第3話 ヒョロガリの街

 女をぶら下げたまま、気にせず進んでいくと、200メートル進んだあたりでえぐえぐと嘔吐き始めた。


「おい、どうした!」

「うぇえ、馬車酔いみたいな……」

「なんて貧弱な。三半規管の筋トレが足りていない」

「さんは……なんですか……?」


 説明しよう!

 三半規管とは、耳の中にある何かだ。そこがザコだと乗り物酔いする。

 暴れ回るドラゴンの尾にしがみつくことで鍛えられるのだ。


「仕方ない、担いでやろう」


 べりっと脚から引っ剥がし、俵のように肩に担いだ。


「ケツが鼻に近い場所にあるせいでションベン臭い。まぁ、データによれば女はそういうの気にするから言わないでやろう」

「めちゃくちゃ言ってますよ!?」


「些末なことだ。しかし、開拓都市までまぁまぁ歩くな。お前のようなクソザコ新米魔法初心者が、1人で出歩く場所じゃない」

「全然ザコじゃないんですけど! 銀等級の悪魔祓いなんですけど!? 貴方こそ何者なんですか?」


 おかしいな。データとズレが生じている。

 この世界では銀等級の悪魔祓いはそこそこ有能というか、なんなら上澄み寄りだ。地球の感覚で言うなら、宅建士~社労士くらいに位置している。


「嘘つけ。銀等級はもっと強くて覇気と自信に溢れていて、角刈りでフチの細いメガネをかけていて、青いスーツ着て、ビッカビカの革靴を履いているんだぞ」

「不動産売買のエージェント!?」


 どうやらこの世界にも似たような存在がいるらしい。

 下らない話をしていると、眼前に樹木が絡み合う大きな壁が現われた。小さなトンネルが口を開いているが、ヒョロガリ1人分の幅しかない。俺では肩幅どころか胸の厚みで引っ掛かってしまう。


「なんだ、これは?」

「ふふん、そういえばコレがありました! 人間陣営の保険です! これで、貴方みたいな大型の悪魔は開拓都市に近寄れ――」

「ふんッ!」


 思い切り頭突きをしたら、簡単に粉砕出来た。俺が通れるサイズの穴があく。脆い壁だ。


「えええええええええええ」

「悪魔じゃ無くて人間って言ってんだろうが!」

「言ってない!!!!」


 データによれば言っていないはずである。あ、言ってなかった。


「どうするんですかコレ!? 悪魔が通り放題に」

「ふんッ!」


 周りの木をぐっと引き寄せ、良い感じにネジネジして埋めておく。完璧な修復を終えると、急に視界が開けていることに気がついた。

 厚み4メートル程度の木の壁を隔て、森と平原がすっぱり分けられている。平原というか、トウモロコシに似た植物が植えられている畑のようだ。


 森林を切り開き、新たな農地を作るという意味で、開拓都市なのだろう。


 平原の先には、背の低い建物がきゅっと集まった小さな街があった。


「おーー、あれが開拓都市。なんか感慨深いな」


 この世界に転生して5年目にして、ようやく人間界デビューである。この世界にはどんな人がいるのだろうか。今から楽しみで仕方が無い。

 開拓都市と名乗るからには、さぞ屈強な腕自慢たちが集まっているに違いない。


「ようやく人間に会える……」

「私も人間ですが!?」

「ヒョロガリは人間ではない」

「人間です、そっちが人外です!」


 肩乗りヒョロガリは慣れてきたのか、次第に元気な返事をするようになってきた。俺が危害を加えないと知ったからか、強気にツッコんでくる。


「俺のことをなんだと思っているんだ。れっきとした人間だぞ。そんな扱いをしていると後悔するからな」


 こう見えても前世ではそれなりの立場にあったんだ。この世界で出世したあかつきには、こいつも失礼な扱いをしたことを後悔するに違いない。

 俺は風のように駆け抜け、一気に開拓都市の前に立った。


 簡素な木の壁で覆われ、槍を持った門番が出入り口を守っている。お揃いの革鎧を身につけた4人の門番は俺を見た瞬間、一斉に叫んだ。


「怪獣だぁあああああああ!!」

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