第50話 我ら、秘密結社AssaX!!

 ダンディーズの暗殺組織が壊滅してから、わずか数日。


 それまで隠されていた真実が、怒涛のように報道された。


 夜街が長い時間をかけて集めてきた証拠が、週刊誌の一面を飾り、そこからは連日のようにテレビでも報じられた。

 告発されたのは、業界の裏に巣食う性加害、そしてそれを武力と金で握りつぶしてきた構造そのものだった。


 報道によって巻き起こった世論の波は、かつての"沈黙"を許さなかった。


 ダンディーズの看板は地に落ち、多くの被害者たちが声を上げはじめていた。


 モニターに映るワイドショーの画面。司会者が神妙な面持ちで、ダンディーズ崩壊と性加害の詳細を読み上げていた。


 その様子を、夜街はニジライブのスタジオ、ソファにふんぞり返って眺めていた。


「……ふふっ」


 小さく笑った。

 連日の取材で、寝不足。目は疲れていたが、深く満足げだった。


 隣であんこが、「よかったですね、夜街さん」と笑うと、園田も頷きながら手を叩いた。


「ようやく……ちゃんと、陽の下に出たって感じするわ」


「まぁ、暗殺事務所のほとんどを殺してしまったのは、正直やりすぎですけどね……でも、結果オーライということで。」


と、そこにワイングラスの音がして、奥のカウンターからひときわ場違いな優雅さで鷹見が現れた。


 優雅にワインを口に運ぶ彼女に、夜街の眉がピクリと動いた。


「……なんであんたがここにいるのよ」


「いいじゃない、仲間でしょ?」

 鷹見は涼しい顔で返しつつ、バッグから一枚の書類を取り出した。

「それに……こういうの、見せてあげたくて」


 スッと差し出された紙を受け取ったのは、あんこだった。


「え……なにこれ――あっ!?!?」


 思わず、あんこが声を上げた。


 その書類――それは、鷹見があんこに差し出して、戦闘直前にサインさせた“あの”契約書だった。


 しかも、そこにはしっかりと書かれている。


「鷹見アイは、VTuberグループ『AssaX』に所属し、ニジライブ傘下にてデビューすることとする」


「私、秘密結社AssaXの所属だってさ」

 鷹見は軽やかにウィンクした。


 園田が顔をしかめた。


「話、早っ……てか、私たちのグループかよ……」


 あんこは頭を抱えながら、泣きそうな声をあげた。


「いやいやいや、そんな細かく見てる時間なかったじゃないですかーっ!!」


 鷹見はにっこりと微笑み、あんこ、夜街、園田へと視線を巡らせた。


「よろしくね、先輩方?」


 その瞬間、夜街ががばっと立ち上がり――


「……あんこぉぉぉぉぉっ!!なにしてくれてんのよ!!」


「すいませんすいませんすいませんー!!」


 夜街の手があんこの頭を容赦なくぐりぐりと押さえつけた。


 騒がしいけれど、どこか平和な時間だった。




 秘密結社AssaXの新体制での初配信――

 鷹見レイを新たに加えた、新体制での初放送。


 スタッフたちがモニターや照明をチェックする中、ブースの中では、あんこ、園田、シャチ女、そして鷹見が立ち位置を確認していた。


「……本番五秒前!」


 ディレクターの声が響いた。


「5――」


 もう、震えることはなかった。


「4――」


 かつてはただの“推す側”だった自分。


「3――」


 今は、自分が“推される側”に立っている。


「2――」


 もう、あの闇に怯えることはない。


「1――」


 そして、幕が開く――


 その瞬間。


 ガラス越し、外からスタジオを見つめる夜街が、微かに目を細めて笑った。

 あんこの背中を支えている"推す存在"として、確かにそこにいた。


 あんこはその"推し"の視線に気づいて、小さく頷いた。


(私は、あなたを超える)


(伝説のVになるんだ)


 その思いを胸に、彼女はマイクに向かって一歩踏み出した。


 そして、声をそろえて、宣言――


「我ら、秘密結社AssaX!」


 高らかな宣言が響き、まばゆい光がブースを包んだ。


 全ての始まりであり、全ての決着。


 そして、ここから、彼女たちの新たな物語が始まる。


 ――完

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【完結】推しのVTuberを殺したい!! Arare @arare252

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