すべての恋は消えます。
結婚しない限り別れるし。
結婚しても別れるかもしれませんし。
いつかは死別します。
それでも人は恋をせずにはいられない。
ひとときでも。
消えると知っていても。
それは美しい夢のように、人を幸せにするものだから。
この物語の〝私〟も〝彼〟との別れを経験したばかりです。
これは〝私〟が悲しみを抱えたまま家路について、家の扉を開けるまでの物語なのです。
恋人との別れに、心は千々に乱れても、主人公の〝私〟は知っているのです。
人生はまだ続きがあることを。
だから〝私〟は、進むのです。
人生は坂道に喩えられます。
紆余曲折。山あり谷ありのつづら折り。
それでも人は行くしかない。
〝私〟は、ちゃんと知っています。
だから、大きな声で扉をあけるのです。
明日の自分はもう泣いていないと信じているから。
夏の涼風のような爽やかさと、若い澄んだ切なさに満ちている物語が、ここにあります。
読めばあなたも気に入りますよ。きっとね。
切ない別れの物語。でも主人公の女の子の前向きさに好感が持てました。
1000文字という制限のある企画なので、出会いも別れた理由も書けなかったと、作者がこぼしていたように、別れる場面とその時の主人公の心情だけが描かれている。
だからこそ、6年も付き合って、なぜ別れなければならないのか、いつから付き合い始めたのか、いろいろと想像が膨らむ。
彼の浮気?いや違うな、それなら別れ話の後、手を繋いで改札まで行かないだろう。
主人公はまだ彼が好き。なら考えられる別れの理由は‥‥。チュンヒデみたいに遠く離れ離れになるから?
あ、すみません。チュンヒデは小田島さんの別の恋愛小説です。気になる方はこちらも是非読んでみてね。こっちもオンナゴコロを濃やかに描いてますよ。
何せ小田島さんと言えば、オンナゴコロの専門家みたいな方ですからね!
聖蹟桜ヶ丘。この名前を聞いただけで、頭の中で「スイッチ」が入る方は多いことでしょう。
言わずもがなの「耳をすませば」の聖地となっている場所です。
個人的には、この作品を読んで冒頭でこの地名が出てきたところで、「スイッチ」が入ってしまいました。主に頭の中のジュークボックスの。
しばらく「カントリーロード」が頭の中で流れ、すぐに文章を読み進められない状態に。「ちょっと! 雫ちゃん、歌うのやめて! 今、小説読んでるから!」と、頭の中の本〇陽子さん(キュア〇ラック)を黙らせ、改めて作品を読み進めることになりました。
あの名作アニメ映画の中では『感動のシーン』となる場所。でも、本編の主人公である彼女にとって、そこは「辛い思い出」の場所となってしまいました。
これは辛いな。幸せいっぱいのシーンと、自分の現状を比べてしまい、なかなか現実が受け入れられないかもしれない。
そして、その後でまた襲い来るもの。
それでも、そんな彼女はきっと幸せになれるに違いない。ラストまで読んでそう確信できる力強さに満ちていました。
彼女ももしかしたら、「この場所」の影響で頭の中に「カントリーロード」が流れることがあるかもしれない。でも大丈夫。あの歌の歌い出しも、とっても力強いものだから。