第4話 キャラ被り

 俺に向けられる切っ先。ぎらりと剣呑に光を反射しながら、全く同じタイミングで迫ってくる。

 頭、胸、両方の太もも。綺麗に狙いが分けられ、生半可な動きでは回避出来ない連携だった。


 しかし。


「な、なんだこの手応えは……」


 門番は槍を突き出した姿勢のまま固まり、冷や汗を流す。


「ふん、これがデータの力だ」


 俺は額にブッ刺さった槍を掴み、引っこ抜いた。アホみたいに血が吹き出る。


「いや、滅茶苦茶に刺さってるじゃないですか!! ふん、じゃないですよ!」


 担がれているヒョロ女が叫んだ。

 こいつはアホか。人間を槍で突けば刺さるに決まってるだろうが!

 槍を奪って投げ捨て、体に刺さった他の槍も奪って放り捨てる。きゅっと筋肉に力を込めて止血した。


「刺さる深さよりも筋肉があれば、致命傷にはならない」

「オデコのは?」

「致命傷だが?」

「じゃあ死んでくださいよ」


 ごもっともである。


「俺は死んだ……」

「うーん、この」


 そんな俺たちのやり取りを見ていた門番たちは、じりじりと距離を取りながらも、訝しげな顔をした。

 一人が恐る恐る言葉にする。


「なんというか……敵意はなさそうだが……」


 他の門番は予備武器のダガーを抜きながら、油断のない目で俺を見た。


「いや、余裕をかましているだけかもしれない。強大な悪魔は人間で遊ぶという」

「なぁなぁ、あいつが担いでいるの、銀等級のセラじゃないか?」

「うっそだろ、おい。銀等級を生け捕りにするような悪魔か……」

「裸で血まみれだからな。人間を丸かじりしたに違いない」


 一瞬だけ受け入れられた空気感が、また不穏なものに変わっていく。

 本当に失礼な奴らだ。俺はヒョロ女ことセラを地面に下ろし、腕を組んだ。パンプアップした上腕二頭筋が、まるでカイトシールドのように体の左右に張り出す。


「この貧弱な悪魔祓い? とやらが森で迷子になっていたから保護しただけだ。この血は、アークデーモン? を倒したときのものだ」


 騒ぎを聞きつけたのか、門の周りに人が集まっている気配がした。門番と揉め始めたときからざわついていたが、それが一際大きくなる。

 ぎっ……と軋む音とともに、木の扉が開かれた。中から出てきたのは、大仰な装飾が施された、真っ白な僧服の男だった。螺旋の模様が随所に描かれ、高貴さと不気味さを両立している。


「なんの騒ぎだ」


 金髪をオールバックに撫でつけ、金縁のメガネを掛けている。まさかこいつ……データキャラか!?

 門番たちは男の視界を遮らないように、左右にさっと分かれた。敬意を示すように、足はぴったりと揃えている。


「これはこれは、金等級のライガス様! いえ、この人間を自称する悪魔が街に入ろうとしておりまして……」

「ほう……」


 ライガスと呼ばれた男は俺の顔をじっと見つめてから、鼻で笑った。


「なるほど、これは醜い。筋肉に特化した悪魔なのだろう。見たことが無いタイプだが……僕の信仰魔法の敵では無いな」


 俺の眉がぴくりと動いた。


「おいお前、今なんて言った?」


 思わず低い声が出る。ライガスも片方の眉を持ち上げた。


「おや? お気に召さなかったかな? 僕の信仰魔法の敵じゃないと言ったんだ」

「てめぇ……! 許せねえ……!」


 俺は思いきり右足を持ち上げ、四股の要領で地面に叩き付ける。凄まじい爆音と共に地面が揺れた。

 ライガスの顔が引き攣る。


「てめぇ、データにない相手を侮って良いはずがねぇだろうが……!!」


 イケメン×インテリ×データキャラみたいな顔しやがって、出てきたのはデータ軽視だと。俺への挑戦状とみて良いだろう。この挑発は効いたぜ!!


「くっ、意味不明なところで怒りだしたが……儀式と法秩序をもって宣告する! イカれる者は雷に貫かれるだろう!」


 ライガスは胸に吊るしたペンダントを握りながら宣告した。

 これは……データにある攻撃だ。


 条件付き信仰魔法。

 対象となる条件を絞っていくことで、魔法は威力を増す。


『この線を越えたら』『~~をしている者は』など、相手に聞こえるように条件を付与することで、回避出来るようにしてやる。そうすると、当てづらくなる代わりに、当たったときの威力が増大するのだ。


 なお、ブチ切れ決して冷めやらぬスーパーほかほか俺には、超絶威力の雷が降り注いだ。炸裂音と共に、目の前が真っ白に染まるほどのクソデカ雷が直撃。ビリビリする!


「痛い!!」

「生きてるゥ!?」


 ライガスはアゴが外れる勢いで驚愕した。

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データによれば、異世界にはヒョロガリばっか 乾茸なめこ @KureiShin

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