08-6・実家に帰省する馬車の中の子供の頃の思い出

朝になり、フィル医師とその助手、そして父と俺、ルファンが母の寝室に残っていた。

フィル医師が母を診た瞬間、その驚きようといったらなかった。

だがそれは当然だ。

俺たちも同じ反応をしたのだから。

父はフィル医師にいくつか質問され、光の精霊の気まぐれで「治癒の光」を施してくれた、とだけ伝えた。

まさか俺に精霊が宿ったとは、さすがに言えずに。

結果として母には何の異常もなく、完全に健康体だった。

その母が目覚めるのを、俺たちは静かに待っていた。

そして、その瞬間は訪れた。

母はゆっくりと瞼を開いた。


「ルージュ……」


父がボソッと母の名を呼ぶ。

母はゆっくりこちらに顔を向けた。


「あなた?……ルシェルにルファン……どうしたの?」


微笑む母に、父も珍しく微笑み返す。

その穏やかな空気に、俺たちもつられてほっと息をついた。


「ルージュ、実はな……」


父は、光の精霊が現れ治癒の光を施したという出来事を説明した。

その後、フィル医師が改めて母に、病気は完全に消え健康であることを丁寧に伝える。

すると、母は静かに涙を流した。

それは嬉しさと安堵の涙だった。

そして俺たちは、まるで小さい頃に戻ったかのように、仲睦まじい家族の空気を取り戻していた。


──そしてその後。

俺とルファンは父の執務室にいた。


「さて、ルファンも分かっているとは思うが」

「はい。兄上に天の光の精霊、セラフィムが宿った……ですよね?」

「そうだ。……ルシェルとルファンは知らないと思うが、歴代の獣人の中に二人だけ、魔法を使えた者がいた。そして現在もだ」

「まさか……?」


ルファンと同様、俺も自分の耳を疑った。


「これは、一部の権力ある獣人しか知らない事実だ」

「では、なぜ私たちに話すのですか?」

「それはルファン……六百年前の大昔だ。ひとりは勇者一行と共に戦った者……もうひとりは魔王になりかけた者だ」

「その話、本当なのですか……?」

「信じがたいだろうが、事実だ」


ルファンと俺は思わず視線を交わした。

俺はゲームの中で、自分が闇魔法を使えるようになるのを知っていた。

だがまさか、獣人の中に本当に魔法を使えた者がいたとは、正直驚きを隠せなかった。


「そして今、ルシェルに宿った精霊が千年の命を与えた……これは獣王様に報告するつもりだ。なにせ獣王様も魔法が使えるからな」


父の言葉に、今度は本気で耳を疑った。

獣王様が魔法を使えるなんて、聞いたことがない。

歴代の獣王は皆、ライオンの一族。

そして現在の獣王様は、二十七代目の黒いライオン「オルドリック・レイヴンクレスト」様だ。


「父上、獣王様は何の魔法をお使いになるのですか?」

「……風と火魔法だ」


まさかの2属性。

俺もルファンも思わず目を見張った。

その反応に父はふぅと息を吐き、無理もないという表情をする。


「よりによって光の精霊が宿ったとなると……ルシェルにはアストラル・アカデミーに入学してもらう」


「それは……!」

「大丈夫だ。獣王様も通われたことがある」

「でも、なぜ獣王様が魔法を使えることを知る者が少ないのです?」

「それは、全生徒の記憶をアストラル・アカデミーの校長が消しているからだ」

「……それは、私たちが知っていいことなのでしょうか?」


ルファンの疑問に、確かにそうだと俺も思った。


「もうルシェルに光の精霊が宿った以上、隠しても仕方あるまい」


父の言葉はもっともだった。


その後、俺とルファン、父の3人で長時間話し合った。

どれほど時間が経ったのか分からないほどだった。

あまりにも長くなったため、執事長が呼びに来て、俺たちは久しぶりに母を含めた4人で夕食を囲んだ。



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闇堕ちモブは主人公クラスに上がるとはどういうこと?! 海うみ海 @umiumiumi7996

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