番外編 激闘!ダフネとアラム

「ん……おはよー」

「坊っちゃま、おはようございます」

 いつものタエの顔。いつもの声。


 やっぱり落ち着く。


 森に行った日から何日か経った日の朝。

 今日はたしか、魔法の練習の日。


「もう朝食はできていますよ」


 そういえば今、何時だろうか。

 時計を見る。


 9:05。


「あっ!」

 もうすっかり練習の時間が来てる。


「食べてから行かれますか?」

「ううん!後で食べるー!」

「はい。では終わったら温めておきます」

「ありがとー!」


 そうして今日の朝は、ドタバタと出ていく朝だった。



 出ていった中庭にはもう3人がいた。

 今日の日の土は固くてすごく遊びやすそうだ。


「はいっ!」

 カナンが手を合わせる。


「今日は特別に、これを持ってきたわよ~」


 そう言って出したのは木でできた人形。

 これがなんなのだろうか。


「お母様ーこれなぁにぃ~?」

「これはね、身代わり人形よ!今日はこれを使って、魔法対決をしてもらおうと思って」

「なるほど……実践ですか」

「そう!2人とももう同い年の子よりずっと先のことも覚えてるから、これからは使い方も覚えていきましょうね!それじゃあ位置について」


 2人が離れて、互いに見合う。

 そこから少し離れたところに人形が1体ずつ。


「2人とも、準備はいいー?」

「はい!」

「負けないわよお兄様!」


「怪我は代わってくれるけど、痛みはそのままだからね?それじゃあ位置についてっ!よーいドン!」


 掛け声とほぼ同時、ダフネが地面に伏せる。


「ううっ!」


 ミシミシと音を立てながら人形全体に小さなヒビ。


「《地の反発アンチグラビティ》!」

 音が止み、さっきのが嘘のようにするっと立ち上がった。


 まるで、そこに壁があるかのように2人の間、中心で炎と氷がぶつかり合う。


「《聖なる氷心の槍ホーリーアイスランス》!」

 その中でひとつ、黄色い槍がアラムの方に突き抜けていく。


「くっ!」

 たちまち炎の壁が立つが、するっと通り抜ける。

 半身になるアラム。


 しかし遅かったのか、槍が左肩をつく。


「うっ」


 同時に削れる人形。


 そしてしばらく応戦が続いた後、手を止める。


 数秒沈黙が続いて───


「「ふー……」」


 二人の前に出来上がる大きな魔法陣。


「《聖なる冷徹の塊ホーリークライオロック》!」

「《暗闇で吠える烈火カースドフレイム》!」


 そうして、黒い炎と黄色い氷の塊が2人の前に出来上がる。

 どちらも、さっきのやりあいが嘘のように大きい。


 しかし、俺の目には別のものも映った。

 アラムが後ろにした手の人差し指に黒い球。


 炎と氷、2つの塊がすごい速度でぶつかり合う。

 それと同時くらいに、球をぴょいっと指先で投げるように上空へ。


 互いが前に進もうと競り合う。

 その勢いは平らに広がっていき、そしてどちらも消え去った。


「ふう……」

「もーこんなんじゃ終わらな───」


 言い終わる前に、黒い球がダフネの頭に落ちた。


「いてっ!」


 ダフネの方の人形の頭にヒビが入り、粉々に壊れていく。


「しゅーりょー!」

 カナンが割って入った。


「ふっ」

「えー!?ずるいー!」

 駄々をこねるように地団太。

 俺も、少しずるいように感じる。


「誰がお前相手に威力勝負するんだ」

「えー……」


「そんなことより」


 2人は、カナンの方を向いて……


「どうでしたか?」「どうだった!?」


 勢いよく聞く。


「……」

 小刻みに震えてるカナン。


 息を飲む2人。


「わたしの子供たち、すごすぎるんですけどーー!!」

 興奮を隠さず、抱きしめながら叫ぶ。

 なんだか俺まで嬉しい。


「んんーもうなんでこんなにすごいの!?」

「えへへ~私たちすごい?」

「ええもうほんっとに!まだ10歳と12歳よ!?」


 少しだけ苦しそう。

 とはいえ、ダフネは笑顔だし、アラムも照れてはいるけど嬉しそう。


「お、お母様……そんなことより反省点を……」

「もー今はいいじゃないお兄様ー」

「し、しかし……」

「んんーもうすごすぎー!」


 カナンの、このらしくないといえばらしくない喜びは、丸一日続いた。

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寛容少年と異世界師匠 ほつれ @hotsure

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