番外編 激闘!ダフネとアラム
「ん……おはよー」
「坊っちゃま、おはようございます」
いつものタエの顔。いつもの声。
やっぱり落ち着く。
森に行った日から何日か経った日の朝。
今日はたしか、魔法の練習の日。
「もう朝食はできていますよ」
そういえば今、何時だろうか。
時計を見る。
9:05。
「あっ!」
もうすっかり練習の時間が来てる。
「食べてから行かれますか?」
「ううん!後で食べるー!」
「はい。では終わったら温めておきます」
「ありがとー!」
そうして今日の朝は、ドタバタと出ていく朝だった。
◇
出ていった中庭にはもう3人がいた。
今日の日の土は固くてすごく遊びやすそうだ。
「はいっ!」
カナンが手を合わせる。
「今日は特別に、これを持ってきたわよ~」
そう言って出したのは木でできた人形。
これがなんなのだろうか。
「お母様ーこれなぁにぃ~?」
「これはね、身代わり人形よ!今日はこれを使って、魔法対決をしてもらおうと思って」
「なるほど……実践ですか」
「そう!2人とももう同い年の子よりずっと先のことも覚えてるから、これからは使い方も覚えていきましょうね!それじゃあ位置について」
2人が離れて、互いに見合う。
そこから少し離れたところに人形が1体ずつ。
「2人とも、準備はいいー?」
「はい!」
「負けないわよお兄様!」
「怪我は代わってくれるけど、痛みはそのままだからね?それじゃあ位置についてっ!よーいドン!」
掛け声とほぼ同時、ダフネが地面に伏せる。
「ううっ!」
ミシミシと音を立てながら人形全体に小さなヒビ。
「《
音が止み、さっきのが嘘のようにするっと立ち上がった。
まるで、そこに壁があるかのように2人の間、中心で炎と氷がぶつかり合う。
「《
その中でひとつ、黄色い槍がアラムの方に突き抜けていく。
「くっ!」
たちまち炎の壁が立つが、するっと通り抜ける。
半身になるアラム。
しかし遅かったのか、槍が左肩をつく。
「うっ」
同時に削れる人形。
そしてしばらく応戦が続いた後、手を止める。
数秒沈黙が続いて───
「「ふー……」」
二人の前に出来上がる大きな魔法陣。
「《
「《
そうして、黒い炎と黄色い氷の塊が2人の前に出来上がる。
どちらも、さっきのやりあいが嘘のように大きい。
しかし、俺の目には別のものも映った。
アラムが後ろにした手の人差し指に黒い球。
炎と氷、2つの塊がすごい速度でぶつかり合う。
それと同時くらいに、球をぴょいっと指先で投げるように上空へ。
互いが前に進もうと競り合う。
その勢いは平らに広がっていき、そしてどちらも消え去った。
「ふう……」
「もーこんなんじゃ終わらな───」
言い終わる前に、黒い球がダフネの頭に落ちた。
「いてっ!」
ダフネの方の人形の頭にヒビが入り、粉々に壊れていく。
「しゅーりょー!」
カナンが割って入った。
「ふっ」
「えー!?ずるいー!」
駄々をこねるように地団太。
俺も、少しずるいように感じる。
「誰がお前相手に威力勝負するんだ」
「えー……」
「そんなことより」
2人は、カナンの方を向いて……
「どうでしたか?」「どうだった!?」
勢いよく聞く。
「……」
小刻みに震えてるカナン。
息を飲む2人。
「わたしの子供たち、すごすぎるんですけどーー!!」
興奮を隠さず、抱きしめながら叫ぶ。
なんだか俺まで嬉しい。
「んんーもうなんでこんなにすごいの!?」
「えへへ~私たちすごい?」
「ええもうほんっとに!まだ10歳と12歳よ!?」
少しだけ苦しそう。
とはいえ、ダフネは笑顔だし、アラムも照れてはいるけど嬉しそう。
「お、お母様……そんなことより反省点を……」
「もー今はいいじゃないお兄様ー」
「し、しかし……」
「んんーもうすごすぎー!」
カナンの、このらしくないといえばらしくない喜びは、丸一日続いた。
寛容少年と異世界師匠 ほつれ @hotsure
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。寛容少年と異世界師匠の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます