて一言言ってやりませんとと思い手と口と気概をバルバに構えましたが、それは向こうも同じこと。右手にパイプ左手にバール、いかついコートに光る牙と、リーダーどころかキング的な二刀流の構えを見せましたの。これには他のギャングも盛り上がり、一様に騒乱値をゴタ式増加を見せました。血気盛ん同士の決起、されども武器の差は歴然、対処に混濁した私に、レインボー様が防衛的救済ハンドを示しました。
けれども私は、今日の私は、その手を受け取れませんでしたわ。なぜならばこれは会社の問題、法人的には全くの他人であるレインボー様を、加担させる訳には参りませんわ!
並々ならぬ決意は、大啖呵となり放たれました。レインボー様は勇ましくそして優しい瞳にて、決意拝聴の意を伝えます。ありがとうレインボー様。大胆な大啖呵は当然にギャング達にも届き、むしろ攻撃の合図と変わり一斉に襲撃開始!目をらんらんと光らせて飛び掛かって参りましたの!ちょっと待ってと言いかけましたが、決意はそれを引き留めます。やっぱり逃げはしませんわ、けれども避けます!
私は立ち上がり時に伏せ転がり、逃げ回り叫び回り避け回り、スクラップなゴミ捨て場を懸命に駆け回りました。運動音痴でも危機的火事場の何とやらで存外に善戦、走って避けてたまにくぐり、スクラップな足場ながらくたびれることもなく、むしろ感じる暇も無く、めったやたらに逃げ回っては時おり物を投げて応戦、ヒットアンドアウェイならぬアウェイアンドアウェイにてどうにかこうにかたらりさらりとぎたいりました。からにさたりにときっと跳ねた先、走り回りて戻って来たのはレインボー様トラック。荷台の何かを武器にしようと、ひっくり返す勢いでしたわ。荷台の上から撃退を試み、ボールペンにガムテープ、定規に消毒液に排欣剤にメルジュース、色々引っ搔き回して放りましたの。大概のギャングは倒れましたが、リーダーは耐えきり迫ります。しかし荷台にはもう何も……。ここまでかと思いたくはない私は、必死の瞬きのすえ銀塊を発見いたしました。大きな銀色、それはフライトさんを想起させました。そうです。彼を想い立ち上がったのに、それを投げてなるものですか。放り投げるのは防衛投てき物で充分ですわ!
私はその銀塊を両手で何とか持ち上げ、よたよたと構えましたわ。「この銀の弾丸にて、あなた達を撃退してみせますわ!」と!えいやと投げた銀塊はリーダーにクリーンヒット!「うぎゃあ」&「痛い」の二重の撃退音声が響きます。……はい、二重でありましたの。リーダーは二つの声を持つ者ではございません。彼と銀塊を俯瞰してようやく気が付きました。あの銀塊は積み荷ではなく、フライトさんでしたの!
確かに私が会社を出る際に、皆様が乗り込もうと試みておりましたが、まさか怪我を受けた当人のあなたがそれをなすなんて!しかも気づかれずにですわ!いえそれよりまず、申し訳ございませんフライトさん!あなたを武器的にぶん投げてしまうだなんて!気を付けて気が付くべきでしたわ!涙を流す私に、傷だらけのフライトさんも堪えて、いえ応えてくださいました。「俺にトドメを譲ってくれて、サンキューな」と。何と寛大な御心の持ち主なのでしょうか!
そしてその一部始終、倒れていたはずのギャング達もしっかり確認なされていたようで、一部は涙を流しておりましたわ。リーダーもむくりと立ち上がり、「こんな根性の奴らには敵わん」と言わんばかりの眼圧を見せつけた後、仲間を引き連れスクラップの山に消えゆこうと。背を向けた彼らに、私は目的、言わんとしたことを思い切り打ちました。会社と社員には手を出さないでくださいますこと!と。
とにもかくにも、ニードルフィッシュギャングの一件は、一旦の解決を見せました。
フライトさんはレインボー様が治療を施し、会社に戻る頃にはほぼ復活。銀色の輝きも取り戻しました。私も彼も、社員の皆に迎えられ、泣いて笑ってからかわれて、心配したとも手を握られて、無事でよかったと撫でられて。溢れる程の愛を、皆様より賜りましたわ!会社も皆様も本当に大好きですわ!改めてお仕事に息巻いて、よい一日となりましたわ。
そして今したためている中、大事な事を思い出しました。
フライトさんへの襲撃時に奪われたものを、取返し損ねていると。……もう一度スクラップの山に向かうのは、流石に骨が折れますわ!会社なのにくたびれ儲けだなんて辛いですが、僅か一点の前向きもありましてよ。きっとフライトさんにとっては、怪我人にとってはこちらの方がよいのですわ。儲けが無い(もう怪我ない)訳ですからね。(第3話・終了)
ある令嬢の日記 @Thisis
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